再読のための覚え書き
風
山本有三(1887-1974)
深夜の荻窪。酔客を乗せたタクシーは途中でパンクを起こす。運転手がタイヤ交換している間に客は失踪、シートには血痕があった。また、そのすぐ近くの森では、経済学者が何者かに殴殺されていた。
主人公の佐賀もと子は裕福な家の娘だが、左翼運動をする男と駆け落ちをして、生活のために家政婦となる。
ブルジョワジーの雇われ先で、貧しき者として不当な扱いを受ける中、無関係のはずである先の事件の影が、もと子の背後に忍び寄るのだった。
「いや、ぼくを犯罪人と思うなら思ってもいい、しかし犯罪というものは、君らが考えているように、必ずしも悪いものとばかりは限らないのだぞ。犯罪は、たとえば熱のようなものだ。社会がかぜを引いて、熱をだしたようなものだ。社会がかぜをひいているのに、なぜ熱だけ取り締まるのだ。熱を罰するとはこっけい至極じゃないか。」
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ミステリー仕立てで引き込みつつ、山本有三は不当な差別について気炎を吐いている。
朝日新聞に連載時は見過ごされたものの、のちに単行本となる際には、当局をはばかって、一部が伏字となって出版された。その後、敗戦を迎えて規制がなくなり、原文のまま再び出版された。
2022.2.9読了
風
新潮文庫
昭和27年5月18日初版発行
昭和33年8月25日20刷
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