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D'Trick mania

Le champagne et la santé, hier et aujourd’hui

長野まゆみ 『夏期休暇』

2009-10-06 | book
夏。
兄弟。
水辺。
死の香り。
と、基本要素は初期を踏襲しつつ、曖昧だった「少年同士の…」っていうのが美しく描きつつ、あからさまになっているように見えるのはどうだろう。


主人公の千波矢は海辺に暮らす少年らしく、一年中変わらないと思える程、日焼けした少年。
シャツは羽織るだけで自転車を飛ばし、真っ裸で海に飛び込む。
しかしそれは潔さ、粗野だけど凛とした面立ちと表現されている。
昔の家に引っ越してきた家族、特に少年に、理由も理解できないうちに苛立ち、反射的に当たってしまう。
…なんて気になる女の子に対する少年のままではないだろうか。

記憶が朧気ながら兄に対する強い思いを持っており、その曖昧さ故にナイーブでもある。そんな元気だけど影もある少年は物語のヒーローであると言えよう。


そして対するヒロインと言えば、引っ越してきた家族の末弟、葵である。
紺色の上品な(恐らくハーフパンツのセーラー服)がとても似合う華奢で色白な少年。
今までふたりの姉と同じ服を着て同じ事をしていたが、千波矢に出会い、自分は彼女達と同じになれない事に気付き、また彼のようでない自分を恥じる。
しかし、疎まれていると分かっていながら、あえて千波矢を怒らせるような行動をとる。
そして葵の飼う仔犬が最初の仲立ちをし、幽霊としてさ迷う千波矢の兄、青(あおい)の存在がふたりを更に近づけて、最後には千波矢を縛りつけてしまうのであった…と言いたくなるエンディング。

どちらにせよ彼らは「夏」を越せたとは言えない。


それに反し、長女の桜は隠れ家への隙間を抜けられず、既に彼らの世界から隔絶されている。

そして姉の真似をしていた桂も、口喧嘩を機に髪を切り、千波矢に似ているなんて言いつつ、葵に対する恋愛的執着も見せつつ、ひとり部屋に移っていく。
密かに張り合っていたであろう桜に対する気持ちも整理がついたのであろう。
精神的に逞しくひとつ大人になった桂は物語の最後には隠していた隠れ家に桜を案内していく。


強かに変わっていく女性に対して、少年たちは永遠に「少年」である。

そんな意味では少女漫画的とも言えるかも。
よくできたライトノベルですかね。



登場人物:千波矢、葵、桂、桜
季節:夏

文庫本:1994年4月

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