ブログ“愛里跨の部屋(ありかのへや)”

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愛里跨の恋愛スイッチ小説(蒼ちゃん編 4)

2010-11-04 08:23:28 | Weblog
4、モナ・リザの微笑み



翌日の3日、金曜日の朝。
私は出勤の為、いつものように駅に向かった。
駅に着くとホームに電車を待つ紺野さんが居て、
私に気づいて声をかけてきた。


(町屋駅)
真一「蒼さん、おはよう」

わーっ、名前で呼んでくれた(≧▽≦)
蒼 「おはようございます。紺野さん」
真一「蒼さんもこの駅から乗ってるんだ。町屋に住んでるの?
   僕は一丁目に住んでて一人暮らししてるんだけど」
蒼 「紺野さんも町屋に住んでるんですか。
   私は二丁目に住んでます。
   妹と二人で暮らしてるんですよ」
真一「そっかぁ。じゃあ、ご近所さんだね(笑)
   蒼さんとは本当に縁を感じるなぁ」
蒼 「ええ。本当に(笑)」

うん!うん!たくさん縁を感じてよぉ~(//▽//)
あっ、そうだ。紺野さんに仕事のこと聞いてみよう。

蒼 「紺野さんの勤務先って、黄金通信社でしたよね」
真一「うん、そうだよ」
蒼 「あの、会社ではどんな内容のお仕事をされてるんですか?」
真一「僕は通常は営業職だけど、
   この7月から3つの雑誌の企画担当もさせられててね」
蒼 「雑誌の企画ですかぁ」
真一「うん。今進めてる雑誌の企画はかなり大きな仕事でね。
   今先方からの返事待ちなんだ。
   あっ、電車きたよ。乗ろう!」
蒼 「はい」

私達は着いた電車に乗り、入口近くに隣同士に並んだ。
プルルルルルッ!(ベル音)
ファーン!(電車のクラクション)
私達を載せた電車はいつもと変わりなく走り出し、
私と紺野さんは揺られながら話の続きを始めた。

真一「でも、今やってる雑誌の仕事は正直言うと、
   僕の性分に合わないんだよね。企画なんて」
蒼 「でも、営業職も数字に終われて大変でしょ?
   自分が企画したものが形になるって素敵ですよ」
真一「うん、ただね…。
   今回のは編集長もかなり力入れてる企画だから責任重大でね」
蒼 「そうなんですね。あの、立ち入ったこと聞いてごめんなさい。
   先ほどお話していた企画って、
   『スター・メソド』と言う会社と関わりありますか?」
真一「うん、あるけど…
   蒼さんが何故『スター・メソド』のこと知ってるの?」
蒼 「それは…妹が『スター・メソド』に勤めてて、
   私、今回から『黄金通信社』のお仕事を、
   臨時で手伝って欲しいって、妹から依頼されたんです。
   だから、もしかしたら紺野さんのお仕事と、
   関連があるのかなと思って…」
真一「そうなんだ!その仕事って『ツイン・ビクトリア』企画?」
蒼 「あ…、それは私にはまだ分からなくて、
   昨夜依頼されたばかりだから、
   詳しい内容は聞かされてないんです」
真一「そっかぁ。もし仕事が一緒だったら、
   本当に蒼さんとは縁があるかもしれないね。
   電車も同じ、勤め先や家もご近所さんで、
   仕事まで一緒にするようになるなんて、
   そうそうないからね。
   もし蒼さんが『ツイン・ビクトリア』の件に関わるなら心強いよ。
   企画のOKが出る様に妹さんや責任者に、是非押して欲しいんだ。
   その時は宜しく頼むよ!」
彼は微笑んで私の手を強く握った。
蒼 「はい。分かりました(笑)」
私達は会社に着くぎりぎりまで話をしたの。


彼は30歳、乙女座で独身現在彼女なし。
出向で仙台に1年いたけれど、
3ヶ月前に東京町屋に帰ってきたと話してくれた。
話している途中で気付いたのだけど、
彼は私の手を握ったままずっと話していた。


真一「蒼さん、今日もいい香り。やっぱりホッとするよ」
蒼 「えっ、そんなぁ(//▽//)」
そして、いつも降りる上野に着いてから、彼はやっと繋いだ手を離した。
真一「あっ、ごめん。無意識に手を繋いでた(笑)」
紺野さんは笑うと目の横に笑いシワが入って、とても優しい表情になる。
蒼 「いいんです。ちょっと嬉しかったし(笑)」
真一「そう?(笑)蒼さんは彼氏は?
   化粧品会社だったら、職場恋愛とかで、
   出会いありそうだから彼氏いるかな」
蒼 「それが…居ないんですよね(笑)恋人募集中です」
真一「じゃあ、好きな人は居る?」
蒼 「え?あ…っ、いいなって思う人は居るんですけど、まだ片思いで」
真一「そっか。僕は仙台に居た時、
   片思いしてた女性に告白してあっさり振られたんだ。
   まぁ、出向終わる前で、
   もうすぐこっちに帰ってくるって時だったから、
   タイミングも悪かったけど、やっぱショックだったよ。
   今は傷も癒えてきたけどね。
   そのキッカケをくれたのは蒼さん。
   こっちに帰ってきた当初なんて、
   電車で気づいた蒼さんの優しい香りに僕は救われてたな」
蒼 「そんなぁ…(*^_^*)
   でも、そう言って貰えたると嬉しいです(笑)」
真一「ねぇ、蒼さん。
   来週月曜日、僕がいつも行ってる公園の『ほのぼのカフェ』で、
   一緒にランチしない?友達と約束あるなら無理言えないけど」

やった!誘われた!この嬉しい急展開!!
なんだか夢見たい…

蒼 「あの、来週月曜日大丈夫です!
   誘ってくれてありがとうございます」
真一「そう、良かった!その時に今日の話しの続き話そうね。
   じゃあ、お互い1日仕事頑張ろう!」
蒼 「はい!頑張りましょう」
真一「また来週楽しみにしてるからね」
蒼 「はい。また来週(手を振る)」

会社までの道のりを、電車の彼と二人で話しながら歩くなんて、
つい何日か前まで想像もしなかった。
辞表騒ぎが、進まなかった時計の針を動かしてくれたのかな。
それとも…。それとも、奏士くんとの出会いが、
あの絵が、私を変えてくれたのかな…。


会社に着いて変わらない仕事をこなし、
昼休みは満智子と公園で話しながらランチして、
カフェで会社のお友達と話しながら食事をする、
紺野さんの姿を見ながら小さな幸せは浸る。
今の私はこんな平凡な日常がとっても居心地よくて、
ずっとこのまま守り続けたいと思ってる。



奏士くんとの約束の5日日曜日。
私は待ち合わせの場所に向かった。
この道はいつもなら通勤ルート。
そして、一昨日は紺野さんとたくさん話ながら歩いた小さな幸せの道。
でも休日になると、駅を出て見える街並みや、
この道でさえも全く違う様相を見せてる。
端で見てても、初々しい感じのしゃぎ合うカップル。
携帯を持った手を高く上げて、
自分撮り機能で写メを撮ってる学生さん達。
行き交う人達に明るく声をかけながらティッシュを配ってるお姉さん。
何だか、奏士くんが言ってた様々な人生の色が、
ここにあるのが見える気がする。

そんなことを感じながら、私は待ち合わせ場所に着いた。
奏士くんはもうそこにいて、ガードレールに腰掛けてた。
濃紺のダメージジーンズに、白いタンクトップ。
黒の半袖の綿シャツを羽織って、
いつも道端で絵を描いてる時とは違う、
男らしい奏士くんがそこに居て、
ちょっとドキッとさせられた。

(駅前広場)
奏士「蒼お姉さん、おはよう」
蒼 「おはよう。待たせてごめんなさい」
奏士「そんなに待ってないよ。
   お姉さん、今日…凄くファッショナブルじゃない?
   通勤の時と違う。
   さっき駅に居た女の子達と変わらない感じだな」
蒼 「あのね(-.-;)それじゃ、いつも私がみすぼらしいみたいじゃない。
   褒めてるんだか貶されてるだか、奏士くんの言い方むかつくわ」
奏士「褒めてるに決まってるでしょ。
   怒らない、怒らない。チケット持ってきた?」
蒼 「うん、持ってきたよ」
奏士「じゃあ、行こう」

奏士くんは私の手を引いて早歩きで美術館に向かった。
蒼 「あ、あのね、奏士くん(汗)
   もう少しゆっくり歩いてくれるかな」
奏士「あっ、ごめん。気持ちはもう美術館だから」
蒼 「どうしてそんなに絵を好きなの?」
奏士「父さんの影響かな。
   若い時に海外に住んでたらしくって、
   母さんとのデートはよく美術館や博物館に行ってたらしいんだ。
   中学生の頃に、家族旅行でイタリアのフィレンツェに行った時、
   ウフィツィ美術館に連れて行って貰ったんだ。
   コの字形の美術館で建物にも興味津々だったけど、
   廊下にはズラッと古代彫刻や肖像画が並んでて、
   天井にフレスコ画の華麗な絵が描かれてたよ。
   僕はただ黙って並ぶ絵画を観てたけど、
   ティツィアーノの『フローラ』っていう絵の前にきて、
   完全に心奪われてね。
   彼女の纏ってる白いドレスや、
   カールした髪が写真の様にリアルで、
   まるで僕の前に彼女が居るみたい浮かんで見えて、
   僕は無意識に手を伸ばしてた。
   その絵は画家が自分の婚約者をモデルに書いたとされてる絵で、
   本当に彼女は幸せそうな顔をしてた。
   僕もこんな絵を描けたら幸せだろうなって思ったんだ。
   それから美術部に入部して、
   高校もデザイン科目指して大学入ったんだよ」
蒼 「そっかぁ。中学生からの夢を追い求めてるなんて凄いな。
   私には何もないから…」
奏士「それは何歳になっても、今からでもきっと見つかるよ。
   もしかしたら、今日美術館で見つかるかもしれないし、
   僕との会話や蒼さんの日常でも見つかるかもしれない」
蒼 「そうねぇ」
奏士「実は今日の絵画展に『フローラ』が来てるんだ。
   僕の初恋の人」
蒼 「え?二次元の絵が初恋だったの?」
奏士「そうだよ。凄い美人。嫉妬しないでね(^ε^)♪」
蒼 「よく理解できないな。奏士のそういう感覚(^o^;)」



私達は都立中央美術館に着いた。
受付をして中に入った途端、
私は絵画の豪華さ、神々しさにど肝を抜かれた。
『キリストの埋葬』『最後の審判』『ハトと聖霊』など、
数々の絵が私の目の前に飛び込んでくる。

(美術館館内)
奏士「蒼さん、この絵のハトはなぜ聖霊になったと思う?」
蒼 「んー、昔から幸せの象徴だから?」
奏士「それも間違いじゃないけど、ハトは繁殖力も強い。
   他の動物に比べて帰巣能力もいいから、
   古代や中世では遠距離の伝達の手段に実用価値が高かったんだ。
   旧約聖書の中でも回復の象徴とされてて、
   神と人を繋ぐメッセンジャーとして考えられたんだよ」
蒼 「ふぅん。奏士くんって凄い。
   絵画一つ一つ理解してるのが凄いな。本当に好きなんだね」
奏士「あははっ。
   一応、美術研究学科で学んでるんだから、そのくらいはね」


ずっと絵画を見ていくうちに、私達は奏士くんの初恋、
『フローラ』の絵の前にきた。
彼女は、ドキッとするほど優しい眼差しと、
もちもちすべすべとした肌の綺麗な女性で、
本当に観てる私まで嬉しくなってくるほど、幸せがにじみ出てる表情。
何となくだけど、奏士くんが恋心を抱くのも分かる気がした。

奏士「美人でしょ。妬いてる?」
蒼 「妬いてないわよ(-o-;)でも綺麗な女性ね。
   少しだけ好きになるのも分かるかな」
奏士「でしょ」

奏士くん…何て優しい顔して彼女を見つめるの。
やだ、本当に灼けてくる…私…おかしくなったのかな。

私は『フローラ』の絵と奏士くんを見て動揺して、
何故だか後ずさりし背を向けた。

もう!私ってばかじゃないの!?
何でただの絵に嫉妬するの!?
それに、奏士くんは彼氏じゃないから嫉妬なんか…

奏士「へーっ。蒼さんってそっち好み?
   マッチョ好きなんだ(笑)」
蒼 「へ?マッチョ?」
(蒼の前に全裸の『ラオコーン』のブロンズ像がある)
奏士「まぁ、確かに同性の僕から見ても立派な逸物だと思うけど、
   そんなにうっとり見つめなくてもね」
蒼 「逸、物…。☆♂♀×△〇※(><*)」
奏士「ぷっ!あはははっ。
   蒼さん、顔真っ赤。お姉さん可愛いね(笑)」
蒼 「変なこと言わないでよ(赤面)
   マッチョなんか好きじゃない(汗)次にいくよ」
奏士「はいはい(笑)」


次の絵画は『モナ・リザ』だった。
映画やTVでも何度も観た絵なのに…新鮮な感覚。
蒼 「『モナ・リザ』って、
   『フローラ』のような幸せな笑みじゃないよね。
   何だか悲しそうな不安そうな感じ」
奏士「うん、そうなんだよね。
   『モナ・リザ』の微笑みの中にはね、83%の幸せと9%の嫌悪、
   6%の恐怖と2%の怒りが含まれてるんだ。
   背景もダ・ヴィンチの四つの架空の世界を描かれていて、
   彼の理想とする女性の美を表現しているらしい」
蒼 「そうなの…嫌悪と恐怖と怒り…。
   こうやって観ていくと絵画って奥深いわね」
奏士「うん。僕が蒼さんに初めて会った時、
   『モナ・リザ』と同じで、
   笑顔の中に怒りや絶望が入り交じって見えたんだ。
   だから僕は、蒼さんを『モナ・リザ』の微笑みから、
   『フローラ』の微笑みに変えたいなって素直に思ったんだよ。
   何だか悲しそうで辛そうで、
   話してる時は僕に怒ったりして本心隠してたけど、本当はあの時、
   “自分を見て欲しい”“分かって欲しい”って思ってたんだろ?」
蒼 「奏士くん…」

やだ…涙が出てくる。
どうしてそんなに私の心見抜いちゃうの…

奏士「今日どうしても、蒼さんにこの二枚の絵画を見せたかったんだ。
   蒼さんの一瞬の微笑みにも、鮮やかで素敵な色を出してあげたいって、
   僕は素直に思ってること分かって欲しかったからさ」

奏士くんは『フローラ』を見つめてた時の様に、
優しい笑顔で私を見つめた。
奏士くんの穏やかな眼差しに、
秋の紅葉のように少しずつ赤く色づき始めてる私のハートは、
ドキドキを繰り返しながらも、
「何だか居心地いい」って囁いた。
(続く)


この物語はフィクションです。
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