「冬蜂紀行日誌」(2009)・《絶筆》

「冬蜂の死にどころなく歩きけり」(村上鬼城)という句に心酔した老人の日記

「鹿島順一劇団」関東公演双六は水戸ラドン温泉で《上がり!》

2012-02-01 00:00:00 | 劇団素描
2009年2月1日(日)晴(強風)
 我孫子発10時27分快速水戸行き電車で、水戸ラドン温泉に向かう。大衆演劇「鹿島順一劇団」2月公演の初日を観るためである。1月公演は「つくば湯ーワールド」、茨城県民の中にも30~50人程度の「贔屓筋」ができたようだが、なにせ「美鳳」だの「新演美座」だの、無骨・野暮天な芸風がもてはやされる土地柄、「長居は無用」を決め込んで、早々に「帰阪」されることを祈念する。座長の口上によれば、関東公演は3月まで、心底より「御苦労様」と労いたい。
 さて、実を言えばこの私、昨年12月中旬から「闘病生活」を続けている。これまでの病歴は、①無症候性脳梗塞、②前立腺炎・前立腺肥大であったが、新たに、③慢性皮膚炎(湿疹又は汗腺炎)が加わった。症状は、胸前、背中、肩、腕、太股などが「ただひたすら痒い」ということである。「痛い」「息苦しい」といった症状に比べれば「まだまし」といえるが、それにしても「イライラする」「集中できない」という点では、かなりしんどい。これまでに3度、医師を替えたが、いっこうに改善されないのは何故だろうか。第一の医者は高名だが高齢(おそらく80歳代)で、耳が遠い。こちらの話を看護師が通訳する始末だが、これまでの処方ではピタリと(薬を使い終わる前に)と治癒していた。だが、今回はいっこうに改善しない。そこで第二の医師、東京下町の診療所、彼もまた高齢だが耳は聞こえる。「冬場になると湿疹がでます。いつもは薬を塗ると治るのですが、今回はよくなりません」というと、患部を一見して「ああ、慢性湿疹ですね。注意点は二つ、汗をかかないこと、患部を掻かないこと。薬を出しますから、薄く塗ってください」ということであった。脇で初老の看護師がしきりに論評する。「そんなに厚着してたら、汗をかかない方がおかしい。さあ、脱いだ、脱いだ、あんたまだ若いんだから・・・」、なるほど、体が汗ばんだときに痒みがひどくなる。的確な助言に恐れ入り、薬を頂戴して帰路についたが、その量たるや微々たるもの、三日もすればまた通院しなければならない。塗布してみたが痒みはとれない。そこで第三の医者登場、大学付属の総合病院皮膚科、今度は30歳代とおぼしき女医で一見たよりななかったが、患部を触ったり、皮膚片を顕微鏡で覗いたりという方法で「汗腺炎」という診断であった。以後2週間以上、服薬、塗布治療を続けているが、症状に大きな変化はない。一番効いたように感じたのは、「つくば湯ーワールド」の天然温泉であったが、これから行く「水戸ラドン温泉」の効能はいかがなものか・・・。
 水戸駅北口から路線バス(大洗方面行き)に乗って、栗崎で下車。徒歩1分で「水戸ラドン温泉」に到着。入館料は525円とべらぼうに安い。日曜日と会って客が殺到し、浴室のロッカーに空きがなく「しばらくお待ち下さい」とのこと、「先に、芝居を観ます」といって劇場(レストランシアター)に赴いたが、その異様な光景に仰天した。収容人数500人とは聞いていたが、その舞台の大きいこと、広いこと・・・。通常の劇場の3倍は優にあるだろう。客席は二人掛けのテーブルが(小学校の机のように)すべて舞台と正対している。その座席が、な、な、なんと満席。私が最も愛好する「鹿島順一劇団」が500人の観客を前に公演するなんて、夢のような話。しかも、芝居の外題は、劇団屈指の十八番「春木の女」とあっては、感激の極み、私の涙は留まることを知らなかった。「育ちそびれた人をバカにしてはいけない」「白い目で見てはいけない」といった「人権尊重」を眼目にした芝居を「初日」にもってくるなんて、だからこそ、私は鹿島順一が好きなんだ。この座長は「本気で仕事をしている」。ここは関東、さだめし「忠治御用旅」「会津の小鉄」など「武張った」演目からスタートすれば評判があがるだろうと思うのに、あえて関西を舞台とした人情劇で勝負を賭けるなんて、その「気っ風」のよさに感動する。
公演初日の「春木の女」、出来栄えは「永久保存版」、500人といった大人数の中でも、役者と役者、役者と観客の呼吸はピッタリ、最後列で突然鳴り出した携帯電話の呼び出し音が、舞台の座長にまで聞こえていようとは・・・。咄嗟に「あんたたちがだらしないから、携帯電話まで鳴り出しちゃったじゃないの!」といったアドリブで対応する座長の機転が、何とも可笑しく、座を盛り上げる。梅の枝健、春日舞子、蛇々丸、三代目虎順、花道あきら、それぞれが「精一杯」の役割を果たして、大団円となった。
 この劇団の関東公演は、平成19年11年に始まり、ほぼ1年3カ月、来月の川崎大島劇場で終わるそうだが、今月の舞台は「大劇場」、双六で言えば、まさに「上がり」といった景色である。おそらく、「鹿島順一劇団」、最高の舞台が「水戸ラドン温泉」で終わるだろう。私自身もまた、ここらあたりで「大衆演劇三昧」を「上がり」にするような時がきたようである。

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