神秘の島

これは、日本海域に浮かぶ離島で暮らしていたアカネが、郷里に帰ってからも巻き起こす、陳腐な体験の数々である・・・

鳩よ・・・。

2009年04月16日 | 日々是好日
 小学生の頃、父が会社の人からヤマバトの雛を保護してきて、飼ってたことがある。一羽は羽が変形するみたいな病気になって死んでしまったが、もう一羽は立派に育って近くの山へ飛び立って行った。
 その後、奥さんをつれて納屋にニワトリのエサを食べに来たりして、このあたりのヤマバトには確実にポッポの血が受け継がれているに違いない。


 こないだの日曜、母に言われて枝豆を三畝播いた。
「糸張ったかや?糸はっちょかな鳩に食われてしまうぞ。」
 父が言った。
 アカネは畝の上にタコ糸を張った。一直線に。
「そんなんでいくかや。もっと縦横無尽に張らないかんわや。」
 帰ってくると、また父が言った。そこでアカネはタコ糸を全部使って、畝の上にタコ糸を張り巡らした。
 次の日、また父が言った。
「朝見たらよ、早速鳩が来てほじくりよったぞ。」
「え”!?あんだけ糸張ったのに!?」
「あればあじゃいかんがよ。俺が網被せちょっちゃお。」

 確かに、出勤前に畑の横を通りかかると、鳩の夫婦が仲睦まじく枝豆の畝の上に降り立っているではないか。
 バイトから帰ってくると、父がナイロンの網を三畝に被せてくれており、鉄壁のガードという感じだ。

 
 次の日、バイトから帰ってくると、父が言った。
「鳩が網にかかっちゅうけんど。食うか。」
「いつ?」
「朝かかっちょったぞ。まぁほっちょいたらカラスか猫が来て食うろう。」

 まだ生きているなら助けてやらねばと、アカネは鋏を持って畑へと急いだ。

 鳩はもうこと切れていた。
 足に絡まったのをほどこうとして暴れたため、ナイロンが羽や胴体に絡まり、最後は首が締まって窒息死したらしい。
 アカネは網をほどこうと悪戦苦闘したが、最後には訳がわからなくなって鋏の力を借りて死骸を外した。

 あ~あ。
 バカなヤツ。
 山に食べ物ないんか??

 ふと見ると、畝の隅に犬が喰い荒したように羽が飛び散っている。この鳩の周りには羽が落ちていないので不思議に思って行ってみると、なんともう一羽からまっているではないか。
 しかも、血まみれになりながら、まだ生きている。
 アカネは鳩を押さえつけ、なんとか網を外すことに成功した。両羽の付け根にナイロンが喰い込んでかなり出血し、羽毛も抜けて傷が深そうだ。かなり長いことこの罠と闘ったのだろう。

 アカネが手を放しても逃げださず、じっとうずくまっている。
 アカネは死んだ一羽を見せしめとして畝の上に吊るしながら、この鳩をどうすべきか考えていた。

 
 このまま立ち去れば、間違いなくカラスの餌になるだろう。それはカラスにとっては有り難いことである。
 でも・・・。
 網を外そうとして押さえつけていた時、鳩は温かかった。柔らかくて、羽毛がとても気持ち良かった。子供の時のアカネだったら、鳩が可哀そうで、何とか助けたくて助けたくて、苦しんだはずだ。
 今でも、少しだけ、そういう心が残っているらしい。
 迫ってくる夕闇に、身体を丸めて挑むしかない鳩を前にして、アカネはやっぱり帰れないのだった。

 この鳩を助けるメリットは少しもないが。
 でもコンテナの中で保護できないか?
 傷口に赤チンで消毒してやって。
 身体を温めるために、毛布や布を敷いてやって。アンカーも入れた方がいいかな?
 水も入れてやって。
 納屋やったら猫が来るき、ベランダやったらいいかな?(家の中は無理だ、妹らおるしお婆がけつまずく。)

 そうだ、そうしよう。
 それで、もし死んでしまったらカラスにくれてやればいい。

 アカネは鳩を抱き抱えようと、手を伸ばした。
 鳩は逃げだした。
 精一杯の力を振り絞って、傷ついた羽で谷の方へと飛んでゆく。
 電線にとまっていたカラスがさーっと飛んだ。
 低空飛行で必死に飛ぶ鳩に、みるみる追いついてゆく。
 上から抑え込んだ。
 そのまま、谷の方へと降りて行った。
 そうして、鳩もカラスも見えなくなった。


 こうなったか。



 
 あたし、明日の朝、網外す。
 ほんで、鳥が触っても絡まらんように、糸いっぱい張るわ。

筍病

2009年04月13日 | 日々是好日
 あ、ども。久しぶり。
 更新せざってまっことスマン。

 いかん、テンション上がらんもの。

・・・・とかいう自分のモチベーションを無理やり上げつつ、更新いたします。


 えっとですねー、先月の22日に、地場産の登録が終わって野菜とか出せることになった。
 今植えちゅうがが、「トレンディなサラダゴボウ」と「紅アカリ」(じゃが芋)と品種のよーわからん自家じゃが芋。
 後、トウガラシの苗育てゆうがと、籾播いたとこ。
 18日に、雑穀の種蒔いて、自家採取してないきトマトとかきゅうりとかパプリカとかのバッチリ農薬浴びた苗買うてくる。

 ・・・そんな感じやき、今地場産に出せるのは山菜だけ。
 山菜ゆうても、フキは売るばあ生えてないし、イタドリはどこに生えちゅうか知らんし、採って売れるのはワラビとタケノコだけ。

 そう、ワラビとタケノコ!!

 この二つは、採っても採ってもタダなのだ!
 
 
 アカネは朝6時から山に入り、ワラビを採り尽くして帰ってき、茹でてさらして出勤するって日々を繰り返した。そうすると、次の日にはあく抜きワラビを売ることができる。
 または、ワラビを採らない朝は荒れ田に行ってタケノコを掘って来て、“朝掘りしました”ってポップを作って、そのまま地場産に出したりした。

 少量づつ出しているためかあまり売れ残ることがなく、アカネは絶好の極みであった。
 
 もっともっと、採りたい!
 特にワラビよりもタケノコの方がよく売れるので、タケノコをもっと欲しい!!

 アカネんちの“東の畑”は、両側を竹林に囲まれており、この時期は東西からタケノコ族の侵入に悩まされる。アカネにとって、タケノコ狩りはそんな魔の手から畑と田んぼを守る、そんな神聖な使命感さえあった。

 
 さて、この東の畑の状況をもう少し詳しく述べておく。
 アカネのは少し高台にあり、この東の畑は海に向かって突き出した小さな岬(今はその下に国道も通って集落もあるが、もともとは海岸が隆起してできた土地なのだ)の上にある。だから周りは急な谷で、その谷底と斜面を雑木林と竹林が覆っているのだ。
 
 うちの畑の横に、5年ほど放棄した田んぼが野生化しつつあり、野イチゴやムカゴやタケノコが採れる、まことに有り難い荒地へと様変わりしている。
 で、手入れをせずに久しくなったもんだから、地盤がゆるくなってしまったのか、去年の夏この荒れ田が大崩落を起こした。東側の畦ががっぽり谷底に滑り落ち、竹をなぎ倒して流れ出た土砂の姿は圧巻であった。
 すぐ横がうちの田んぼであり、肝を冷やしたことである。


 この荒れ田のタケノコは早い者勝ちなので、アカネ以外の人間も目を光らせているし、東の畑とここのタケノコだけでは毎日地場産で売れるような量にはならない。
 それにアカネは、タケノコの漬物とか、干しタケノコとか、タケノコの酢漬けとか、ずっと出せるようにどっさりどっさり保存しておきたいのである。

 東の田んぼの田植の手伝いに行っていると、崩落を起こしていない方の谷に、巨大なタケノコが黒々と伸びているのが目に入った。
 一つ見つけると次から次へと見つかるもので、谷の斜面にはそこら中に生えまくっている。

 
 アカネは欲望を押えきれなくなった。

 心の中では、いつ崩れるかもしれない急な斜面に立ち入る危険性とか、父のぶかぶかの長靴を履いた状態で足場の悪いところへ入っていく危険性とか、もしアカネがこけたりしても田植機操縦中の父は絶対に気付かないという危険性とか、いっぱい警鐘が鳴り響く。

 だが!!

 アカネの中の、“小銭を稼ぎたい☆”っていうセコイ欲望が、それらを打ち負かした。
 アカネはツルハシを持って、前人未踏の谷底へ下りて行ったのである。


 足場は悪いし、片手はツルハシで塞がってるし、“崩れるかもしれない”って恐怖が心臓を刺激するのに、タケノコたちはそんなバカネを奥へ奥へと誘っていく。
 すでに竹林の中ではタケノコが巨大に成長しており、土と竹しかない世界で黒々と光る巨体は異色であり、意志を持った生物のようにも見える。
 黒く毛むくじゃらのタケノコは、今にも地滑りを呼び起こしてアカネを飲み込んで蠢きそうであり、金銭欲と恐怖がごちゃまぜになって、なんだか気分まで悪くなってきた。

 結局、谷から持って上がってこれたタケノコは3つであった。(持ち運びを考えなくてはならない。)

 
 夕飯のときも、巨大なタケノコ群が蛇の胴体のようにも巨大な芋虫のようにも思い起こされて気持ち悪かった。


 この谷は、宝の谷となるのだろうか?
 それとも、アカネは、谷に拒絶されているのであろうか??