最近、本を読んでいると、途中で眠くなってしまい、いつの間にか手から本が滑り落ちているということが多くなってきた。そこで、アマゾンのオーディオブックを試してみることとした。1か月の無料体験、どの様なものか試してみても悪くないだろうと思い、申し込んでみた。
アプリをインストールし、どの本にしようかと思案したが、とりあえず沢木耕太郎の「深夜特急1」を聴いてみることとした。ナレーターは斎藤工で、長さは7時間44分。ちょっと長いかとも思われたが、内容が旅の話とすれば、そんなに疲れはしないだろうと判断し、聴き始めた。ぼーとしながら聴き始めたが、次第に引き込まれて面白くなり、途中何度か中断しながら、3日で聴き終えた。
聴き終わった感想からすれば、「本を聴く」のも悪くはないというのが正直な感想だ。実際に読んでいる時のように、眠くなることは無かったし、斎藤工の朗読もまずまずだ。声だけでは、実際に文章を追っていくのに比べ、感じるものに若干の軽さは否めないものの、気軽に聴き始められる利点は大きい。次は、何を聴こうかと楽しみになってくる。
「深夜特急」は沢木の体験に基づくノンフィクションで、「深夜特急1」はその旅のはじめである香港・マカオ編である。若者の無計画で好奇心旺盛な旅の様子は楽しいし、全てが本当かどうかは分からないが、かつてバックパッカーのバイブルと言われたのはよくわかる。
聴き終わったあと、自分の「旅」を思い返してみた。自分には沢木のような冒険の旅はないが、大学1年の夏休みに、アルバイトで金を作り、寝袋持参で京都・金沢を旅したことがあった。なんのあてもなく京都に向かったが、最初に訪れた東本願寺で一人旅の女の子と出会い、一緒に京都の名所を巡った。彼女も宿の予約は無かったが、女性一人で泊まれる宿をやっと探し、宿まで送り届け、自分は野宿した。翌日、たまたま入った喫茶店で、大学の演劇部の先輩女性に偶然出会い、彼女から金沢の話を聞き、急遽金沢に向かった。金沢では卯辰山にある学生の下宿を兼ねた民宿に泊まった。夕食時に、そこに下宿している学生の一人と知り合い、彼の部屋で夜遅くまでいろいろな話をした。翌日一緒に喫茶店に行った際、関西方面では「アイスコーヒー」を「レイコ」というのを初めて知った。米軍試射場のあった内灘海岸までは一人で行ったが、内灘駅から海岸までの道は誰もおらず、夏の日に照らされた細い道が、白く長く続いていたことを鮮明に覚えている。
社会人になってからの旅は、ほとんど仕事がらみ、いわゆる出張がほとんどで、そのせいか記憶に強く残っている旅がほとんどない。特にひどいのが、人を引率しての旅で、訪ねた場所を全く覚えていないところがある。例えば、ブラジルからの研修生を連れた「研修旅行」では、奈良の唐招提寺や薬師寺を訪ねたにもかかわらず全く覚えていない。行程表には、広島、伊勢神宮、京都、奈良とあり、唐招提寺や薬師寺が明記されているので訪ねたことは間違いないのだが、全く記憶にない。
国内ばかりでなく、海外でも引率した旅行ではそうしたことがある。20数名を連れたアメリカ西海岸の旅で、添乗員は1名いたが、事務局は私ひとり。ロサンゼルスのディズニーランドやナッツベリーファームを訪ね2泊した後、サンフランシスコに向かう旅であったが、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを訪ねた記憶が全く抜け落ちている。有名な観光名所であるにもかかわらず、訪ねた記憶がないのだ。先日、当時の写真を見返して見たら、私の撮った写真にはゴールデンゲートブリッジが堂々と映っている。ゴールデンゲートブリッジを背景に団員たちが映っている写真は、私が写したものに間違いないのだが、なんとも不思議である。モントレーやカーメルもほとんど覚えていない。
引率という責任感から余裕がなかったのかも知れないが、自分で計画を立てたわけでもなく、自分のお金を出したわけでもない旅行とは、所詮そのようなものなのかも知れない。