時刻はたぶん夕方だと思う。
ぼくはどこか分からない山道を
ひとりとぼとぼ歩いているんだ。
歩いているうちに喉が渇いて
我慢できたなくなって
ブッシュをかき分けそっと沢に降りると
誰かが釣りをしている。
ぼくが地面に積もった枯れ葉を
踏む音に気づいた釣り人が
ぼくの方を向きぼくと目が合う。
「あれっ、ユリ？ユリじゃん。
こんなところでなにしてるの？」
そうぼくが聞くとユリは声を殺して
「私が洗濯でもしてるふうに見える？」
「いやぁ、びっくり。ユリが渓流釣りの
趣味があっただなんて初めて知ったよ。
どんな魚が釣れるの？」
「カジカ。
悪いけどもう少し小さな声で話してくれる？
狙った獲物を逃したくないのよ」
「分かったよ。気づかずごめん」
「カタギリくん、そこにあるタモを持って」
「こう？」
「いい、上げるわよ」
ユリが竿を持ち上げると釣り糸の先には
魚じゃなく大きな桃がぶら下がっていた。
「なんで桃なんかが釣れたの？」
「あら、カタギリくんは桃、嫌い？」
「いやぁ、嫌いじゃないけど
狙っていたのはカジカじゃ・・・」
「カジカじゃ喉は潤せないわ。
もうひとつ釣るから一緒に食べましょ」
ぼくの喉が渇いていることを
ユリはなんで知っているんだろうと
ぼくは不思議に思う。
それからユリはもうひとつ釣り上げ
ぼくたちは2人並んで大きな岩に腰掛け
桃が流れてきた不思議な川面を
眺めながら食べる。
食べ終わる頃になると空が騒がしい。
見上げるとヘリコプターが上空に現れ
縄梯子が降りてきた。
「定刻通りね。私これからステージが
あるからこれで失礼するわね」
アップルウォッチから目を上げ
そう言うなりユリは縄梯子を登って
あっという間に機上の人に。
まるで戦地を慰問に訪れていた
売れっ子シンガーみたいだった。
ステージって・・・ユリ。
残されたぼくは岩に張り付いた桃の皮を
踵で川にこそげ落としながら、
いったいユリはステージのうえで
どんなパフォーマンスを
見せるんだろうと考え、
それからいったいぼくのお迎えは
いつ来るのだろうと途方に暮れていた。
桃かぁ。味はわからなかったけど
穏やかな気持ちにはなったと思う。
なんでこんな夢を見たのかな。
※写真は先日の風が強い日に
波のように揺れていた草たち。
大きな樹はくすぐったくないのかなぁと
思いながらしばらく眺めていました。
少し投稿をお休みします。
