再読のための覚え書き
伊藤整詩集
伊藤整(1905-1969)
伊藤整の小説は、会話の端々に論理的哲学的な硬質さを感じるが、詩は、なんと若さの素朴な抒情に満ちていることか。
《良い朝》
今朝ぼくは快い眠りからの目覚めに
雨あがりの野道を歩いて来て
なぜかその透きとほる緑に触れ、
その匂に胸ふくらまし
目にいっぱい涙をためて
いろんな人たちの事を思った。
私の知って来た数かずの姿
記憶の表にふれたすべての心を
ひとつひとつ祝福したい微笑みで思ひ浮べ
人ほど良いものは無いのだと思ひ
やっぱり此の世は良い所だと思って
すももの匂に
風邪気味の鼻をつまらし
この緑ののびる朝の目覚めの善良さを
いつまでも無くすまいと考へてゐた。
2021.10.27読了
伊藤整詩集
新潮文庫
昭和33年1月10日初版発行
昭和45年2月10日12刷
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