故・渥美清が好きで、TVで寅さんをやっていると、ついつい最後まで見てしまう。
以前学校の課題で、宮本武蔵のキャラクターを借り戯作調にして提出したのだが、その時ぼくの武蔵は、巌流島へ行くの船の中で、まずこう呟く。
「やりたくねえなあ」
ぼくは普段から(一人のときは特に)ボヤーッとしていて、まあそうすることを心掛けているわけではないが、そういう状態でいられるほうが世のため人のため自分のため、いいんじゃねえかなあとは思っている。
「やりたくねえなあ」が、実は渥美清のせりふだったと気付いたのは、そうしてボヤーッとしていた時だった。
あ、あれ渥美清だったんだ。
早稲田の現場の帰り道、駅までの道をトボトボ歩きながら、急に思い出した。
亡くなってから一、二年経って、伝記のようなものを読んだ。
タイトルも忘れたが、故人に昔から因縁の浅からぬ人物の著書だった。
その中で、もう何十何作目かも憶えていないが、まさに映画の撮影の前に、この日本でもっとも有名な、浅草のコメディアン出身の役者は腹からしぼり出すように言うのである。
「ああ、やりたくねえなあ」
手元にその本が無いし、記憶の中でニュアンスが違がってしまっている可能性も大きい。
ただ、一人の男が仕事を前にして、
「やりたくねえなあ」
と独語するという図が、ものすごく胸に響いた。そう言えば、影響されやすいタチのぼくは、読了してしばらくは、よく現場でこの言葉を心の中で言っていた気がする。
面白い顔で、無類に細かい芸で一つの典型を演じ切った役者の、やりたくねえなあ、というため息は、一度そばで聞いてみたかった。
男女とも、アメリカ流の上昇志向が本流となりつつある昨今、こういう部分をお分かりになる人は、少ないかも知れない。
以前学校の課題で、宮本武蔵のキャラクターを借り戯作調にして提出したのだが、その時ぼくの武蔵は、巌流島へ行くの船の中で、まずこう呟く。
「やりたくねえなあ」
ぼくは普段から(一人のときは特に)ボヤーッとしていて、まあそうすることを心掛けているわけではないが、そういう状態でいられるほうが世のため人のため自分のため、いいんじゃねえかなあとは思っている。
「やりたくねえなあ」が、実は渥美清のせりふだったと気付いたのは、そうしてボヤーッとしていた時だった。
あ、あれ渥美清だったんだ。
早稲田の現場の帰り道、駅までの道をトボトボ歩きながら、急に思い出した。
亡くなってから一、二年経って、伝記のようなものを読んだ。
タイトルも忘れたが、故人に昔から因縁の浅からぬ人物の著書だった。
その中で、もう何十何作目かも憶えていないが、まさに映画の撮影の前に、この日本でもっとも有名な、浅草のコメディアン出身の役者は腹からしぼり出すように言うのである。
「ああ、やりたくねえなあ」
手元にその本が無いし、記憶の中でニュアンスが違がってしまっている可能性も大きい。
ただ、一人の男が仕事を前にして、
「やりたくねえなあ」
と独語するという図が、ものすごく胸に響いた。そう言えば、影響されやすいタチのぼくは、読了してしばらくは、よく現場でこの言葉を心の中で言っていた気がする。
面白い顔で、無類に細かい芸で一つの典型を演じ切った役者の、やりたくねえなあ、というため息は、一度そばで聞いてみたかった。
男女とも、アメリカ流の上昇志向が本流となりつつある昨今、こういう部分をお分かりになる人は、少ないかも知れない。