「冬蜂紀行日誌」(2009)・《絶筆》

「冬蜂の死にどころなく歩きけり」(村上鬼城)という句に心酔した老人の日記

小説・「フライト・レコード」・《九》

2010-12-25 00:00:00 | Weblog
2009年12月25日

「家」に帰った。さあ、楽にしてあげますからね。ボクはいるだろうか。豊かでありはしない生活は、どこでつくられるのだろう。ダンスをおぼえよう。いたはずの恋人の、オトナの希望自体に、ボクの責任はない。コドモだったのではありません。既にコドモだ。楽にしてください。あのたまらなく青い空を早く早く真っ赤に染めてください。ボクは焼かれるのだろう。すなわち、荼毘にふされるのだろう。楽しみにしているわ。お元気でね。たたかわないくるま、早く来い。ボクも楽しく見るだろう。ボクとの最後で最初の一回的な邂逅としての、そのゲンシュクなセレモニーを。死んでしまえばよかったんだ。「告別式」のとき、ボクはいなかった。桜吹雪の山寺に、友達と行ってそこの真新しい墓石に、たしかボクの名前が刻まれてあったのかもしれない。そうだ、お父さん、お母さん、ボクの不孝を許してください。お兄さん、お姉さん、ボクのわがままを許さないでください。おとうとさん、いもうとさん、ボクの勇敢さを見習ってください。おい、出て来いよ。桃の木の陰にかくれていたボクは、ボクの墓石を抱きしめてニッコリ笑った。(おわり)
にほんブログ村 シニア日記ブログへ
blogram投票ボタン 





コメントを投稿