◆【正論】評論家 鳥居民
なぜ中国は北を必死に庇うのか ■全ては米国の「和平演変」阻止に
≪恐れるのは東北の暴発か≫
今回、中国は、もはや隠すこともなく北朝鮮を庇(かば)いとおしてみせた。だれもが、なぜなのであろうと考えたにちがいない。
つい最近、米紙ニューヨーク・タイムズの中国通、ニコラス・クリストフ氏が、胡錦濤国家主席(党主席)はどういう考えの持ち主なのかを説明して、北朝鮮の政治体制を称賛した人物なのだと説いたことがある。とすれば中国共産党が見習わなければならない北朝鮮の政治体制を守ろうとして、胡錦濤主席は北朝鮮を庇い続けたのだろうか。
次の説明はどうだろう。
中国共産党が一番懸念している地域は、独立を望むウイグル民族が住む新疆ではなく、東北なのだと中国公安の首脳がアメリカ政府の幹部に語ったという。
かつて中国を牽引(けんいん)する機関車だった東北の重工業地帯は衰退して久しい。北朝鮮の政体が崩壊して、東北が騒擾(そうじょう)状態になるのを恐れているからだという。そこで中国共産党は北朝鮮を支えねばならないのだと。
私は次のように見ている。胡錦濤氏と国家副主席の曽慶紅氏が恐れているのは、今日も明日も、アメリカである。アメリカを恐れているからこそ、「ならず者の国家」を庇わなければならないのだ。
どういうことなのかを語る前に、年配者にとって懐かしい文章を次に掲げよう。
「人間による人間の搾取のない国、市民間に政治上のみならず、経済上の平等が存在する国、民主的自由が形式的または法律的に宣言されているばかりでなく、社会生活の物質的諸条件によっても、事実上保証されている国…」
引用はこのくらいにしよう。言わずとしれた、ソ連の宣伝誌に掲載された文章である。
驚く人がいるかもしれないが、昭和20年6月の同盟通信社が海外ニュースを収録した旬報に、これは載せられていた。たしかに、この旬報をだれもが読むことはできなかったが、広島・宇品の陸軍基地の「情報班」にいた丸山一等兵はこれを読むことができ、この一節を写し取ったのである。
≪自己正義に胸張れぬ幹部≫
丸山真男氏のみならず、多くの人が「ソ連の民主主義」を戦後ずっと信じつづけた。そればかりか、たとえば1957年に毛沢東が「大民主」を唱え、「小民主」の知識人を粛清したとき、「大民主」とは「臣従と衆愚」ではないかといった疑いを抱いてはならないと自分を戒めた人が少なからずいたのである。
その共産主義の教義とシステムは1989年から1991年にかけて瓦解した。中国では、そのあとも共産党が独裁をつづけているが、「われわれの民主主義」こそが正しいのだと胸を張る党書記はいない。胡錦濤主席は金正日体制を羨(うらや)むといった情けないありさまで、あとになれば恥ずかしい限りと後悔したはずだ。
毛沢東時代には、どれだけ多くの人を殺しても、自己のイデオロギーの正統性を信じ、自己正義に満ちていたのが、現在の中国指導者はまったくの守勢に回っている。胡錦濤氏がなによりも恐れるのは、アメリカが中国に仕掛けてくる「和平演変」である。武力行使なしに、この共産党の独裁政権が転覆されることだ。
「和平演変」への道をひとつ挙げよう。中国は15年かけて2001年にやっと世界貿易機関(WTO)に加盟できた。そのためにはアメリカの要求に従い、1997年には「国連人権A規約」に署名した。1年後の1998年には「国連人権B規約」に署名して、生命、身体の自由と安全についての権利を認め、思想・良心・宗教の自由、表現の自由、集会・結社の自由を認めると約束した。
≪望むのは問題国家の存続≫
だが、WTOに加盟してしまえば、中国共産党が「和平演変」を自ら行うはずはない。そこでずっと恐れてきたのは、アメリカにあれこれ干渉されることだ。
どうしたらよいのか。胡錦濤、曽慶紅の両氏が望むのは、「問題国家」が消滅しないことだ。「ならず者国家」が絶えずゴタゴタを引き起こし、アメリカをして今日も明日も中国に否応なしに助力を求めるようにさせ、中国に向かって文句を言わせない状況に追い込んでおくことだ。
ミサイルと原爆を持とうとする北朝鮮の存在は、アメリカをして中国の助力を明日もまた必要とさせ、中国共産党の独裁を明日につなげる保証となる。
中国共産党のすべての政策は、「和平演変」の阻止を目指して展開されていることを、中国観察者は忘れてはならない。(とりい たみ)
◆中国 ネット規制巧妙化 パソコンごとの検閲 回避ブラウザに対抗
【北京=福島香織】中国が国家プロジェクトとして進めているネット規制システム「金盾」をバージョンアップし、パソコン別検閲が可能となるなど、より巧妙化している。
中国ではこの春から初夏にかけてMSN、hotmailやグーグル、国内大手検索サーチエンジンの新浪、捜狐などが相次いでアクセス障害やサービス停止になっていた。関係者は、これをネットを規制するという政策のために必要なバージョンアップ作業、検閲対象用語の増加のためとしていた。
しかし、金盾プロジェクトの技術関係者によれば、今回のバージョンアップは単なる検閲対象ワードの増加だけでなく、システム自体が進化したという。これまでは検閲対象用語をもとに、サイトへ一律に接続遮断を行っていたが、今後はパソコンのIPアドレス(ネット上の識別番号)ごとに、アクセス履歴を解析、そのユーザーの政治的傾向を分析した上で接続の可否を判断していくという。
たとえば娯楽サイトしかアクセスしていないパソコンが、「人権」という用語で検索したり、人権サイトにアクセスしたりしても問題ないが、チベットやウイグル族関連のサイトにアクセスし続けたあとに接続しようとすると、遮断される仕組みになるという。
これだと、同じサイトでも接続できる人と接続できない人が出て、特定の用語やサイトがアクセス禁止の対象となった印象を与えにくい。遮断された方も接続できないのはネット規制によるものではなく、自分のパソコンやサーバーの調子が悪いためだと納得してしまいがちだ。ユーザーに検閲されていると気づかせないように、巧妙にネット規制を実施するのが狙いだ。
こういった当局のネット規制の巧妙化の背景には、規制が厳しくなるほど、その対抗システムが発達するという状況がある。たとえば、北京のソフト会社が03年に発表したプロキシ機能を持つ中国製フリーウエアブラウザ「傲游(Maxthon)」は本来、過剰なネット広告のフィルタリング機能が売りだった。
が、同ブラウザを使えば、当局が行うネット規制が回避できることがわかり、それが人気を呼んだとみられ、「中国国内で約3600万回(全世界では6000万回以上)もダウンロードされ、少なくとも中国のネットユーザーの17%以上が利用している」(傲游広報)という。
中国インターネット情報センターによれば6月末までに、中国のネット人口は1億2300万人に達し、ネット普及率は9・4%。半年前1500万人だったブロガーは2800万人となり、一大情報発信源となっている。