伊勢一風花 落柿の音

もう一人の自分

ナスの花

2009-06-30 | 
 ナスの実はつやのある濃い紫が命だが,ナスの花も実に負けない美しい紫の色をしている.この花がきれいだと思うようになったのはずいぶん歳をとってからのことだ.一時期ボクは仕事でたくさんのナスを相手にしていた.冬から春先まで,来る日も来る日もハウスでナスの花にトマトトーンを打ち,収穫と整枝に追われた.同じ花に2回トーンを打たないために色粉を混ぜておく,赤い液体を吹きかけられたナスの花は何とも情けない老婆の厚化粧のようになる.
 花は美しいものだが,美しいと思うには心の側にゆとりが必要らしい.だから花を見て,美しいと思えることは幸せなことなのだ.

水掛け不動尊

2009-06-28 | ヒト
 どことなく湿ったような空気が流れるミナミの夜.ボクはこの猥雑な雰囲気が好きだ.気取ることなくしかもどことなく仮想空間のような闇の中のネオンや店の灯り.日常を離れて過ごす時間にはもってこいの場だ.もう一人のボクがすっかりリラックスして道頓堀を歩いている.
 いつものことだが,朝になると昨夜の喧騒がうそのように白けた空気が流れている.再び現実に戻る準備をしたボクは,戎橋を渡り法善寺横丁へと向かい,苔のかたまりのような水掛け不動尊に大切なお願いをした.

アフリカハマユウ

2009-06-27 | 
 梅雨に入るころわずか数日で一斉に花穂を伸ばし開花する.この花の抜ける白さは,雨がちの灰色の空にも映え,遠くからでもよく目立つ.優しい花だ.この花が咲くと梅雨だなーと思う.一つ一つの花は1日花であっという間に首を垂れてしまうので切り花に向かない.しかし,たくさんの花が次々と咲くので,庭では長く楽しめる.
 なぜかインドハマユウという名で通っているが,明治時代の誤記載がもとらしい.名前なんてものは人が自然認識の道具として勝手につけたものだ.周りでお前の名前はどうだこうだと言われてもと,彼女は困惑しているだろう.

サツキ

2009-06-25 | 
 ツツジの仲間は,春早くミツバツツジなど落葉性のツツジがサクラとともに咲き始め,連休の頃からヒラドツツジ,クルメツツジと続き,最後にサツキツツジが来る.サツキは品種も多くカラフルな上に多くが鉢植えされるので,路地裏園芸の華でもある.
 雨上がりの朝,雨に濡れた花が並んでいた.ボクは遠くの水田の緑とこの薄いピンクの花の対比に何か強く心を打たれ,しばし立ちすくんでしまった.後ろから近づいてくる友人の足音に我にかえるまで,ボクは小さなピンクの花の中に広がる宇宙を見ていたのかもしれない.


ドクダミ

2009-06-23 | 
 子供のころ日当たりの悪いところにびっしり生えるドクダミをみて,なにやら恐ろしい気がした.仲良くしていたサボテン少年仲間のM君が気色悪い花だと言っていたので余計に印象が悪くなったのだと思う.タイではドクダミの葉を食べる.独特の匂いは決して食欲を誘うものではないが,薬草だと言われればそれはそれでいかにも効果がありそうだ.
 白い4つの苞葉が花のように見える.本当の花は穂にびっしりと並ぶが花弁はない.白い苞葉はポリネーターのサインかと思ったら,この植物はほとんど単為生殖で種子をつくるらしい.いったい進化のどこでパートナーを置いてきたのだろう.

ハナショウブ

2009-06-21 | 
 ノハナショウブのしまった紫の花から,かくも多様な花が生まれたのかと思うとこの植物の持つ多様性の潜在能力にあらためて驚かされる.メジャーな園芸植物であるキク,バラ,ユリはみないくつかの種を起源に持つ種間交雑種であるが,ハナショウブはもっぱら1種の植物の種内変異を選抜してきたものだ.江戸期各地方でハナショウブは異なる目で選抜され多様な品種群が出来上がった.
 ハナショウブの名所には様々な系統が並らび美しさを競うが,これでもかというほど集められた花々にやや食傷気味になるのはボクだけだろうか.

ヤマアジサイ

2009-06-19 | 
 ふと立ち寄った植物園でたくさんのヤマアジサイが見ごろを迎えていた.花序の大きさ,装飾花の苞の色,草姿など一つ一つ違うので,見て回るのが楽しい.茶花としても愛でられてきたヤマアジサイは,もともと自然にたくさんのバリエーションがあり,古くから人は変わったものを手元に置いて名前を付けてきた.
 人は歳をとると万事シブ好みになる.ヤマアジサイを見ると心が和むが,ボクも相当歳をとったのだろうかとふと心配になる.

ホタルブクロ

2009-06-17 | 
 初夏の低山を歩くと道沿いでかならずホタルブクロに出会う.おそらく林縁の植物なのだろう,人が歩くために作った道は、彼らにとって格好の採光がある場所のようだ.花の色はかなり濃いピンクからほとんど真白なものまである.ちょうど蛍の季節,これにホタルを閉じ込めてみたいというネーミングを考えた先人のセンスに脱帽.
 昔植物を見るため毎週末のように歩いた金剛葛城山系の初夏の楽しみは,このホタルブクロと希に残存するササユリだった.久しぶりの出会い,懐かしさいっぱいになった.

カワラナデシコ

2009-06-15 | 
 この繊細な花が野に咲いていたら見逃す人はいない.万葉人もこの花を乙女にたとえて幾つもの歌にした.儚げな草姿は見る人の心を動かし,想いをよせる人に重ねてみたくなる.江戸時代には沢山の品種が作出された.今でも,春の花がひと段落して梅雨の走りの頃に咲く貴重な植物だ.
 風に揺れる優しいピンクのカワラナデシコを眺め,ボクはしばしある人のことを思い出していた.

ヒメジョオン

2009-06-13 | 
 北米原産のキク科の帰化植物.空地や公園の片隅に生える雑草だが,花はよく見るとなかなか清楚.柔らかな薄緑の茎とのバランスも良い.もともと明治期に観賞植物として導入されたものが野山に広がった.よく似た植物にハルジオンがあるが,茎を手折ってみて中に白い髄が見えればヒメジョオン.
 気になっていろいろなところに行くたびに花の様子を観察すると舌状花の数や色の具合はずいぶんとバリエーションがある.近くに咲いていたヒメジョオンを何本がとって生けてみた.もう少し舌状花が丸く薄ピンクなどに改良されれば結構いけるのではないかと思う.だれか雑草再生プロジェクトでもやらないだろうか.

フランネルソウ

2009-06-11 | 
 フランネル草という名の通り柔らかな銀白色の葉が優しい.冬の花壇にも温かみを添えてくれる.昔からある赤花以外に白,ピンク,しぼり,最近は八重咲きの品種もみられる.ナデシコ科リクニス属の宿根草,スイセンノウが正式名.とても丈夫で何年か植えっぱなしにして大きな株になるとたくさんの花をつける.
 学生の頃,先輩からナデシコ科のリクニスだと教わったが,春先のこと,ロゼット状で白銀の草姿はナデシコのイメージからは遠くとても違和感を覚えた.なにごとも見かけで判断してはいけないし,イメージなんて所詮勝手に作られたものなのだ.
 

オリーブ

2009-06-09 | 
 遠い昔のこと,母親の鏡台に小さなオリーブオイルの瓶があり,ボクは長いことオリーブ油は化粧品だと思っていた.地中海の小さな島で,塩焼きにしてオリーブ油を加えただけのシンプルな魚料理に出会った.オリーブ油がこんなに香り高かく美味しいものとは知らなかった.
 モクセイ科のオリーブは4弁の小さな白い花を初夏にたくさん咲かせる.小さな花は,なるほどキンモクセイの花とよく似ている.そっと香りをかいでみたが,よい香りはしなかった.地中海生まれのオリーブにとって,これから来る日本の梅雨はさぞ鬱陶しいことだろう.


タチアオイ

2009-06-07 | 
 クマバチが花粉を求めてこの大きな花に潜り込む.その一瞬の隙に花びらを外側から摘み,大きなクマバチを捕まえ虫かごへ放つ.少年の頃,度胸試しのこんな遊びでタチアオイを覚えた.クマバチは羽音が凄まじくあの黒いずんぐりの姿から恐ろしいハチのように思われるが実はおとなしく人は襲わない.
 広い所でたくさん咲かせるとそれは見事だが,残念ながらわが家では日当たり良い場所をそれだけたくさん割り当てられない.近くの線路沿いにたくさんのタチアオイが咲く,赤い大きな花に少年の日を思い出す.

ビワの実

2009-06-05 | 
 初夏限定の嬉しい贈り物.暖かいところが生産に向く果物で,長崎が日本最大の生産地,なんと全国生産の3分の1を1県でまかなう.植物自体は古くに中国から持ち込まれたらしいが,すっかり日本の果物になっている.
 子供のころ大好きな果物の1つだった.食後の果物を大切にしていた家だったので,季節の果物はとても楽しみだった.皮がきれいに剥けるとそれは美味しい食べごろの証拠だ.上品な甘さと独特の香りは,いくつでも食べられる.残念ながら沢山はもらえなかった,ちょっぴり恨めしい思い出でもある.

クリスタルリーフ

2009-06-03 | 
 クリスタルリーフという珍しい野菜があると店の大将が出してくれた.南アフリカの植物というのと外観から直観的にリビングストーンデージーの葉かと思った.食感はシャキシャキでもなくグニャリでもない,さっと溶けるようでかすかに塩味.後で調べてびっくり.近年アイスプラントという名でも知られている耐塩植物.なんとハマミズナ科メッセンブリアンテマム属,メセン類コノフィツムやリトープスの親戚なのだ.
 サボテン少年だった頃,生ける宝石メセンにあこがれ,いつか南アでこれらの花咲くところをこの目で見てみたいと思っていた.かれらの親戚を食べてしまった,何やら少し申し訳ない気がした.