BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説22-12「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-03-25 22:01:34 | ★ディスティニー22章
 長く話しているうちに電話の向こうの社長は少し落ち着いてきたらしく、
ーつまり、なんだかんだ言っても誰もお前たちを引き離せなかったわけだ。
(そんな…麻也さん…)
 諒は自分の行動を悔いるばかりだった。
ーでもお前たち2人は、やっぱり人の一生狂わすくらい、すごいってことだな…それなのに、守りきれなくて、すまなかった…
ーそして、今度から俺も仕事は選ぶよ、若いやつにも麻也は毒だ。
 本当に長い電話になっていたようだが…
 その時、リビングで大きな音がした。
 何かが倒れたような。
 嫌な予感がして諒は携帯を切るのも忘れ、握りしめたまま急いでリビングに戻った。
 リビング? なぜ?
 ドアを開けると諒の目に飛び込んできたものは飛び散った白い錠剤、そして倒れこんでいる麻也…
(なぜ麻也さんがここに…?)
 シャンパンの瓶もグラスも絨毯の上に倒れていた。
 あわてて諒は麻也の脇にしゃがみこんだ。
リアリティーがない。
  と、次の瞬間諒は我に返り、叫びながら麻也の体を抱きかかえて揺さぶった
「麻也さん! 麻也さん!」
 麻也は目を開けてくれない。
「麻也さんしっかりして!」
その時だるそうに麻也は目を開けた。

★BLロック王子小説22-11「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-03-22 11:51:17 | ★ディスティニー22章
ー親父さんも、自分も業界の人間だから男同士なんて見聞きはしていたけれど、でもまさか自分の息子がこんなことになるなんてと言ってた。
 そして、諒には耳の痛くなるようなことも…
ー…お前たちには悪いけど、親父さんには自分の息子が恋愛的に男である麻也を好きになってしまったことがかなりショックだったらしい。
「はあ…」
 だがこのとき諒はそのことの本当の意味をまだわかってはいなかった。
ーあとお前は聞きたくないだろうけど、鈴音には響子は、自分が19歳で今の旦那を前の妻から奪ったことを話して、その気にさせていたらしい。麻也があまりにも素っ気ないのでそんなことまで言って焚き付け続けたらしいんだ。
 諒はようやく、頭の中が「普通のパニック」程度になってきていた。
 社長が言うには鈴音の事務所の方はそんな鈴音の暴走を最初は止めていたけれど、新人としても期待ほど売れてないので、売名にでもなれば、と響子がついているのをいいことに黙認どころか最近では積極的に手伝っていたらしい。
ーそれがあの雑誌の写真だよ。ホテルの廊下での。
 そして、諒は、社長の何げない言葉にはっきり傷つくことになる。
ーあの女性、そこまでしてお前たちを引き裂きたかったんだな…
(それは俺が響子を…無碍にしなければ…ってこと?)
 動揺しながらももっと強く知りたいことに諒は気づく。
 あのオヤジ…鈴音の社長の坂口と麻也は…しかし尋ねる勇気が出ない。すると社長はそれを察したらしく、
ー坂口のオヤジほどの強欲なドンが黙認だったっていうのは、個人的にそれを望んでいたってことだろう、って、藤田さんは。
 そして、
ー俺が思うには、あのドンとやらはきっと何としても麻也のことを手に入れたかったんだろう。つまりそれは、麻也はあの男のものじゃなかったってことだ。
「…」 
 諒は携帯を握ったまま愕然としてしまった。
それが伝わったのだろう。気の毒に思ったのか社長は、
ーあと、藤田さんがこっそり教えてくれたけど、あの響子という人は病気ということにして、今の仕事を全部降板させてそのまま女優をフェードアウトにするんだって。
「え…?」
ー旦那の関村氏は大御所の脚本家だ。藤田さんへの詫びの意味もあるんだろう。女房に顔に泥を塗られた形で…混乱してるそうだけど離婚の話もあるって言うから彼女は全てを失うんだろう…夫がいながらお前に勝手に本気になったんだから、離婚されても不思議はないよな。でも彼女を増長させた自分にも責任があるからって悩んでるらしい…
 あまりのことに諒は驚き、しかし、これまでの不満を社長には知って欲しかったせいかか、つい口走ってしまった。
「俺なんて人工授精に協力してくれって言われましたよ。旦那さんからも。いくら若い奥さんが可愛いからってわがまま聞きすぎだったと思いますよ。こっちは大迷惑ですよ」
ーえっ? それ本当だったのか?
社長はびっくりしていたが、
(知ってたなら守ってくれよ…)
諒はがっかりしてしまった。

★BLロック王子小説22-10「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-03-21 15:15:00 | ★ディスティニー22章
 クローゼットの中だったっけ と、諒がクローゼットの下の棚を見ると、奥の方に2種類の薬袋があった。それを二つとも取り出して尋ねた。 何錠だったっけ?…
 するとベッドに座った麻也は目をそらしたまま、
「自分でやるからいいよ」
 それでも諒はいちおうキッチンからミネラルウォーターを持ってきて、麻也にその薬をのませた。
  そして、サイドテーブルに水のボトルと薬袋を置くと、諒は麻也を寝かしつけることもせず、背を向けたまま寝室を出た。ドアに外鍵があればよかったのにと思いながら 。
諒はリビングに戻ると、飲み残していたシャンパンのグラスを空けた。手が震えていた。
 足りなくて、もう一杯を半分空けたところで携帯が鳴った。
 ディスプレイで社長からとわかったので仕方なく諒は出た。
 麻也が、今度はこの家から出ていかないか心配になって廊下に移りながら。
ー諒、今自宅か? 麻也はいるか? さっきから麻也の携帯にかけても出なくて…
「家です。麻也さんは寝てます」
 社長の緊迫した様子に諒は怖くなったが、社長はそのままの調子で、
ー諒、あの関村響子っていう女優には、最近はどんな感じで付きまとわれてたんだ? ホテルに突撃されて須藤くんたちが撃退したのは聞いてるけど、自宅に押しかけられたりもしてたのか?
 思いもよらなかった質問に諒は戸惑ったが、
「いえ、それはなかったです。そのホテルと楽屋だけ須藤さんたちがいるところばかりだったから助かりました…何かあったんですか?」
 すると社長は、
ー麻也と、えーっと、冬弥君とかいう子と鈴音ちゃんも同じ感じだったのかな?
 それを言われて諒は返事に困った。
「う一ん、麻也さんからは何も聞いてませんけど、麻也さんだけの、俺らメンバーとは別の現場だと本当のところはわかんないですね」
 それを聞いた社長は、また麻也を起こすことはできないかと尋ねてくる。
「いやかなり疲れてるんで起こすのは忍びないんですけど…」
ーじゃあ俺が後からそっち行って話すけど、お前には先に言っとくな。さっきあの冬弥の親父さん、大御所俳優の藤田氏がわざわざ事務所に来たんだよ。昨日の詫びということで。
 諒は一瞬何を言われているかわからなかった。
ーこれまで冬弥が麻也をはじめとしてディスグラの皆に迷惑をかけてすまなかったと。親として申し訳ないと…それでこれを機に冬弥は芸能界を辞めさせるんだって。本人も承知だって。
(え…?)
 頭の中がまっ白になった。よく尋ね返せたと思う。
「どういうことですか?」
ー昨日の土下座もセリフもあの女優、響子の差し金だったんだって。
「えっ…」
 そこで諒は聞かされた。響子が冬弥と鈴音の二人を騙して操っていたことを。
「どこからそんな話が…」
ー親父さんが本人を問い詰めて聞き出したそうだ。
「それ本当なんでしょうか?」
ー親父さんが言うには本当らしい。友人夫婦の女房の方に裏切られたと大ショックみたいだったよ。あの落ち込みようは演技には見えなかったな。
 社長の声には真実味があった。