テニスと読書とデッサンと!

夢の中で!




月は宇宙空間に浮かぶ天体などではなく

まるで漆黒の世界から脱出するための

抜け穴のように見えた。

背中に翼が生えた美しい人たちが

次から次へと地上から飛び立ち

その穴の中に吸い込まれてゆく。

ぼくはあの穴の先に広がる世界は

どんな感じなんだろうと想像する。

ベランダに出てその不思議な光景を

時間の感覚もなく眺めていた。

突然人の気配を隣に強く感じ、

ふと横を見ると女性が立っている。

その女性も背中に翼を生やしていた。

女性は祈りにも似た表情を浮かべ

あの眩しく輝く薄いオレンジの抜け穴を

ぴんと背筋を伸ばし静かに見つめている。

バレリーナのようだとぼくは思った。


「きみも行くの?」

「えぇ、時期が来たらね」

「あの穴の先の世界はどんなふうなの?」

「まだ行ったことがないから・・・」

そう言って女性は視線をぼくに向けて

穏やかに微笑みながら

「あなたはもう少し後になりそうね」

「えっ?」

「飛び立つ時期よ。

まだ肩甲骨に変化がなさそうにみえるわ」

「肩甲骨に変化?翼のことを言ってるの?」

ぼくは不安な気持ちに襲われた。

「そうよ。でも大丈夫、安心して。

あなたにもきっと時期が来ると思うわ」

ぼくは両肩をグリグリやって

肩甲骨の状態を頭の中に思い浮かべた。

女性はそれを見て短くクスッと笑う。

「翼の兆候は感じられた?」

「いや、まだみたい。

明日からカルシウムを多めに取ってみるよ」

今度は声に出して弾けるように笑う。

「いい考えね。でも焦ってはダメ。

急激な身体の変化はとても危険なのよ。

あっ、いま、名前を呼ばれたわ。

そろそろ私、行くわね?

短い時間だったけどあなたとお話しできて

楽しかったわ。ありがとう」

「ぼくもさ。肩甲骨が変化して

立派な翼が生えて名前を呼ばれたら

ぼくも行くよ」

空高く舞い上がった女性を目で追いながら

ぼくはもう一度肩をグルグルやってみた。


あなたの肩甲骨に変化はありますか?

今夜は中秋の名月だそうです。



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