あおいこころ

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アザラシまんじゅう 6話/空想遊び

2023-07-06 06:59:00 | 空想遊び

◇6話 アザラシまんじゅうの鳴き声が聞こえる

 世界中でアザラシまんじゅうは食べられ、世界中の人が排泄したものが、世界中の水や土に溶け込んでいった。
その大地や水で育った小麦やサトウキビなどが、アザラシまんじゅうの材料となっていく。
量産されたアザラシまんじゅう内のアザラシまんじゅう濃度が徐々に高くなっていった。
そんなことを人間達は知るよしもなかった。

 ここはある住宅の台所の棚の中。
忘れ去られたアザラシまんじゅうが、消費期限を迎えようとしていた。
アザラシまんじゅうは小刻みに振動し始めた。
「クー、クー。。。」
アザラシまんじゅうが鳴いたのだった。
「クークー、クークー」
何度も鳴いた。
住人の女性が鳴き声に気がついた。
台所に行き、棚の中から聞こえてくることを突き止めた。
恐る恐る棚の扉を開けると鳴き声は止まった。
女性はアザラシまんじゅうを見つけた。
「忘れてたわ。あら?今日が消費期限だわ。」
と言うと、アザラシまんじゅうを食べた。
この現象は世界のあちこちで、ほぼ同時期に始まっていた。
最初は都市伝説のように語られていたが、だんだんそれが日常的になっていき、アザラシまんじゅうは消費期限を教えてくれる食べ物となっていったのだった。
さらにしばらくすると消費期限を教えてくれる食べ物が、アザラシまんじゅう以外にも出始めたのだった。
これは、水や土に含まれるアザラシまんじゅうの濃度が増していき、地球で育った植物に影響を与えたからだ。
植物由来のパンやジュース、お菓子などの加工食品が食べることを忘れられていると「クークー。。」と鳴いて教えるようになった。
人間に忘れ去られようとする食品をアザラシまんじゅうの鳴き声が思い出させてくれた。
世界中の人々が食品ロスを意識できるようになって、捨てられる食品がなくなっていった。

海洋学者や地質学者達は海水や土の微粒子の中を飛び回る微細なアザラシまんじゅうを見つけていた。
世界中でニュースにもなったが、悪影響を与えていないことから騒がれることはなかった。
地球に浸透したアザラシまんじゅうが影響を与えたものは、植物だけではなかった。
この頃から、地球環境が徐々にアザラシまんじゅうによって改善されていたのだった。
水や土、大気の汚染が除去され、海洋プラスチックまでも分解され、気温が安定して異常気象がなくなった。干ばつや水不足もなくなり、作物は大地で豊かに育った。疫病の発生も激減した。
しかし、これがアザラシまんじゅうのお陰だとは誰も気づかなかった。
人間達は自分たちの改善努力が実を結んだとしか考えていなかった。