Enjoy Music !

From Classics to Today's Hits

「有楽町で出会ったローマ法王の影」

2023-12-28 18:48:35 | 大西好祐
「有楽町で出会ったローマ法王の影」

有楽町の駅は僕にとっては、いつも何かを待つ場所だった。午後の陽はもう高くなく、空は冬の深まりを知らせるような色に変わりつつある。友達と銀座で食事をする約束をして、いつもより早くその駅に着いた僕は、時間をどうやって潰そうかと考えていた。読む本もなく、ただぼんやりと歩いていると、ふと駅前の本屋に目が留まった。もう本屋で本を買うことも少なくなったけれど、今日は何となくその本屋の温かい灯りが僕を引き寄せた。

店内は予想した通りの静けさで、棚に並ぶ本の背表紙がきちんと整列しているのを見ると、なんだか心が落ち着く。新刊コーナーを見ても、特に気になる本はなく、そうして二階へと足を運んだ。人は少なく、本屋の二階はほとんど静寂に包まれていた。出口に近づくと、何か異質な看板が目に飛び込んできた。それは小さな占い師のコーナーを告げるものだった。

僕は占いなんてまるで信じていない。でも、何となくその看板に惹かれるものがあった。時間もまだたっぷりあるし、面白半分で足を運んでみることにした。そこには、経験を積んだらしいおばさんが、多くのタロットカードを束ねて待っていた。机の前に座り、「将来について教えてください」と言うと、彼女は何の躊躇もなく4組のカードを混ぜ始めた。

僕は占いを信じない。だが、おばさんとの会話は不思議と心地よかった。彼女によると、僕はなかなか良い運勢を持っているらしい。そして驚いたことに、僕の守護神はなんとローマ法王だという。数年前にバチカンに行ったことを話すと、「いえ、昔の法王ですよ」とおばさんは微笑んだ。

その占いの結果に恐れ入ることはなかったが、最後におばさんは「ご利益がある」と言って、部屋から出るまで丁寧にお見送りしてくれた。それなら、と思いつつも、僕は次回バチカンへ行くことを本気で考え始めた。おばさんの言葉が真実かどうかはわからないけれど、何かが僕をそこへと向かわせようとしているような気がした。夕暮れ時の有楽町を後にするとき、僕の足取りは少し軽くなっていた。




「寒朝とプレップスクール」書評

2023-12-28 09:05:12 | 大西好祐
「寒朝とプレップスクール」は、大西好祐による深く感動的な物語です。この小説は、苦難と挑戦の中での成長と自己発見の物語を描いています。

物語は、主人公が全寮制プレップスクールの厳しい環境に適応しようとする様子から始まります。彼は、厳格なドレスコード、校則、人間関係の難しさに苦しみますが、これらの経験が後の人生において彼に大きな力を与えます。大西は、これらの挑戦を通して、キャラクターの成長と変化を巧みに描き出しています。

この物語の特徴的な部分は、主人公が母親の助言を思い出し、寒さに慣れるために電気毛布のスイッチを切るシーンです。この瞬間は、彼が小さな一歩から始めて、大きな困難に立ち向かう準備をしていることを象徴しています。また、母親の言葉が彼に与える影響は、深く心に響くものであり、読者にも共感を呼び起こします。

大西好祐の『寒朝とプレップスクール』は、挑戦を乗り越えた後の成長の価値を描いた、感動的で心温まる物語です。キャラクターの内面の葛藤と変化を通じて、読者は自分自身の人生における困難や挑戦について考えさせられるでしょう。


「雪解けの枝と心の回復」

2023-12-27 08:18:10 | 大西好祐
「雪解けの枝と心の回復」

大雪が降った先日、庭の木々の枝は雪の重みに耐え切れず、地面に屈曲してしまった。その先端は雪に埋もれ、昨日までそこに静かに存在していた。しかし、昨夜からの雨がその雪を溶かし始め、枝はゆっくりと元の位置に戻り始めた。枝が完全に折れてしまったのではないかと心配していただけに、その回復には安堵した。自然の回復力には、いつもながら驚かされる。それを見て、ふと心が温かくなった。

この世の中で病気になる大きな原因の一つがストレスだと言われている。薬品会社の思惑が絡むと、人々は自然治癒力を忘れがちになる。それは、いわば、雪に覆われた枝のようなものだ。

そんなことを考えていると、ふと子供の頃の記憶が蘇る。森の中で過ごしたあの日々は、自然との一体感を教えてくれた。木々の間を駆け抜け、太陽の光が葉の隙間からこぼれる様子を見上げるのが好きだった。その時の僕には、薬など必要なかった。ただそこにいるだけで、心が癒されていった。

大人になった今、ビルの間を歩きながら、あの頃の自分を思い出すことがある。スマートフォンの画面に映る世界とは異なる、もっと大切な何かを、あの時は知っていた。枝が雪から解放されたように、自分の心もまた、自然の中で解放されるのだと実感する。

雨の音を聴きながら、昔読んだ本の一節を思い出す。「自然は最高の医師である」という言葉。その言葉を胸に、また新たな一日を迎える。きっと世界は、いつもとは違う色で見えるだろう。そしてそこには、本当の自分がいる。