埼玉県本庄市児玉町秋山・直正寺の文殊大士
秩父の山脈は本庄市の西の児玉町あたりから始まります。その山際に建つのが禅宗の戸田山直正寺。本堂とその上に立つ文殊堂からなる寺です。
寺の案内には、江戸時代初期の「承応元年(1653)戸田五郎左衛門直正が、戸田氏の供養のため廃寺を中興した」とありました。戸田氏はこの地を給地とした旗本。
文殊堂は向拝柱を飾る豪華な木鼻と禅宗独特の花頭窓がある落ち着いた建物です。しかし堂内は畳もあげられて荒れるにまかせた感じ。天井の花絵のほとんどは薄れてしまいました。ここに案内する「文殊大士」の文字塔は、片付けられて淋しい仏壇の下に置かれていました。自然石を利用した文字塔です。
文殊大士は文殊菩薩の一つの呼びかたで、特に禅宗で修行僧の理想形として僧形の文殊大士が座禅堂に安置されてきました。したがって像容のある石仏として野に祀られることはなかったようです。
禅宗の寺らしい石造物が文殊堂上の歴代僧侶の墓地にありました。円柱の塔身に丸い笠を載せた石塔で、形から笠塔としておきます。禅宗らしいのは、丸い塔身に刻された「兼中到/正中偏/偏中正/正中来/兼中至」銘。仏書によるとこれは、中国唐の時代の禅僧が唱えたもので「偏正五位」として、曹洞宗に引き継がれてきた考えのようですが、この説明をするには難しすぎる文言です。
(地図は国土地理院ホームページより)