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歯科技工士・岩澤 毅

滝上 宗次郎 (著) 福祉は経済を活かす―超高齢社会への展望 (勁草 医療・福祉シリーズ)

2010年12月30日 | amazon.co.jp・リストマニア
滝上宗次郎氏の論争的「介護保険論」とあるべき介護の姿, 2010/12/30

By 歯職人

 大手都市銀行調査部出身のエコノミストであり、老人ホーム経営者である滝上宗次郎氏の論争的「介護保険論」であり、日本の高齢化の進展とバブル経済とその崩壊を背景に、1995年までの「ゴールドプラン」「新ゴールドプラン」等々当時の日本の厚生行政の動向分析であり提言を含む論考集である。
 2010年の現在、滝上宗次郎氏の論跡を読み返すことは、介護保険をめぐる現在の政治・行政の混乱を読み解くカギとなる。
 特に、第1部 福祉ビジョンと政治 「1 福祉社会への七つの提言」は、平成6年11月9日の参議院の国民生活に関するむ調査会における40分にわたる証言と議員との質疑の記録は、非専門家である参議院議員とその背景に対する平易な言葉に留意した厚生行政批判を含む「介護原論」の総論と各論として読み継ぎたい。
 一橋大学経済学部、三菱銀行調査部と資本主義の渦中からの医療・介護に関する「市場メカニズムの可否」議論は、良質の根源的問いを提起する。
 滝上宗次郎氏については、二木立氏による「滝上宗次郎さんの追悼」『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻32号)』(「二木教授の医療時評(その39)」『文化連情報』2007年4月号(349号):22-23頁)に、「戦友」に贈るミニ評伝が記載されている。
 二木立氏は、「介護・医療問題の論客で、厚生労働省の政策を歯に衣着せず批判されていた滝上宗次郎さん」と信頼を寄せていた。
 2010年においても、なお読む価値のある一冊です。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4326798955/ref=cm_cr_mts_prod_img
 
滝上宗次郎さんの追悼

出典:「二木教授の医療時評(その39)」『文化連情報』2007年4月号(349号):22-23頁

総研いのちとくらし
http://www.inhcc.org/jp/research/news/niki/20070401-niki-no032.html 

『二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻32号)』(転載)

 1.拙論:介護保険と介護経営の将来を見通すための必読文献

    -滝上宗次郎さんの追悼

 (「二木教授の医療時評(その39)」『文化連情報』2007年4月号(349号):22-23頁)

 介護・医療問題の論客で、厚生労働省の政策を歯に衣着せず批判されていた滝上宗次郎さんが、本年1月20日に亡くなられました。享年54、余りにも早すぎる死でした。滝上さんは、一橋大学経済学部を卒業後、大手銀行調査部を経て、34歳から20年間、有料老人ホーム「グリーン東京」の経営に携わるとともに、経済審議会や公正取引委員会の公職を歴任され、日本の介護・医療政策について積極的に発言されてきました。滝上さんは、私にとって、1995年に介護保険論争が始まった当初からの「戦友」であり、政府の政策形成プロセスと介護産業の実態を熟知し、しかも鋭い人権感覚を持つ滝上さんからは、実に多くのことを教えられました。

 その最たるものは、介護保険構想がまだ水面下で検討されており、私を含めた誰もが、それを介護・福祉制度の枠内での改革と理解していた2004年に、滝上さんが、介護保険制度は「厚生省の本丸であり、行き詰まりを見せている医療制度の建て直し策にすぎない…。要すれば、老人保健法の延命策」と喝破されたことでした(「公的介護保険制度を読む」『日経ヘルスビジネス』1994年10月17日号。『福祉は経済を活かす』勁草書房、1995、147頁)。私はこれを読んで、文字通り「目から鱗」と感じたことを、今でもよく覚えています。

 このように物事の本質を鋭くえぐり出す滝上さんの著作・論文をもう読めなくなったことは残念でなりません。しかし、わずかに救いがあります。それは滝上さんが、昨年、20年間の有料老人ホーム経営と言論活動を集大成した、2つの著作・論文を発表されていたことです。それらは、『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』(講談社)と「つねに最強を目指す!有料老人ホーム経営の極意」(『拡大するシニアリビング・マーケット Vol.2(日経ヘルスケア21別冊)』109~129頁)です。私は、これらは、今後の介護保険制度と介護施設経営を見通すための、必読文献と考えています。そこで、私なりの滝上宗次郎さんの追悼として、これら2つの文献の紹介と私が学んだことを書きたいと思います。

 『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』

 本書は、次の4部構成です。第1部 介護保険はじり貧で、家族介護は崩壊。第2部 残された選択肢は、有料老人ホームだけ。第3部 認知症(痴ほう)の介護で、ホームの実力がわかる。第4部 ホーム選びの勘どころと、豊かに生きる知恵。本書を読むことで、「日本のあるべき医療と介護についての基本姿勢」を確認できます。

 第1部は、「介護から見た日本戦後史」兼、近未来の介護の見取り図です。厚生労働省やマスコミ、多くの福祉関係者は、最近、在宅ケア(介護・医療)や家族介護を前提とした「地域密着型サービス」を礼賛しています。それに対して、滝上さんは「家族介護は崩壊の道へ」進むことをリアルに見つめて、「在宅介護は経済原則を無視している」、「在宅介護よりも施設介護というものがいかに温かいもので、かつサービスの質が高いものであるか」を、正面から主張しており、迫力があります。

 第2~4部は「賢い有料老人ホームの選び方」で、誇大広告が氾濫するなかでの有料老人ホーム選びの極意が書かれています。まず入居契約書でもっとも重要なことは、契約して90日以内に解約をすれば、前払いした入居金のほぼ全額が戻ってくる「解約特例」であることが強調されています。さらに、有料老人ホームの見学や体験入居時のチェックポイントがていねいに書かれています。

 本書を読むと、「お金に余裕のある高齢者」(持ち家を処分できる厚生年金受給者)には、今後、有料老人ホームが最大の選択肢になることがよく分かります。他面、低所得高齢者には、厳しい老後が待っていることも分かり、寂しい気持ちになりました。
 
  「有料老人ホーム経営の極意」

 「つねに最強を目指す!有料老人ホーム経営の極意」は、A4判22頁の大論文です。滝上さんの名経営者としての個人史と、厚生労働省の後追い行政、および「それによって動揺を続けた[老人ホーム-二木]業界の歴史」が共鳴し合って、迫力満点です。入居者の側になって書かれた『やっぱり「終のすみか」は有料老人ホーム』と本論文を合わせ読むと、今後、「居住系サービス」の中心となる有料老人ホームの全体像を理解することができます。

 私が特に勉強になったのは、以下の諸点です。1998年にデンマークの生活支援法が廃止されていた(119頁)、有料老人ホーム経営とは「超」長期戦であり、しかもオーナー経営者の方が有利(120頁)、有料老人ホームにはチェーン展開のメリットはないが、スケールメリットはある(126頁)、「民営化」政策と「消費者保護」政策とは車の両輪(126頁)、福祉の民営化は全ての役所にとって権限を拡大できる草苅場となっている(128頁)。と同時に、本論文を読むと、一般の大企業のマトモな経営者・担当者なら、有料老人ホームの全国展開からは腰が引けるのでは?とも感じました。

 私は、滝上さんが「20年間業界のトップを走り続けた」理由は、(1)滝上さんの類い希な経営者兼行政ウオッチャーとしての能力、(2)オーナー経営者兼大資産家の御子息であること(124頁にチラリと書いてあります)の2つに加えて、(3)チェーン展開をせず、1ホームの経営とサービスの質の向上に徹したことにあると思っています。実は、複合体の経営者にも、サービスの向上よりも事業の規模・拠点拡大を重視する事業家タイプの方と、1拠点内でのサービスの質の向上を重視する「こだわり派」がいます。 

フクシハケイザイヲイカス チョウコウレイシャカイヘノテンボウ ケイソウイリョウフクシシリーズ 62
勁草 医療・福祉シリーズ〈62〉
福祉は経済を活かす―超高齢社会への展望

滝上 宗次郎【著】
勁草書房 (1995/06/25 出版)

289p / 19cm / B6判
ISBN: 9784326798957
NDC分類: 369.26
価格: ¥2,520 (税込)

詳細
快刀乱麻を断つ処方箋。
高齢化の論点すべてに本音で答える。


第1部 福祉ビジョンと政治
第2部 福祉ビジョンと経済
第3部 老人保健法と公的介護保険制度
第4部 福祉拡大のための行政改革
第5部 市場メカニズムの可否
第6部 老人医療とは何か

福祉社会の青写真をどのように描くか。福祉の政治的,社会的役割とは何か。財源の調達は。社会保険か,税か,行政改革か。高齢化の論点すべてに本音で答える処方箋!

【目次】
はじめに
総論

第1部 福祉ビジョンと政治
 1 福祉社会への七つの提言

第2部 福祉ビジョンと経済
 2 福祉の経済学
 3 21世紀福祉ビジョンを批判する

第3部 老人保健法と公的介護保険制度
 4 厚生省の思惑
 5 大蔵省の思惑

第4部 福祉拡大のための行政改革
 6 無駄の目立つ厚生行政
 7 新ゴールドプランの意義

第5部 市場メカニズムの可否
 8 シルバー産業を再編する介護保険
 9 有料老人ホーム小史

第6部 老人医療とは何か
 10 末期医療、尊厳死、老人福祉(対談)

掲載誌
あとがき 

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