蔵王の麓にて

ちょっと一休みのつもりが、あっという間の6年目。

田植え休み 稲刈り休み

2022-11-13 13:11:10 | 小説
 東通村の小学校では、夏・冬の長期休暇以外に、「田植え休み」と「稲刈り休み」が、それぞれ春と秋に一週間ずつある。それは、子どもも、農作業の大事な戦力だからだ。
 休みと言っても遊んでいる子どもは一人もいない。皆、我が家の農作業のお手伝いを朝から晩までしている。勇希は、恭介君のバッチャの鶴の一声で、よそ者ではあるが、恭介君の家の農作業を手伝っている。
 このお手伝いの勇希の密かな楽しみは、十時と三時のおやつの時間だ。普段から甘いものに飢えている小学生だ。遠慮することもなく、バクバクおやつを食べる。食べないとバッチャに「もっと、けえ!」と怒られるということもある。そんな勇希と恭介君の仲のいい様子を、周囲の大人は目を細めて暖かく見守ってくれている。
 この手伝いは、けっこう大変な重労働だ。小学校三年といえども、大人と遜色ない労働を求められる。稲刈りでは、稲を刈るのは慣れた大人の仕事で、その刈った稲を集めて、干す場所に一輪車で運んでいくのが、勇希と恭介君の仕事である。下北半島では、田んぼの脇に、刈った稲を干すために丸太を組んだものを作る。
 ところが、田んぼのあぜ道は、平坦ではない。積んだ稲の重さでグラグラする。間違って、田んぼに落としてしまえば、その稲はもう終わりだ。だから、自分の腕の力と体のバランスを計算して、稲を一輪車に積み、バランスをとりながら、干すところまで運ぶ。だんだん慣れてくると、バランスを崩すことはなくなるが、ある時点で、一気に腕の力が入らなくなる。
 その頃になると、もうその日の作業の目途がついてくる。勇希と恭介君に遊びの許可が出る。さっきまで体力の限界だった二人だが、さすが疲れを知らない子供たちだ。早速、山にあけび取りに行く。秋になると、山々にはあけびが至る所に生っている。あけびの皮を漬物にする地方もあるらしいが、勇希と恭介君には貴重なおやつだ。真っ暗になるまで、あけびを取って帰宅する。
 一晩寝ると、恭介君が家に迎えに来てくれる。恭介君の声を聞くと、勇希は急いで短靴を履く。
「おはようございます。勇希君、いますか?」
「恭介君、おはよう。今日も頑張ろうね」
 当時の、目屋村の小学生のほとんどは、裸足に短靴を履いていた。短靴とは、長靴に対しての短い靴という意味で、ゴム製の靴だった。多少の水たまりでもそのままジャッポンと水たまりに入ることのできるメリットがある。しかし、走りづらいし、木登りにも適さない。だから、本気で走る時は裸足、気に登る時も裸足である。
 最初、遊びの場面で、勇希は恭介君に助けてもらうことがほとんどだった。しかし、徐々に山村暮らしに慣れると、勇希はみんなに遅れることなく、山中を走り回れるようになった。そして、山中で遊ぶことが多くなると、それが勇希の日常になり、様々なものに対する抵抗力がついてくる。これも全て、嫌な顔をせず、勇希に付き合ってくれた恭介君のおかげだ。


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