妻がいて孤独

基本的にふざけろ

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2008-02-24 20:46:59 | Weblog
 日曜日は朝からはげしい雨が降った。
 ときおり横風にあおられて、雨つぶが模様の入った窓ガラスをばらばらと鳴らす。
 白い光に満ちた六畳間の中、いぎたなく眠り続けた。
 妻は掃除機をかけている。
「あなた、邪魔」
「はい」
 そういう時は敷きふとんのへりをつかんで、全身でローリングする。シーツもケットも髪の毛もいっしょくたに丸まっての、移動を何度か繰り返した。
 十時過ぎに、ようやくしゃんとする。
 カビくさいユニット・バスで湯を使い、鼻歌のようなものを唸りながら、一週間ぶんのひげを剃る。久方ぶりに鏡を見た。よく寝た後の、緊張感のかけらもない中年男の顔がそこにある。真上からの照明に照らされて、たるんだ皮膚がことさら不吉な陰影を作っている。
 ニッと笑ってみた。口の端ばかりはよく上がったが、まぶたにまで力が及ばず、眠たげな、忘年会途中の係長といったおもむきの表情に、ぬれた前髪が垂れ下がっている。鼻から大きく息を吐いて、しばらく自分の疲れきった真顔とつきあった。
「正視に耐え得る顔ではないな」
 四辺の白濁した鏡の中で、男が言った。
「手前えもな」
 そう言い返し、パンツをはいて六畳間に戻った。掃除を終えた妻は、壁に寄りかかってTVのヴァラエティー・ショウを見ている。疲弊した全身の筋肉にまかせて、半裸のまま畳に横たわった。ちくちくするのに辟易して仰向けになり、そのまま首を曲げてTVを眺める。箱根の温泉宿のリポートで、手頃な値段をうたっている。
 なにか言われるかな、と警戒して起き上がり、ぺたんこの座布団を取り寄せて、尻に敷いた。
 煙草を二本吸った。頃合いを見はかってリモコンでTVを消す。
 風雨の中、自転車に乗り、傘をさして近所のスーパーに行った。
 もともと妻の好むところであるタケノコやこんにゃくや豆腐、そしてフンパツしたのだろう。米や牛肉なども、妻はひじにかけたカゴにぽいぽい入れた。支払いを済ませ、それらの戦利品を自転車のかごに妻ごと入れて、およそ二十分にわたる雨中行軍のすえ、ぼくらはアパートに戻った。
 料理の下ごしらえをあらかた終え、午後ぶばってぼくが鉛筆をけずりはじめたとき、弟がピンポンと鳴る呼び鈴を押した。 




    
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