”気ままな…ホルン道楽”

「ビニール傘の貴公子 第3話」第11章 ブレインの謎







ビニール傘の貴公子 第3話

第11章 ブレインの謎

早いもので、新黒屋での出来事から半年が経ちました。大学は春休み。
講義はありませんが、研究熱心な学生さんのために食堂は開いています。

僕と愛は図書館で調べものがあって、朝から大学にきています。。

そろそろお昼時。
僕は一足先に学食で休憩中です。
もっとも、愛とはキャンパスでは単なる顔見知りという感じでふるまっていますので、一緒に学食に来ては不自然というわけですけどね。。。

いつもの真ん中あたりの(四人掛けの四角いの)白いテーブルに陣取り、出入り口がよく見える側の席に座って、僕はのんびり自販機の缶コーヒーを飲んでいました。昼食は帰ってから愛と食べるつもりですからね。

するとまもなく同期生の悪友二人が食堂に入って、すぐさま僕に気づいて、こちらに近づいてきました。

「食べるために学校に来たのかい?」と、僕は挨拶がわりに声をかけたら…
席に着くやいなや、開口一番、新学期からの家庭教師のアルバイトをさがしに今日も学生課にきたんだと古田はため息をついた。
小林と一緒に学生課の掲示板を見に行ったら、こんどこそはと思うような、条件の良さそうな求人があったので、さっそく職員さんにアポをとってもらい夕方に訪ねるという。
ならば、よかったと僕は思うのだが、
訪問して断られたことがたびたびだから心配だという。

そこへ小林が、カウンターから大盛りカレーを2皿持って来て話に加わった。じゃんけんに負けての奉仕サービスだと笑った。

まぁ、小林と古田の共通点と言えば、田舎に帰る旅費を惜しみ、休みの間は毎日学食に通っている苦学生。
僕も少し前まではそうだったので、古田、小林とは、悪友の中でも特に話が合います。

小林のバイト先は…と聞いたら、同じアパートの(卒業した)先輩から引き継ぎさせてもらいラッキーだったと、ちょっと申し訳なさそうです。

まぁ、僕は、というと…家庭教師はもうやっていませんが、その代わりに近未来ラボ2での調査任務に追われています。
それって仕事?…って自問自答することもありましたが…
…まぁそんなことはたいした問題ではないのです。純粋に自分の能力が人の役に立っていることが嬉しく、誇らしく思うこの頃なのです。
愛の家族と住んでいるので金銭面も含め、なに不自由なく暮らしています。
いっとき悪友たちに愛のことも含め、少しくらいなら打ち明けようかと悩んだこともありましたが、国家安全に関わる最高機密機構の一員としてそれはできません。でもね。友達にちゃんとした説明ができないのは仕方ないけど、絶対に嘘はつかないように心がけてはいるんです。僕にも良心はありますからね。
それで…まぁ、言葉を選んで、なんとかぼかして説明して、あとは聞いた相手のご想像にお任せしています。

例えば、引越した直後、悪友たちが遊びにいきたいと迫ってきても、もちろんやんわりと断りましたが、その時は…。
「親父の知人から、一緒に住まないかと頼まれたんだよ。。。
調査関係の仕事をしている人なんだけど、僕のことを気に入ってくれて、アルバイト代くらいは出すからというので引き受けたんだ。まぁ、一口で言えば、まかない付きのアルバイトって感じだね」…っていう風にです。

…こんなことを思い返していたら、、
なにやら目の前では、小林が古田に、新しいバイト先へ行った帰りに、うちのアパートに来て呑まないかとしきりに誘っていました。

「初めが肝心だから、一度帰って着替えたらどうか」とか、「穴あきジーパンではまずいよ」…とさらに小林。
僕も「散髪したほうがいいのでは…」とか、いろいろ二人で助言して励ましました。
それでも古田はすでに不安いっぱいと顔に書いてあったのです。

そのときでした。
食堂の入り口付近に愛の姿が見えたのでした。(すでにホットラインで連絡は入っていましたが…)
愛は(たった今、僕に気づいたフリをして)、僕に軽く会釈をして、微笑んだのです。

すると、何を勘違いしたのか、今まで、どよ~んと曇っていた隣席の古田が突然明るく輝いたのです。

「やっ、やった! 天使が俺に微笑んだ!」と声を弾ませました。

「マジかよ~古田!  顔が赤いぞ。」と小林がおちょくったのですが、そんなのおかまいなしの古田でした。

「今日はいい事ありそうだ!」「そう思うだろう?  山口!」   (山口とは僕のことです)
なんだか、古田は急に元気になったのでした。

僕はすかさず返答しました。(ちょっと嬉しかったのですね。愛を天使だなんていうもんだから…)
「彼女は岡村愛さんって言うんだ。電車で見かけることもある。」
「帰る方角が同じでね。話をしたことも、もちろん…ある。」(ちょい得意げ)

「ふむふむ。。名前を知っているということは…さては、、山口のタイプだな?」と小林。

「ん~…まあな。」

「それにしても、実に可愛いなぁ~。天使のような微笑みだったなぁ~」と古田はまだ興奮しています。
すでに愛は食堂のカウンターにいましたが、古田の視線は愛に釘付け状態。

「おいおい、古田よ! お前…ほの字か? …でもなぁ~ あんなに可愛いんだ! おそらく彼氏がいると思うぞ。」
「なぁ~山口…。お前のことだから、その辺りのことは、聞いているんだろう?」と小林。

「ん~…まあな。」
・・・・・ちょっと間があった。 「ごくん」…古田は生つばをのんだ。
ちょっとじらして、僕は冷酷につげた。。

「実は…岡村愛さんには…フィアンセ(婚約者)がいるんだ!」
またしても・・・・・ちょっとした間があった。沈黙だ。。。

それから、ため息まじりに…「そ、そうだよなぁ~。 あんな子を世の男性が放っておくわけないよなぁ…」と小林。

「い、いいじゃん、そんなの。 。とにかく俺はあの笑顔に元気をもらった!」と、古田は自分に言い聞かせるように噛みしめた。

ヤケに前向きなことを言うんで、いじらしくなり、「せっかくだから、こちらの席に誘ってみようか?」…と僕。

すると、すぐさま二人の熱い視線を感じた。
「頼む。山口さま!  俺に天使の微笑みを…まじかに拝ませてくれ。バイトの面接もうまくいきそうな気がする。」

「とかなんとか言って、お前も話がしたいんだろう?」と小林も乗り気の様子。

そこで、僕は仕方なさそうに席を離れ、窓際の席でひとりミルクティーを飲んでいた岡村さんを連れて戻ってきた。

僕が手を差し出し、彼女のために椅子を引いた。
すると岡村愛さんは、ティーカップを片手で持ったまま、古田のはす向かいの席に、つまりは小林の隣側によそよそしく座った。
僕の真正面からは、いつものいい香りが漂った。

そういえば、確かに愛は…いつもに増して輝いている。
『さては、シールドを弱めたなぁ…』(と、僕)

『ふふふ…ほんの少しよ。10%!』(もちろん愛です)

(『』は、僕と愛のホットラインです。誰にも聞こえません。)

彼女は上品にティーカップをテーブルに置いてから、ふっと顔を上げ、それから満面の笑みを浮かべて…
「こんにちは!  初めまして、岡村愛です。」
みるみる古田の顔面は…まるで高熱でもあるかのような…状態に激変した。ゆでだこみたいです。

さぁて…
ここで少し、岡村愛の特殊な能力について触れておきます。
まぁ一口で言うと、耳がいいこと。
そして気配を消せること。
女性は往々にして地獄耳…ですけど、
愛のそれはハンパではありません。
しかも近頃はますます感度が高まったようで、補聴器(増幅装置)は不要となりました。
いままでみたいに(補聴器を)長い髪でカモフラージュする必要がなくなったのです。
それは僕が思っていた以上に、愛にとってはとても嬉しいみたいです。

ボーイッシュなショートヘアで大学に来たのは今日が初めてでした。みんな振り向きます。
図書館の職員さんからも、4月からの新入生と間違われたくらいでした。
そんなわけで、愛はまるで新一年生になったみたいと、周囲の反応を楽しんでいました。
すれ違う学生さんたちのひそひそ話が聞こえるみたいです。

余談ですが、愛はヒトの耳には聞こえない周波数帯をもキャッチできます。
でも普段は制御してますから、そちらに意識を向けなければ日常生活には差し支えないとのことです。

それと、もう一つの能力…
僕はつい最近までは…周囲にバリアみたいなものを張り巡らして、単に気配を消して身を守る能力だと理解していましたが、次第にそれは氷山の一角だったことがわかりました。
実に奥の深いパワーが秘められいたのでした。詳しくはそのうち説明することにして…

さて、ここからお話の続きです。

いまや古田は…
いや古田だけではありません。
クールな小林までも、いつもと様子が違うのです。

二人とも天使のような岡村愛さんを目の前にして、顔を赤らめ、身体の動きがぎこちないのでした。
身体がカチコチ。緊張のしすぎです。
まるで売れっ子スターみたいな凄いオーラなのですから…無理もありません。

『愛! 輝きすぎ! まぶしすぎるんだよ。。シールド弱めすぎ!』

『ふふふ…なんとかしますわね~』

すると、愛は椅子に座ったまま、右手をすうっと天井に向けてかざし、それから人差し指で、ゆっくりと宙に円を描いたのでした。
古田と小林は、きょとんと、指先を見つめていました。
くるくると、何度か繰り返すうちに…
不思議なことに…二人の表情は次第に柔和になったのでした。

「ふふふ…落ち着きまして?」 愛は微笑みかけました。

「なにかのおまじないですか?」と小林。
愛は優しくうなずいた。

こんどは古田が、堰を切ったように話しかけました。
「は、はじめまして!  お、俺……いや…ぼっ、僕は、、古田、古田肇…で、です!」

すると、間髪入れずに小林がツッコミます。「古田! いつもの 俺!… の方が、おまえらしいよ。」
「あっ、失礼しました。わたくしは小林…。小林保と申します。はい!」

「なんだよ小林! おまえこそ。。わたくし…とか、かしこまって!」と古田の反撃。そして笑いの渦。。

僕は、悪友たちが愛との距離感を意識せずに、普段どおりに戻ったので、ほっとしました。
それから4人はなごやかに会話を楽しむことができたのでした。

やがて家庭教師の話題がひと段落したあと、古田は思い切って…岡村愛さんに尋ねたのでした。真顔でした。

「婚約者がいらっしゃると、山口から聞きましたが、それは本当ですか?」

『まぁ、健ったら…』

愛は…目をまあるくして、微笑んだ。
そして、ゆっくりとうなずいた。「ふふふ…はい。本当ですわよ!」

古田と小林はちょっと驚いた様子だった。
少し間があった。

フィアンセがいるとの前情報を僕から聞いていたので、落ち込んだ感じはなかったが…新たな疑問が湧いたらしい。
「単なる恋人ではなく…どうして結婚を決めた相手がいるのだろう」と…そんな声が聞こえたような気がしたのです。

すると愛もそれを察したのか、ゆっくりと、自分にも言いきかせるように話を始めましたのでした。

「まだ学生なのに、なぜその彼氏と結婚しようと思ったのか。。お聞きになりたいんでしょ?」

古田と小林の目が輝き、そして頷いた。

「いいですわよ。その質問にお答えしますわ。。だって普通に考えたら、そうですわよね。この先もっと素敵な出会いだってあるかもしれないわけですし。。。」

「ホントに、いいんですか?  初対面なのに… 」小林はちょっとびっくりした様子。

「とても…プライベートなことだし…それに俺、結婚できるかどうかもわからないし…参考になるかどうかも…」と今度は古田。

「いいわよ。だって、古田さんは、アルバイト探しの苦労話を…なにも包み隠さず、愛に本心でお話をしてくれたわ!」
「それと、小林さん。。ちょっと毒舌ですけど、お友だち思いの優しい方よね。」
「それにね…お二人とも、まるで純情青年みたいに…愛を見つめて頬を赤らめてくれたわ。光栄ですわ!」
「だから…今度は、愛の番よ。」
そういうと、すうっと…今度はさっきとは反対側の、そう…左手を上にあげて、人差し指をくるくると回したのでした。

すると、まるで催眠術にでもかかったように、古田と小林は瞼を閉じてしまったのでした。
それから、愛は二人に優しく語りかけはじめたのです。
「彼は、、とりたててハンサムとか…すごく優しいとか、ましてやお金持ちの御曹子とかでは、ありません…」
すぐに古田と小林はコックリとうなだれてしまい、寝息が聞こえてきました。
「・・・・」「・・・・」

『そうっとしておきましょう。。おふたりは、15分後に目を覚ましますわ。』

『だって、まだ話始めたばかりだろう?』

『いいえ、ちゃんとメッセージを送ったから大丈夫ですわ。』

『あのう、僕も…愛の説明を一緒に聞きたかったなぁ〜』

『健には…今さら説明の必要などないでしょ?』

『まあね。。でも、愛の口からじかに言葉で聴いてみたい気もするけどね。』

『ううん。言葉ではうまく伝えられないでしょ。この気持ちは!』
『だから、心で伝えたわ。古田さんと小林さんにも…』

『でも…ちゃんと覚えているのかなぁ、あのふたりは…』

『食堂での愛との出会いは「夢の中での出来事」になって、心の奥に記憶されてるから安心して。』

またしても、あたらな愛の能力に感動した僕でした。

眠りについた二人を残して、僕と愛は食堂を出ました。もちろん別々です。先に愛がもう一度、図書館に向かいました。Dr.木村から追加依頼のあった脳の関するDr.Umus(ウームス)の最新文献のコピーをとってくるためです。しかも、これから調査任務の指示も入り、急遽、貴公子がUSOでこちらに迎えに来るというのです。
愛との帰ってからのお昼は無くなりましたが、嬉しいことにUSO機内でのランチに変更です。
ばあや特製のお楽しみ弁当が待っているとの情報に、むふふです。

そこで、僕はひとり学食をあとにして、一足先に大学近くの森林公園に向かいました。
以前に愛と、ちょっと破廉恥(はれんち)なカップルを熱演した思い出のベンチが待ち合わせ場所というのです。

しばらくして、僕は懐かしの公園奥のベンチに座って空を眺めていると、まもなくUSOが上空に現れました。
…と言っても、フォトシールドを張っているので普通人の肉眼では見えないわけですけどね。
それから10分ほどして、愛は白い日傘(キャリー)をさしながらベンチにやってきました。すぐに僕たちは相合い傘で、ベンチに降り注いだフォトシールドの中からUSOに移動したのでした。

操縦席には桜ヶ丘さん。そして、中央の円卓テーブルには特製のお弁当が4つ用意されていました。貴公子は、「やぁー」と一言挨拶しただけです。すでにお弁当を前に待っていました。

さて、僕と愛も席について、アイスリーのランチミーティングとなりました。

まずは、リーダーの愛から、調査の行き先と目的が告げられました。

「行き先は、鬼槍が峰の「新黒屋(しんこくや)」
「それと目的は、ブレインの謎を調査するためでーす。」
「詳しい話は、お食事の後にしまーす!」
「はーい」(もちろん貴公子と僕)

新黒屋の上空に到達するまで60分足らず、まずは腹ごしらえということで、桜ヶ丘さんも自動操縦に切り替えてランチに加わったのでした。僕たちは、円卓の中央部のまあるい(半球形)モニターに映し出された外の景色(雲海)を眺めながら、ばあやの味を堪能したのでした。

(第11章おしまい)

なお、今までのお話は、幻想弥(げんそうや)の中にありますので、ご興味がありましたら、少しずつでも、お読み頂けたら幸いです。

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