伊勢一風花 落柿の音

もう一人の自分

臭いラン

2011-04-28 | 
 花の香りが芳しいというのは,ヒトの勝手な思い込みだ.ランの花は甘い良い香りと決まっていると思うのは大間違いで,ランにもうんこ臭いものがあるのだ.ある時植物園でブルボフィルムの花が展示してあり,臭い!とポップが.臭いと書かれていると嗅いでみたくなるものだ.臭い匂いの花は,植物の類縁関係に関わらずしばしば赤黒い色をしているのだが,こいつは結構きれいな黄色の花だ.嗅いでみると,ああ確かに,人を心地よくさせる香りではない.ボクたちの脳は,糖をもたらす植物の甘い香りに快を感じるように進化し,性フェロモンを失った人は,甘い香りと性が交錯しオスはメスの良い香りに惑う.花の香りはその象徴でもあった.やはり甘く怪しげな香りの花がよい.

黄桜

2011-04-25 | 
 今年は,職場の仲間たちと満開のソメイヨシノを見に行かなかった.その代わりサトザクラでも見ようかと昼にちょっと抜け出して近所の公園へ.暑かったり寒かったりしたせいで,ボクの予想はすっかり外れ大概のサトザクラは散り,シャクナゲも盛りを過ぎていた.そんな中でこれまではあまり目立たなかった黄色のサクラ,鬱金が存在感をもって咲いていた.新葉と花の微妙な色合いの違いが心地よい.曇っていた空はいつの間にかきれいな青空になり,優しい陽ざしの中で見上げた薄黄緑の花はとても優しげだった.たまには時期を外して花見をしてみるのも良いものだ.

緑を義務化?

2011-04-20 | ヒト
 久しぶりに友人Fに会ったらひどく憤慨していた.都議会で室内緑化を義務化しようという議案を検討している議員がいるという.有名な花の研究室のOBらしい.彼曰く,義務とは『義を持って務める』平たく言えば出来ればしたくはないが,仕方なくしなければならないこと.オフィスに緑を置くことを義務化するなんて,どんな了見なんだ?と.三省堂の大辞林によれば義務とは,人が人として当然しなければならない責務,倫理学的には道徳的必然性を持つ原理によって人が課せられる強制・拘束,さらに法律が人に課す拘束などを指す.議会で条例を作ればこの3番目に当たる.確かにそぐわないかも.しかし,Fの憤慨はそこではなかった.そもそも花と緑を学んだものがそのような発想をしたこと.さらにかのOB会は毎年業界向けの有料セミナーを開く業界のオピニオンリーダー,そこが何にも言わない鈍感さに憤慨していた.まあまあと彼をなだめながら,ところでボクに課されている義務とはなんだったっけと考えてしまった.

京都タワー

2011-04-16 | ヒト
 確か小学校の4年生だったと思う.ボクは初めての家族旅行で京都へ行った.清水神社のほかはどこを見たのか,ましてやどこに泊まったのかはすっかり忘れたが,見上げた京都タワーがとてもハイカラに見えたのが印象的だった.あれから40年以上の時間が過ぎ去り,旅行に連れていってくれた父はすっかり体が不自由になり,今は穏やかな時間を過ごしている.ボクはといえば,孫の顔を見にこの街を訪れている.京都駅前はすっかり変わってしまったが,夕暮れに点灯した京都タワーは,子どもの時に見上げたままに何か誇らしげに立っている.ボクは過ぎ去った時間を想いながらじっと白いタワーを見上げた.時は戻らず,しかも1個のヒトという生き物が生きている時間は,ほんとうに短い.

空の向こうに

2011-04-13 | 
 職場にはボクが植えたサクラの木がある.皇太子妃が話題になった時に売り出され,雅と名付けらえたサクラだ.50cmほどの小さな苗だったが,だんだんと大きくなり,たくさんの花をつけるようになった.濃いピンクがやや下を向いて咲く様子は,ソメイヨシノとは全く違った風情がある.見上げたサクラの向こうには,いつもと同じ青空がひろがり,春の陽ざしは柔らかに降りそそぐ.来年は心からサクラを楽しめるだろうか.

それでも花は咲く

2011-04-10 | 
 気温の低かった今年の3月.どの地方でもサクラの開花は例年より遅れた.早い,遅いといっても10日もずれることは滅多にない.暦は人の作ったもので,あくまで自然の流れに乗っかっている代物だ.今年,サクラの下はとても静かで,そぞろ歩く人々も心の片隅に遠い地の痛みを抱えている.ボクも仲間を誘って繰り出す気にはなれなかった.今年は静かに春の萌えだすエネルギーを眺めることにしよう.

一水

2011-04-08 | 
 しだれツバキは珍しい.平岡八幡宮の白ツバキの中で最も有名なのがこのシダレツバキ,名は一水.白玉椿は白花で美しいツバキの総称で,特定の品種を指すものではない.白玉団子は白椿の蕾の様子から名付けられたものと聞き,なるほどと感心した.白の花はモクレンでもツバキでも霜にとても弱く,すぐに茶色の凍みが出来てしまう.ここ平岡八幡宮の一水ツバキは相当の樹高だが,毎年花の季節は覆いをかけて花を晩霜から守っているという.願い事をすると白玉椿が一夜で花開き、願いが成就したという白玉椿伝説にあやかり,ボクはもうすぐ誕生日を迎える大切な人の健康を心から祈った.

水鉢のツバキ

2011-04-06 | 
 赤い毛氈の上に置かれた水鉢にツバキ浮かべられていた.ツバキは葉と花の位置が大切で,生け花に使い良い枝は多くはない.花だけを使うなら枝ぶりは気にしなくともよい.ツバキは首が落ちるので縁起が悪いというのは,江戸期の庶民の盲信らしい.ツバキは古来よりめでたい樹であり,江戸時代各地の武家で地方品種が発達したことからも分かるように,武士とツバキの相性は悪かろうはずがない.樹下に落ちたツバキの花も美しいが,こうして幾種もの花を水に浮かべると,また殊更に華やかだ.こうしておくと数日は楽しめるという.たくさんの品種が咲き誇る場所ならでは贅沢.ボクはなんども手元の鉢を覗き込みしばし幸せな気分に浸った.

花の天井

2011-04-04 | 
 春の陽ざしに誘われ,花の天井絵を見に京都平岡八幡さんへ.今年は3月が寒かったせいで,名物のツバキはいずれも遅れがちとのこと.宮司さんの滑らかな解説に導かれ,社殿周りのツバキを見て回り,社殿にあげてもらって天井絵を鑑賞.足利義満の時代に,彼の影響で天井に花の絵が描かれたのではないかという.ただしこの建物は江戸期のもので,絵師は綾戸鐘次郎藤原之信,1827年に描かれたものだ.44枚の花の絵があるが,ボクの興味はユリの絵.そう,ここにはササユリが描かれている. 2本の茎が交差し,写実的に描かれているが,残念ながら花弁が薄いピンクに描かれていたのかどうかは分からない.野に咲くユリと言えば,西国では笹百合,東国では山百合.京の神社ならば,描かれたユリはササユリでなくてはならない.

トサミズキ

2011-04-01 | 
 春の陽ざしには黄色い花がにあう.マンサク科の植物らしく他の木々がまだ冬の姿の中で,いち早く咲き始める.トサミズキの柔らかい黄色の花序は,まだ冷たい空気の中でとても清々しい.土佐の名がつくが,丈夫なのだろう全国で植えられている.今年は暖かかったり寒かったりの繰り返しが激しい.暖かな日差しの中,出かけた先でこの写真を撮ったのだが,翌日には春の雪に見舞われた.雪をかぶったトサミズキ,それはきっときれいだっただろう.雪に傷んだら気の毒だが,見られなくてちょっと残念な気もした.