(2008/11/22毎日新聞抜粋)
アスベスト(石綿)で健康被害を受けたとして、県内の建設労働者と遺族ら約40人が、国などに計15億4000万円の賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が21日、横浜地裁(江口とし子裁判長)であった。
国と建材メーカー46社側はいずれも請求棄却を求め争う姿勢を示した。
弁論では、杉山忠雄・原告団長(75)が意見陳述する予定だったが、石綿肺などの病状が悪化し欠席。弁護団が陳述書を代読し「国やメーカーは毒性を知りながら私たちを犠牲にしてアスベストの生産、使用を続けた。本当に悔しくて仕方ない」と訴えた。
6月の提訴までに14人、提訴後に2人の原告が亡くなったと明かし「私自身も裁判を最後まで見届けられるか不安」と代弁した。
原告の島田義栄さん(73)は酸素吸入のチューブを付けたまま陳述。「アスベストの害を知らされず、大工としてがむしゃらに仕事をしてきた。いつでもチューブとボンベにつながれた生活です」と声を振り絞った。
答弁書で、国はアスベストの危険性を認めたが、業界最大手だった耐火材メーカー「ニチアス」は「不知(知らない)」とした。弁護団は弁論で「現在も知らないとはありえない」と強く抗議。原告が生きている間に結審し、潜在患者の救済制度を創設するためにも、早期の審理を求めた。
松浦ひとみ弁護士が意見陳述を行いました。
松浦ひとみ弁護士のコメント
第1回の口頭弁論は、横浜地方裁判所で一番大きな101号法廷内に、原告、原告代理人、被告代理人ら合わせて100名近くの人たちがぎっしりと詰まり、傍聴席も満席という状況の中で行われ(傍聴席に入れなかった支援の方々は別会場にて応援してくださいました。)、非常に大規模な裁判となりました。
このような状況の中、約1時間半の弁論が行われ、法廷は、緊張感と熱気が入り交じったような雰囲気に包まれていました。
まず、原告団の中から、杉山さん(体調が悪化して欠席し、代理人の西村弁護士が代読しました。)、島田さん、後藤さんの意見陳述が行われました。その内容については、上記の毎日新聞の記事にもあるとおりですが、後藤さん(遺族原告の方です。)の意見陳述について、一部引用します。
「昔はそんなに元気だった主人は、楽しみにしていた孫の運動会の日に、突然亡くなってしまいました。…主人は辛抱強く、泣き言などほとんど言わない人でしたが、毎晩「痛い痛い」とうめき声をあげていました。眠ることも出来ず、涙をこぼしながら痛みに耐えていた姿が今でも忘れられません。…主人が亡くなる日、急に呼び出されて病院へ向かうと、主人はベッドの上でうめき声を上げて、痛みに苦しむように体中をばたばたとさせていました。それは見ているだけでも辛いものでした。私は、腕で主人の頭を持ち上げて、腕枕のようにしていると、主人は絞り出すような声で、「ごめんね」と私に言ってくれました。私は悲しくなり、「何言ってるの、そんな事は治ってから言ってよ」と言いました。主人は、みんなに対して「ありがとう」と言いました。私たちは、大泣きしながら、病院中に響くような声で「お父さん、お父さん」と呼び続けていました。そして、主人の苦しみに耐えていた顔が、すーっと楽になったように見えると、そのまま主人は亡くなっていました。…病気になるまでずっと家族の為に働いて、ようやく余生を、という時にこの世を去りました。元気だった主人が、アスベストによって息も出来ないほどの体となり、亡くなってしまったことが残念でなりません。このような病気を引き起こすと分かっていながら、アスベストを使用してきた事実、私は絶対に許すことが出来ません。」
原告の方々の意見陳述は、いずれもアスベスト被害の悲惨さ、壮絶さを物語る、胸に迫り来る話ばかりで、その間、法廷内は静まりかえり、時折涙を流している方も見受けられました。
次に、原告らの代理人から、訴状の内容についての意見陳述が行われました。
私は、被告建材メーカーの責任についての意見陳述を担当しました。その一部を引用します。
「被告建材メーカーらは、アスベストが『身体に有害な影響を与える情報』を知った若しくは知るべきであった1972年以降も、原告ら建設作業従事者の生命・健康と引き換えに、自らの不当な利益追求を優先し、アスベスト含有建材を開発、製造、販売し続け、最終的に全ての被告企業がアスベスト使用を中止したのは、それから実に30年以上も経ってからのことでした。
しかも、被告建材メーカーらは、アスベストの危険性の警告を全くといってよいほど実施せず、逆に、社団法人石綿協会等の業界団体を通じ、規制を免れるべく政界への働きかけを行い、医学的にその危険性を払拭できないにもかかわらず、明確でない根拠に基づきアスベストの安全性をパンフレット等で宣伝し続けたりするなどして、警告するどころか積極的にアスベストを広め、ばらまき続けたのです。
被告建材メーカーらの注意義務違反の結果、原告らやその他多くの建設作業従事者は、石綿肺、肺ガン、中皮腫などのアスベスト疾患に罹患し、悲惨極まりない苦痛、壮絶な死に至る闘病生活を強いられ、次々と亡くなってゆきました。被告建材メーカーらの注意義務違反が引き起こした、きわめて多くの建設作業従事者、国民の生命、健康に対する甚大な被害は、わが国においてこれまで類例がないほどきわめて甚大なものであり、被告建材メーカーらの責任は極めて重大であります。」
このように大規模な裁判で意見陳述を行うことは、私にとって初めての体験でしたが、緊張感のある静まりかえった法廷の中で、傍聴席を含め200人近くの人達の面前で意見陳述をしたことは、大変貴重な体験となりました。
私は、第1回の口頭弁論を通じて、改めてこの裁判の社会的意義・重要性に気付かされました。この裁判は、2年以内の早期解決を目指しています。国という巨大な国家権力、46社もの大手企業等を相手に戦うのですから、決して容易なことではありません。しかし、弁護団・原告団等で力を合わせて精一杯戦い、勝利を勝ち取っていきたいと思います。