ある町に、割とお気に入りの居酒屋さんがある。
そう頻繁にいくわけでもないが、これまでその店目当てで何度かその町に出向いたこともある。
その店は、「売り」とも言える看板メニューがあり、おつまみは、その看板メニューを囲むように用意されている。
なので、その店に行ったら、その「看板メニュー」を食べないとあまり意味がないような感じだ。
だが、実は私はその店のその「看板メニュー」はオーダーしたことがない。
もっぱら、その看板メニューを彩る、サイドメニューみたいな小品のおつまみを頼んで食べていた。
お店から見たら私は妙な客だったかもしれない。
それは・・例えば、ハンバーグ定食で、ハンバーグを食べずに、ハンバーグの周りに彩のように添えられているベジタブルや目玉焼きだけを食べてるようなものだったかもしれない(笑)。
というのも、私がその店に行ったのは、決して看板メニューが目的だったからではないのだ。
じゃ、なぜ行っていたかというと・・
その店がある町、その店がある場所に、その店がある・・・という、その店のある環境が好きだったからだ。
その店は、決してつまみの種類は多くない。店自体も決してこぎれいというわけでもないし、特徴のある内装や外観があるわけでもない。また、決して広くもない。
だが、その町では中々の人気店である。
予約で埋まって入れないこともある。
店というのは、その店のある環境というのも大事だと思う。
その店は、その町やその場所にうまく溶け込んでおり、その環境に似合っている気がした。
その店のある町は、例えば山の手線の駅ぞいにある賑やかな町やビジネス街にあるわけではなく、山手線から私鉄に乗り換えて、各駅停車しか停まらないような住宅街の街である。
そういう場所、そういう町に溶け込むように存在するから、私はその店を好きなんだと思う。
だんだん人気が出てきたその店は、最近、山手線の駅のある賑やかなビジネス街に支店を出した。
たまに、その支店のある町を私は歩くことがある。で、その店の支店を見つけ、「あ、この街に支店を出したのか」なんて思ったりもする。
その支店は、本店よりも私にとっては行きやすい場所にある。
だが・・・あまり入ろうという気にならない・・。
もちろん、店の名前は一緒だし、本店と同じメニューを出していることだろう。
しかも、本店よりも支店のほうがおしゃれでこぎれいな外観でもある。
ましてや私にとっては本店よりも行きやすい場所。
ならば、本店よりも支店のほうに通ってもおかしくない。
なのに・・・行くなら、あの住宅街の街にある小さな本店のほうがいいと思っている。
その支店に入ったことがない私は、その支店が流行っているかどうかは分からない。
ただ、その支店の前を通って、ちらっと店の様子や前を見てみた限りでは、本店よりも賑っているという印象は・・ない。
支店のある町の方が、よっぽど人の多い街であるはずなのに。
やっぱり・・・店には、その店に似合った町というものは、確実にあると思う。
お気に入りの店というのは、その店のある町などの環境そのものが気に入っているから、その町にあるその店もお気に入りになるということは、案外大事な要素なのじゃないかな・・・。