小学生の頃、父が会社の人からヤマバトの雛を保護してきて、飼ってたことがある。一羽は羽が変形するみたいな病気になって死んでしまったが、もう一羽は立派に育って近くの山へ飛び立って行った。
その後、奥さんをつれて納屋にニワトリのエサを食べに来たりして、このあたりのヤマバトには確実にポッポの血が受け継がれているに違いない。
こないだの日曜、母に言われて枝豆を三畝播いた。
「糸張ったかや?糸はっちょかな鳩に食われてしまうぞ。」
父が言った。
アカネは畝の上にタコ糸を張った。一直線に。
「そんなんでいくかや。もっと縦横無尽に張らないかんわや。」
帰ってくると、また父が言った。そこでアカネはタコ糸を全部使って、畝の上にタコ糸を張り巡らした。
次の日、また父が言った。
「朝見たらよ、早速鳩が来てほじくりよったぞ。」
「え”!?あんだけ糸張ったのに!?」
「あればあじゃいかんがよ。俺が網被せちょっちゃお。」
確かに、出勤前に畑の横を通りかかると、鳩の夫婦が仲睦まじく枝豆の畝の上に降り立っているではないか。
バイトから帰ってくると、父がナイロンの網を三畝に被せてくれており、鉄壁のガードという感じだ。
次の日、バイトから帰ってくると、父が言った。
「鳩が網にかかっちゅうけんど。食うか。」
「いつ?」
「朝かかっちょったぞ。まぁほっちょいたらカラスか猫が来て食うろう。」
まだ生きているなら助けてやらねばと、アカネは鋏を持って畑へと急いだ。
鳩はもうこと切れていた。
足に絡まったのをほどこうとして暴れたため、ナイロンが羽や胴体に絡まり、最後は首が締まって窒息死したらしい。
アカネは網をほどこうと悪戦苦闘したが、最後には訳がわからなくなって鋏の力を借りて死骸を外した。
あ~あ。
バカなヤツ。
山に食べ物ないんか??
ふと見ると、畝の隅に犬が喰い荒したように羽が飛び散っている。この鳩の周りには羽が落ちていないので不思議に思って行ってみると、なんともう一羽からまっているではないか。
しかも、血まみれになりながら、まだ生きている。
アカネは鳩を押さえつけ、なんとか網を外すことに成功した。両羽の付け根にナイロンが喰い込んでかなり出血し、羽毛も抜けて傷が深そうだ。かなり長いことこの罠と闘ったのだろう。
アカネが手を放しても逃げださず、じっとうずくまっている。
アカネは死んだ一羽を見せしめとして畝の上に吊るしながら、この鳩をどうすべきか考えていた。
このまま立ち去れば、間違いなくカラスの餌になるだろう。それはカラスにとっては有り難いことである。
でも・・・。
網を外そうとして押さえつけていた時、鳩は温かかった。柔らかくて、羽毛がとても気持ち良かった。子供の時のアカネだったら、鳩が可哀そうで、何とか助けたくて助けたくて、苦しんだはずだ。
今でも、少しだけ、そういう心が残っているらしい。
迫ってくる夕闇に、身体を丸めて挑むしかない鳩を前にして、アカネはやっぱり帰れないのだった。
この鳩を助けるメリットは少しもないが。
でもコンテナの中で保護できないか?
傷口に赤チンで消毒してやって。
身体を温めるために、毛布や布を敷いてやって。アンカーも入れた方がいいかな?
水も入れてやって。
納屋やったら猫が来るき、ベランダやったらいいかな?(家の中は無理だ、妹らおるしお婆がけつまずく。)
そうだ、そうしよう。
それで、もし死んでしまったらカラスにくれてやればいい。
アカネは鳩を抱き抱えようと、手を伸ばした。
鳩は逃げだした。
精一杯の力を振り絞って、傷ついた羽で谷の方へと飛んでゆく。
電線にとまっていたカラスがさーっと飛んだ。
低空飛行で必死に飛ぶ鳩に、みるみる追いついてゆく。
上から抑え込んだ。
そのまま、谷の方へと降りて行った。
そうして、鳩もカラスも見えなくなった。
こうなったか。
あたし、明日の朝、網外す。
ほんで、鳥が触っても絡まらんように、糸いっぱい張るわ。
その後、奥さんをつれて納屋にニワトリのエサを食べに来たりして、このあたりのヤマバトには確実にポッポの血が受け継がれているに違いない。
こないだの日曜、母に言われて枝豆を三畝播いた。
「糸張ったかや?糸はっちょかな鳩に食われてしまうぞ。」
父が言った。
アカネは畝の上にタコ糸を張った。一直線に。
「そんなんでいくかや。もっと縦横無尽に張らないかんわや。」
帰ってくると、また父が言った。そこでアカネはタコ糸を全部使って、畝の上にタコ糸を張り巡らした。
次の日、また父が言った。
「朝見たらよ、早速鳩が来てほじくりよったぞ。」
「え”!?あんだけ糸張ったのに!?」
「あればあじゃいかんがよ。俺が網被せちょっちゃお。」
確かに、出勤前に畑の横を通りかかると、鳩の夫婦が仲睦まじく枝豆の畝の上に降り立っているではないか。
バイトから帰ってくると、父がナイロンの網を三畝に被せてくれており、鉄壁のガードという感じだ。
次の日、バイトから帰ってくると、父が言った。
「鳩が網にかかっちゅうけんど。食うか。」
「いつ?」
「朝かかっちょったぞ。まぁほっちょいたらカラスか猫が来て食うろう。」
まだ生きているなら助けてやらねばと、アカネは鋏を持って畑へと急いだ。
鳩はもうこと切れていた。
足に絡まったのをほどこうとして暴れたため、ナイロンが羽や胴体に絡まり、最後は首が締まって窒息死したらしい。
アカネは網をほどこうと悪戦苦闘したが、最後には訳がわからなくなって鋏の力を借りて死骸を外した。
あ~あ。
バカなヤツ。
山に食べ物ないんか??
ふと見ると、畝の隅に犬が喰い荒したように羽が飛び散っている。この鳩の周りには羽が落ちていないので不思議に思って行ってみると、なんともう一羽からまっているではないか。
しかも、血まみれになりながら、まだ生きている。
アカネは鳩を押さえつけ、なんとか網を外すことに成功した。両羽の付け根にナイロンが喰い込んでかなり出血し、羽毛も抜けて傷が深そうだ。かなり長いことこの罠と闘ったのだろう。
アカネが手を放しても逃げださず、じっとうずくまっている。
アカネは死んだ一羽を見せしめとして畝の上に吊るしながら、この鳩をどうすべきか考えていた。
このまま立ち去れば、間違いなくカラスの餌になるだろう。それはカラスにとっては有り難いことである。
でも・・・。
網を外そうとして押さえつけていた時、鳩は温かかった。柔らかくて、羽毛がとても気持ち良かった。子供の時のアカネだったら、鳩が可哀そうで、何とか助けたくて助けたくて、苦しんだはずだ。
今でも、少しだけ、そういう心が残っているらしい。
迫ってくる夕闇に、身体を丸めて挑むしかない鳩を前にして、アカネはやっぱり帰れないのだった。
この鳩を助けるメリットは少しもないが。
でもコンテナの中で保護できないか?
傷口に赤チンで消毒してやって。
身体を温めるために、毛布や布を敷いてやって。アンカーも入れた方がいいかな?
水も入れてやって。
納屋やったら猫が来るき、ベランダやったらいいかな?(家の中は無理だ、妹らおるしお婆がけつまずく。)
そうだ、そうしよう。
それで、もし死んでしまったらカラスにくれてやればいい。
アカネは鳩を抱き抱えようと、手を伸ばした。
鳩は逃げだした。
精一杯の力を振り絞って、傷ついた羽で谷の方へと飛んでゆく。
電線にとまっていたカラスがさーっと飛んだ。
低空飛行で必死に飛ぶ鳩に、みるみる追いついてゆく。
上から抑え込んだ。
そのまま、谷の方へと降りて行った。
そうして、鳩もカラスも見えなくなった。
こうなったか。
あたし、明日の朝、網外す。
ほんで、鳥が触っても絡まらんように、糸いっぱい張るわ。