時には目食耳視も悪くない。

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人の数だけ恋がある。

2017年10月20日 | 文学
 子供の頃、夢中になって読んだ本は、学校の図書室にあった江戸川乱歩シリーズ(ポプラ社)とアルセーヌ・ルパンシリーズ(モーリス・ルブラン著、偕成社)です。
 冒険や事件ものが好きで、あまり恋愛ものには興味がありませんでした。

 恋愛小説を専門に扱うハーレクイン小説を初めて読んだのは、30歳近くになってからです。
 この手の本を読む人は、なんとなく家に引きこもりがちで、夢見がちだという先入観があり、自分には縁のない世界だと思っていました。
 初めて読んだ作品も、古本屋でパラパラめくって流し読みをした程度なので、タイトルも内容も覚えていません。

 ただ、文庫本と違い、細長いペーパーバックスタイルが、妙に手のひらに馴染んで、持っていて心地よかったのを覚えています。
 重さも厚さもあまりないので、小さめのバッグにでも気軽に入れて持ち運べるのでは、読書好きには嬉しい配慮です。
 (今は電子書籍でも読めますけど…)

 そんな本の形態に惹かれ、古本屋でこのジャンルの作品の棚の前に来る機会が増え、たまに気になった作品を購入する程度になりました。
 とまあ、こんな程度なので、ハーレクイン小説について云々できる資格はないのですが、せっかく興味を持った分野なので、話題にしてみたいと思います。

 まず、ストーリーの特徴ですが、言うまでもなく恋愛ものです。
 いろいろ事情を抱えた男女が出会い、すったもんだの末にだいたいはハッピーエンドで、必ずといっていいほど結婚します。
 稀に、どちらかが病死するなど、ハッピーエンドではないものもあります。

 このように、だいたいストーリーの枠組みが決まっていて、その上に様々なパターンを妄想するのがハーレクインの醍醐味です。

 小説というのは、書かれた文字を読むことで、読み手がその内容を追体験できる唯一の表現形態だそうです。
 いわば、体感型シミュレーションを脳内でやっているわけです。

 ですから、ハーレクイン小説を読む女の子たちは、現実には存在しない理想の男性と、これまた現実では起こり得ないシチュエーションで盛り上がることができるのです。
 (なんと素晴らしいジャンルでしょうか!笑)

 数ある作品の中で、自分が気に入るハーレクイン小説があれば、それはそのまま自分の好む恋愛シチュエーションであると言えるかもしれません。

 さて、私が気に入るハーレクイン小説の傾向は、主にラブコメ系、ヒューマンドラマ系、サスペンス系です。(どんな恋愛シチュエーションだ!?)
 女性が一人相撲であれこれ悩むパターンよりは、男性目線で書かれているものの方が好きです。

 つまり、吐き気がするようなお色気たっぷりのラブゲームや、悪寒が走るような甘いメロメロの恋愛パターンではなく、ラブ要素は残しつつ、随所に生活感のある現実味が感じられる作品の方がいいです。

 途方もない資産を持った大富豪と夢のような贅沢体験にはあまり興味がありません。
 曲がり角を曲がれなさそうなくらい長い車には乗りたくないし、目がつぶれそうなくらいピカピカしているパーティーにも、風邪をひきそうなほど寒いドレスにも興味はありません。

 何故か、ハーレクイン小説のヒーローには、金持ちで俺様的態度の「勘違い野郎」が多いのです。
 おそらく、そういう鼻持ちならない男性が、女性にメロメロになるのが良いのでしょうが、いくら後で「好きだ」とか「愛してる」とか言われても、元の性格に難ありなので、萌えません。
 男でも女でも、思いやりのない人は好きになれません。

 そんな勝手な目線で選んだ作品をいくつかご紹介します。

 《年上の恋人(原題:Meeting at Midnight)》(2004)アイリーン・ウィルクス作、山口絵夢訳(2005、ハーレクイン社)
 この作品は、男性目線が多めで、ファンタジーあり、ヒューマンドラマありと、私の好みのバランスが良い作品です。

 《理想の花婿?(原題:Andrew in Excess)》(2000)ジェニファー・ラブレク作、飯田冊子訳(2002、ハーレクイン社)
 この作品は、ラブコメです。台詞の一つ一つもシャレていますし、ドタバタ加減が絶妙です。
 コミックス版(飯塚晶子著、2010、ハーレクイン社)も出ています。

 《週末だけの関係?(原題:The Boss, the Beauty and the Bargain)》(1998)ジュディス・マクウィリアムズ作、永幡みちこ訳(1999、ハーレクイン社)
 この作品は、ラブコメ要素は控えめですが、男性目線あり、主人公たちの恋愛だけでなく、世間の夫婦が抱える悩みや、家族の問題も取り上げてあり、現実的です。
 現実的な世界の中でこそ、ハーレクインの夢物語が一層引き立てられるような気がします。

 《昨日にさようなら(原題:Abduction)》(1981)シャーロット・ラム作、国東ジュン訳(2014、ハーレクイン社)
 この作品は大富豪と結婚という、私が苦手とするシチュエーションの中でも、現実味の感じられるストーリーです。
 これもコミックス版(神谷和都、2015、ハーレクイン社)があります。

 《愛さないで!(原題:A Secret Sorrow)》(1981)カレン・ヴァン・デア・ゼー作、大沢晶訳(2014、ハーレクイン社)
 この作品はハーレクインのカテゴリに入っているのが不思議なくらい、素晴らしいヒューマンドラマです。
 2011年にコミックス版(荻丸雅子、1999、ハーレクイン社)を読んで感動し、日本語訳を探したのですが見つからず、仕方なく原語版をネットでイギリスに注文して取り寄せました。

 人によって感じることは様々ですから、どんな恋愛パターンを読んでも満足できない人はいるでしょうが、たまにはガチガチの理論書を離れて、恋愛の謎深い奥地に分け入ってみるのも一興です。



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