Desolation Row by Bob Dylan
ベストヒットアルバムには収録されない、ディランの隠れた名曲を取り上げる「ディランの隠れた名曲シリーズ」、その4。
今回は、いよいよあの!「廃墟の街」である。ついに出た!という感じ。
私の中では「真打ち登場」的な曲。
隠れた名曲というテーマでアルバムを編集する場合、そのアルバムの看板曲のひとつになるであろう。
ディランが私が最もリスペクトするシンガーソングライターであることは、これまでに何度も書いてきている。
なんといっても、ディランは私のもっとも大事な趣味が「漫画」から「音楽」にシフトするきっかけになった3大ミュージシャンのうちの1人であり、私のベーシックである。
十代の頃、浴びるようにディランの曲ばかり聴いてたし、アルバムも何十枚も聴いてきた。
正規アルバムはもちろん、海賊盤も。
ディランの曲を私は何曲聴いたのか、もう数える気もしない(笑)。
私が聴いてきたディランの膨大な曲の中には、ほんとに好きな曲は多い。
そんな中で・・・私が一番好きなディランソングは何か?という問いがあれば、私はその問いに即答で答えられるタイトルがある。
というか、あれこれ迷いだすときりがないので、ある曲を「一番好きなディランソング」としてあげることに決めている。
その曲の私の中での地位は、おそらく一生変わらないと思う。
その曲こそ、この「廃墟の街」という曲である。
この曲は、オリジナルアルバムでは「追憶のハイウェイ」に入っている曲で、そのアルバムの最後を飾る位置に収められている。
私にとっては究極のディランソングである。
もう・・何から何まで影響を受けた。
歌詞、メロディ、雰囲気、歌い方、そしてリードギターの入り方、などなど。
私が申し訳程度にでも、リードギターを弾くようになったきっかけは、この曲でのリードギターがすさまじく大きい。私はこのリードギターにまるで支配されているような感覚もある。
こんなリードギターが弾けたら・・・と思っては、ため息しか出なかった。
時には、からみつくようでもあり、ボーカルメロディーと対をなすようでもあったり、メロディーの合間に切れ込むような瞬間もあり、変幻自在に曲に寄り添っている。
ある時は曲を下から持ち上げ、ある時は中音域で和音で彩って厚みを出し、かと思えば時には上空に飛んで華麗にメロディーを奏でて輝かせている。
しっかりボーカルをサポートしており、乾いたフレーズがこの曲の乾いた雰囲気をセンスよく演出している。
ともかく、かっこいい。そして、なにより最高に歌心があり、メロディアス!
自分がリードギターを弾く時は、いつもこの曲のリードギターが念頭にあると自分では思っている。まあ、足元にも及ばないけど。
私にとっては、アコギのリードギターとしては、これが究極なのだ。
この曲の名曲度には、このリードギターは大きく貢献していると思う。
これは間違いなくディランの傑作ソングであり、名曲。
だが、そんな名曲であるにもかかわらず、ディランのグレイテストヒットアルバムには収録されることは・・ない。
不思議なことではあるのだが、収録されない理由の心当たりは、ないことはない。
それは・・この曲の尺なのではないか。
なにせ10分を超える大作だ。
普通の曲なら2~3曲分くらいある長さだ。
グレイテストヒットアルバムの場合、そのミュージシャンに名曲が多ければ多いほど、またそのミュージシャンの発表アルバムが多ければ多いほど、なるべく幅広く、有名曲は色んなアルバムからある程度まんべんなく入れたくなるものだろう。
この曲の長さは2~3曲分ぐらいあるうえに、この曲の入っているアルバム「追憶のハイウェイ」には、あの「ライクアローリングストーン」も入っている。
ディランのシングルとしては最も成功した曲で、誰もが認めるディランの代表曲であり、看板曲である。
それをベストヒットアルバムでは外すわけにはいかない。
同じアルバムにディランの看板曲が入っているうえに、「廃墟の街」は2~3曲分ものスペースを食う。
そんなわけで、幅広くディランのアルバムから名曲・代表曲をグレイテストヒットアルバムに選曲する場合、この「廃墟の街」は外されてしまうのではないだろうか。
そうとしか私には思えないのだが・・。
曲の出来から考えると、これほどの曲を外してしまうのはもったいない限りだとも思えるのだが、長いキャリアを誇るディランには他にも多数の名曲があるから、いたしかたないのかもしれない。
だが、ベストヒットアルバムに収録されないばかりに、ディランのアルバムをベストアルバムだけで済ましている人には、この曲は知られてないであろう。
そのへん、少し残念。
この曲の歌詞はイメージの広がりが果てしない。
謎めいていて、なにやら混沌とした世界の描写が繰り広げられている。
私はこの曲の歌詞は、全体的な意味を理解しようとするのではなく、1行1行のイメージの広がりを楽しんでいた覚えがある。
訳詞を読みながら聴いてると、1行1行の言葉が、まるでパズルのピースのように思えたりもしたものだ。
日本では中々作れないタイプの曲だと思うが、かといってこういう曲が日本にもまったくなかったわけではない。
よく知られている話だが、吉田拓郎さんのデビュー曲「イメージの詩」などは、この曲からインスパイアされて出来た曲だと思う。
スタジオバージョンを聴き比べていただくと、「なるほど」と理解してもらえると思う。
拓郎さんは私にとって「ベーシックのミュージシャン」のひとりだが、拓郎さんの曲の中で私が一番好きなのは「イメージの詩」である。
それは私が「廃墟の街」を好きなのと似たような理由で、イメージの広がりがある歌だからだ。
あの有名な「古い船を今動かせるのは古い水夫じゃないだろう」という歌詞が出てくるのが「イメージの詩」だ。
「イメージの詩」にはいくつかのバージョンがあるが、拓郎さんのデビューアルバムや、広島フォーク村のオムニバスアルバムに収録されていた「イメージの詩」のバージョンと、シングル用に少し尺を縮めて収められた「イメージの詩」は、アレンジが異なる。
シングルの方が少しテンポアップしているのだ。リードギターの感じも違うし、全体的に曲が軽くなっている気がする。
ここでいう「イメージの詩」はアルバムバージョンの方で、アルバムバージョンの「イメージの詩」と、ディランの「追憶のハイウェイ」に収められた「廃墟の街」のオリジナルバージョンを、機会があれば聴き比べてみてほしい。
明らかに拓郎さんは「廃墟の街」にインスパイアされて「イメージの詩」を作ったであろうことは、容易に想像できるであろう。
曲調といい、ストロークといい、テンポといい、リードギターといい、3コードだけのコード進行といい(実際には、装飾的にsus4コードは出てくるけど)。
ディランの「追憶のハイウェイ」はディランのアルバムの中でも5本指に入る傑作とされている。代表曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」が入っているだけでなく、他の曲も粒ぞろい。
中でもアルバムのラストに、この大作「廃墟の街」が入っていることで、アルバム自体のグレードを更に決定的に高いものにしていると思う。
長い曲ではあるが、聴いてると吸い込まれて、いつまでも聴き続けていたい気にさせられる。
「追憶のハイウェイ」というアルバムを評する時、「ライク・ア・ローリング・ストーン」という曲への賛辞と共に、この「廃墟の街」を「最高によくできた曲」と評価する声は実に多い。
そして、その声は間違っていないと私は思う。
だから、「ベストヒットアルバムには中々収録されない、ディランの隠れた名曲シリーズ」の中の1曲として、この曲はあげておきたい。
というか、このシリーズでこの曲をあげずして、何の意味があるだろうか・・・という気さえする。
本音を言うと、この曲を「隠れた名曲」扱いしてもいいのだろうか・・・という思いも私の中にはある。
この曲は、ディランの名曲のひとつという評価はゆるぎないものがあるので、私の中ではちっとも隠れてなどいないと思うからだ。
ちょっとディランを聴く人なら、この曲は知ってる人は多いと思うし。
だが・・・やはり、ベストヒットアルバムには収められない。
そうなると、やはり「隠れた名曲シリーズ」のくくりに収めて、取り上げるしかない。
なので、自信を持って、この曲を取り上げておこうと思った。
ほんと、この曲に関しては、いくら綴っても綴り足りない気がしている。
訳詞を読みながら聴くと、この曲の雰囲気やサウンドとあいまって、この不思議な世界にトリップしてしまいそうな気がする。
長いけど、いつまでも聴いていたくて。
https://www.youtube.com/watch?v=hUvcWXTIjcU
中でも特にこの曲を母国語で聴いたら…と思います。
この曲は、ディランは案外ライブでもけっこう選曲してます。
こんな長くて混沌とした歌詞をライブで披露するのは、けっこうハードル高いのではないかと、凡人の私は思ってしまいます。
きっとディラン自身も、この曲は大事にしてるんでしょう。
ビートルズと同等の知名度や評価があるのに、日本ではビートルズほどには特番されませんね。
それはやはり、歌詞の問題が大きいのかもですね。
日本人がディランの曲を母国語で聴いたら、日本での取り上げられかたは違うのかもしれません。
ビートルズに関して言えば、あの傑出した大衆性も大きいんだと思います。
ディランカバーは、高校時代の私の「生涯初めてのライブ」でカバーしたことはありますが、出来は最悪で、しばらくそれがトラウマになりました(笑)。
だんぞうさんの自伝的解説にもなっていて、大変興味深いです。
だんぞうさんの職業とボブ・ディランが無関係であることは、以前ライブでお伺い致しましたけれど、音楽的人生において「師匠」とも呼ぶに値する超一流ミュージシャンと出逢えたことは本当に幸福ですね。
世界でも5本指に入る超大物ミュージシャンであるのに、日本では滅多に特番されないことに苛立ちもあるでしょう。
私も「洋楽といえばビートルズ」しか特番されないドキュメンタリーや音楽雑誌にも飽き飽きしています。
ところで、だんぞうさんは、ボブ・ディランのカバーは、学生時代から今に至るまで、されたことあるんですか?