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From Classics to Today's Hits

相対のブルース

2024-10-30 01:19:16 | 大西好祐
「人生は相対的だよね」と、彼はふとした瞬間にそう口にした。その声は穏やかで、どこか諦観と共にあった。僕たちは静かなバーの隅で、氷が溶けかけたグラスを指で回しながら話していた。時計の針は既に深夜を回っているが、ここだけは時間が止まっているような錯覚があった。
「比べる相手がいないと、つまらないのかもしれない」と、彼は続けた。まるで確かめるように。僕は返事をせず、ただうなずいた。そう言われると、確かにそうだと思えてくるから不思議だ。
人生は比較で成り立っている。誰かと自分を、過去の自分と今の自分を、常にどこかで比較しながら、僕たちは生きている。そして、他者との競争や比較が僕たちにモチベーションを与え、新しい目標を持たせることもある。でも、問題はその「比較」が時に、自分の本質を見えなくさせてしまうことだ。
「たとえばさ」と彼はグラスの底を見つめながら言った。「他人と自分を比べ続けることで、俺たちは本当に成長しているんだろうか?それとも、ただ誰かの影を追っているだけなのかな」
僕は少し考えた後、グラスの氷が軽く揺れる音を聞きながら答えた。「比べること自体が悪いわけじゃないんだと思うよ。ただ、必要なのはバランスなんだ。誰かとの比較と、自分との対話、その二つをきちんと持つことが大事なんじゃないかな」
彼はしばらく黙っていた。そして、何かを決心したようにグラスの氷を一口かじった。それが何を意味するのかは僕にはわからなかったけれど、少なくともこの夜、僕たちは少しだけ賢くなった気がした。
そして、彼はポケットからくしゃくしゃになったメモ帳を取り出して言った。「今宵はこれをJAZZのネタにしてまた書き始めるさ」。彼の言葉には、不思議と確信めいた響きがあった。