BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説22-3「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-16 21:18:22 | ★ディスティニー22章
「真樹って、お母さんにはあんまり似てないんだね…」
 直人が何気なく言うと、
「うん…兄貴はじいちゃんにそっくりなんだけど…俺は橋の下から拾われてきたのかも…なんてね。うそうそ。おふくろの弟の叔父さんに似てるって言われる」
「お兄さんはおじいちゃん似?」
(ロックバンドやってる人が?)
 不思議に思った諒が何となく尋ね返すと真樹の表情は曇り、
「うん…それがさ、ウチ、遠藤のひいばあちゃんが2人いて、じいちゃんはどっちから生まれたのか謎なの。」
「いや、こんな大きい家で、昔なら色々な事情もあったんじゃない? 」
文学青年だった諒がフォローしたが、真樹の表情は晴れず、
「うーん、それが、おふくろがずーっと怒ってるんで困るんだよね。ひいじいちゃんの奥さんて、片方はカタギだったんだけど、もう片方は、遊女だったんだよ。」
「えー? どこで知り合ったのぉ?」
そう言ったのは直人だったが、諒も、この辺りは昔はかなりの田舎だったはずなのに、と不思議に思った。
「うーん、この辺って、昔は絹ってか生糸で潤ってたじゃない? だから、横浜の方の店にひいじいちゃんが商売に行って、そのついでに遊びに行って出会っちゃったんじゃないかな。結構人気の遊女だったっていうよ。」
 昔よくあったように、もともとは武家のお姫様で、没落した家のために身売りした女性だったという。
「で、なんで真樹のお母さんが怒り続けるの? 」
「三味線が上手くて美人、ていったって、芸者さんと違って、結局はその、おねんねするのも仕事だったから…」
「はあ~、じゃあ、この家の嫁にするのって、すごい大変だったんじゃないの? 」
 諒は、家風とか、そういうことで言ったつもりだったのだが、真樹にはそうは聞こえなかったらしく、
「うん。ひいじいちゃんは早くに親を亡くして跡を継いだから…」
 親戚が止めるのも聞かず、先祖伝来の田畑の一部を売って身受金を作り、その女性を自由の身にし、正式な妻にしたのだという。
「お妾さんとかじゃないってことは、心から愛していたんだねえ…」
「まあ、ひいじいちゃんの方はそうだったんだろうけど、相手はどうだったかねえ…」
と、真樹はため息をつく。直人は苦笑いして、
「なあに? 女は怖い、ってこと? 」
「うん…今となってはわかんないよねえ…そんなことも含めて、おふくろは怒ってるんだよ。」
 真面目な夫はもちろん、家族がみな真面目な家というのが良くて嫁いできたのに…というわけだ。
 それが、法事の時に、遠い親戚が酔っぱらってつい口にしたのを母は聞いてしまったのだという。
 直人はそれこそ真面目に、
「でも、元は武家のお姫様なんだから、真面目でしょ? 」
 しかし真樹は口を尖らせたまま、
「いやあ、やっぱ、経歴が許せないってことでしょ。それに、わがまま放題だったみたいだし…」
「わがまま?」
 諒と直人がきょとんとしていると、真樹が言うには…
  一日中、奥の座敷で煙管をふかし、家の中のことは女中頭に任せっ放し。やることといえば三味線の稽古と着物選び。
 あとは、年に何回かやってくる「芝居」を見に行くための身ごしらえには女中総動員で大騒ぎ…
「な、なんかすごい人だね…」
「うん…まあ、俺と兄貴は3人でいる時におふくろに聞いただけなんだけどさ。何回も言われてさ、オチは、嫁にはきちんとした家のきちんとした人をもらえ、
なんだけど。」
「ああ、じゃあ、恵理ちゃんなら大丈夫じゃん。」
直人に言われると真樹は、照れて、「もー!!」と言いながら汗拭きタオルを振り回し、一息つくと、
「恵理ちゃんには内緒にしてね…」