透明人間たちのひとりごと

樽の聖者のこぼれ話

 紙幅に 余裕 のある時に ディオゲネス の逸話
を紹介すると … 『老子とディオゲネスの樽』
の記事のなかで申し上げましたが、

exclamation http://sun.ap.teacup.com/japan-aid/305.html(参照) 

 5号『理想(上善)は水の如く』 でも …
1号 さんの記事 『六根清浄(どっこいしょ)』
にも、それぞれに何らかのかたちで ディオゲネス
ついて触れているので いくつか見繕ってみることにします。

 ディオゲネス5号「樽の聖人」 という
尊称で表現しましたが、聞こえのいい語感なので、これから
はそう呼ぶことにしようか とも思ったのですが、そのまま
では癪に障るので 「樽の聖者」 とすることにします。

 なんとまあ、

 (部下に対抗意識を燃やしちゃって小さい男だねぇ)

 まあまあ、ase2 そう言わず、とりあえず略歴から …

 樽の聖者ディオゲネス(BC412?~BC323?)は
裕福な両替商ヒケシアスの息子として黒海沿岸の町シノぺ
(現在のトルコ領)に生まれました。

 父親あるいは彼自身が通貨改鋳の罪を犯したために国外
(ポリスの外)に追放された後に航海中の海で海賊に捕らえ
られ、奴隷として売られてしまうのです。

 何故に、そんな憂き目に遭ったのかquestion2 

 それは、あるとき 「国に広く流通しているものを変える
のが使命である
」 との神託が彼に下ったからなのです。

 <国に広く流通しているもの>とは何か

 それを彼は 「貨幣」 だと考えました。

 「貨幣」 は人間が発明したもののなかで最大にして
最悪のものであると 2号 は常々痛感しているわけです
が、デイオゲネスは人間を支配しているのはではなく
お金であると看破していたのです。

 両替商の息子に生まれた彼には、「お金の魔力」
がすべての元凶貨幣こそが悪しき神々のよう
に見えたのでしょう。

 通貨改鋳 right 通貨偽造、所謂(いわゆる)贋金造りをした
わけですが、その意図は貨幣の信用をなくし、その支配力
や魔力から人間を開放しようと試みたからなのです。

 しかし、一個人の手でそんな大それた社会改革が可能な
はずもなく、彼は捕らえられ財産を没収されて、シノぺから
追放されたのです。

 こうして異国に渡る船上で、今度は海賊に襲われて奴隷
に身を窶(やつ)す破目となったのです。

 この時期までのディオゲネスの名言(迷言) …

 01 金持ちの家に招待された折に 「盗人、この門を入る
    べからず」の看板を見て「この家の者はどこから中に
    入ればよいのか」 と言った。

 02 また「家の中ではタンを吐かないで」と言われた彼は
    その家の主人の顔にタンを吐きつけた。

    「タンを吐いてもよさそうな汚い場所を探したところ、
    アナタの顔がそこにあったので…」 というオチです。

 海賊に捕まり、クレタ島に連れて行かれたディオゲネスは
そこで奴隷として売り出されます。

 奴隷商人が「おまえは何ができるか」と質問すると「神々
のように人を支配することができる」と豪語したのです。

 03 人間は誰も何者かの奴隷になっている。特に自分の
    欲望の奴隷になっている。欲望こそが人間の主人な
    のだ。欲望に操られて動く人間はみんな奴隷である。

 そんな奴隷の言葉にじっと耳を傾けていた男がいました。

 コリントス人のクセニアデスという富豪です。

 彼は「あなたのような主人が私には必要だ」と冗談を言い
ディオゲネスを買い上げたのです。

 ディオゲネスは、家庭教師としてクセニアデスの息子を
育てあげ、また経理の才を生かし彼の商売を助けたので、
クセニアデスは大いに喜びディオゲネスを奴隷の身から
開放してくれたのです。

 晴れて自由の身となったディオゲネスはアテナイの町に
やってきます。そこでソクラテスの弟子のアンティステネス
という哲学者と出会うのです。

 この出会いが彼の人生と運命を変えることになります。

 「物欲に振り回されてはいけない。物欲を捨て去り、精神
の鍛錬に励み、魂のためだけに生きなければいけない」 と
するソクラテスの教えを実践しようとするアンティステネスの
姿勢こそが哲学者としての正しいあり方であり、財産を捨て
、粗末な身なりで簡素な生き方の素晴らしさを説き、自らも
そうした生活を実践する彼のなかに真の哲学者のあるべき
姿を見たディオゲネスは、彼にも増してアンティステネスの
ような生活をしようと志したわけなのです。

 アンティステネスに弟子入りを願ったディオゲネスでした
が、彼は弟子を取らないことにしていたので断ります。

 それでも、何度も しつこく頼み込むデイオゲネスに業を
煮やしたアンティステネスが杖で頭を殴ろうとすると …

 ディオゲネスはこう叫んだのです。

 04 「どうぞ殴ってください。 木は私を追い出すほどに
    堅くはありません」

 こうしてディオゲネスは、アンティステネスの弟子となり、

 師の 「徳」 に対する思想を受け継ぎ、物質的な快楽を
求めず粗末な衣を身に纏(まと)って、頭陀袋(ずだぶくろ)
ひとつとランプのみで乞食のような生活を始めたのです。



 彼は樽に住み野良犬のような生活をしていましたので、
「樽のディオゲネス」 や 「犬の哲学者」 と呼ばれました。

 05 「なぜ犬と呼ばれるのか」 と訊ねると 「ものを与えて
    くれる人たちには尾を振り、与えてくれない人たちに
    は吠え立て、悪者どもには噛みつくからだ」 と答え、

 06 また、ある人たちが宴会で、まるで犬にでもやるよう
    にしてディオゲネスに骨を投げ与えたところ、彼らに
    対してディオゲネスは、ちょうど犬がするように小便
    をひっかけたのです。

 07 広場で物を食べているところに人が集まってきて
    「まるで犬だ」 と罵られたので、「人間が物を食って
    いる時に集まってくるお前たちこそが犬じゃないか」
    と言い返しました。

 08 昼からランプに灯をともして、町中を徘徊し「人間を
    捜しているが見つからない」 と言って嘆いたのです。


 さて、
 
 BC336年に、アレキサンダー大王(アレクサンドロス)が
コリントスの将軍として訪れた際に、敵対していた政治家
や名のある人物の誰もが大王を表敬訪問するなかで唯一
ディオゲネスだけが挨拶に来なかったので、この風変わり
な老人に大王の方から会いに行ったのです。



 09 日向ぼっこに勤(いそ)しんでいるディオゲネスに
    大勢の供を引き連れた大王が声をかけ、「何か望む
    ことはないか」 と尋ねると 「そこに立たれると日陰に
    なるからどいてください」 とだけ彼は言いました。

 帰途に着く大王は悠揚せまらぬ応対に感服し、「もし私が
アレクサンドロスでなかったらディオゲネスになりたい」 と
呟いたとされています。

 プラトンはディオゲネスを 「あれは狂ったソクラテスだ」 と
いつも評していたようですが …

 10 プラトンが 「人間とは二本足で身体に羽根のない
    動物である」 と定義して好評を得たときに、羽根を
    むしった雄鶏をつきつけて 「これがプラトンの言う
    人間だ」と言ったとされる『プラトンの雄鶏』の故事
    は有名ですが、その後プラトンは先の定義の言葉
    に 「平たい爪をした」 という文言を付け加えること
    にしたといいます。

 11 プラトンのイデア論において 「机そのものとか、杯
    そのもの」 という言い方がされた時、ディオゲネス
    は自分には 「机や杯」 は見えるけど 「机そのもの
    とか、杯そのものなど一向に見えないね」 と言った
    と伝えられています。

 12 「あなたはどこの国の人ですかquestion2」 と質問されると、
    必ず 「太陽はいくつありますかquestion2」 と問い返した。 
    「ひとつです」 と答えるとディオゲネスは嬉しそうに
    微笑んで、いつもこう答えていました。

    「そうです。 太陽はひとつです。誰もこのひとつの
    太陽をいただいて暮らしているのです。 私に祖国
    などありません。ただ、この天の下で暮らしている
    だけです。 私は天下の住人なのです。

 彼は、唯一の正しい政府は 世界政府 であるとして
自分はコスモポリタンだと、史上初めてコスモポリタニズム
を提唱しました。また女性や子供の共有も主張したのです。

 symbol2symbol2 ここからは、箇条書きにて名言(迷言)語録を …

 13 オリンピアで優勝した闘士が、美しい娘に見とれて、
    首をひねって振り返ると 「無敵の闘士が小娘一人に
    首をねじられている」と爆笑した。

 14 愚人から誉められても嬉しくない。多くの人から誉め
    られると、私も愚人なのではないかと心配になる。

 15 ある人がサモトケラ島の神殿に感謝の奉納が多い
    と感心した。 「救われなかった人が奉納していたら
    もっと多かっただろうに …」 と言った。

 16 ある人がディオゲネスに物を贈った。 人々がその
    行為を褒めると彼は 「もらう価値のある私も褒めて
    くれ」 と言った。

 17 「かの金持ちは財産を所有するにあらず、奴の財産
    が奴を所有しているのだ」

 18 「汝が金持ちならば、喜ばしきときに食べよ。 汝が
    貧乏人ならば、食べられるときに食べておくべし」

 19 「教育は青年にとっては気品、老人にとっては慰め、
    貧者にとっては富、金持ちにとっては飾りである」

 20 「汚らしいところに足を踏み入れても平気だよ。太陽
    だって便所の中に入り込むけど汚されはしないから」

 symbol2symbol2 ここからは、いま流行のツイート(つぶやき)風に …

 21 何もしないこと。 それが平和だ。

 22 休みたいのなら、なぜいま休まない。

 23 私が死んだら、その辺に捨てておくれ。

 24 名門・名声は悪を示す仰々しき飾りなり。

 25 最もすばらしいことは、何でも言えることだね。

 そのとおりです。 

 言論の自由があるからこそ、こうして
何でも好き勝手なことが言えるのです。


 ところで、

 ディオゲネス には、この他にも数え切れないほど
の逸話や語録がありますが、シニカルの語源となった思想
や信条にふさわしく人を食ったものが多いようです。

 おそらくは、同じギリシャのイソップ(アイソポス)や日本の
一休さんのように、デイオゲネスに仮託して語られた小話も
少なくはないのでしょう。

 ディオゲネスに嵌まり出すとサルのマスーターベーション
のように止まらなくなるので、今日は、この辺にします。

 なお、最後になりますが …

 26 ディオゲネスは道端で公然と自慰をしました。

   擦るだけで満足できて、
    しかも金もかからないし、
     こんなに良いことは他にない。

  食欲もこんなふうに簡単に
  満たされたらいいのに …


 27 小石につまずいて倒れた ディオゲネス
    死期を悟り、その場で息を止めて窒息死したのだ
    そうですが … ase

 果たして、

 その辺に捨てられたのでしょうか

コメント一覧

年寄りの冷や水
25、最もすばらしいことは何でも言えることだね!

その通りだけど、いつのまにやら体制側にとって都合の悪い発言には規制や制限がかかるようになってしまった。

何か、いやーな予感がしてならない!
与太郎
ディオゲネスって、すげえ奴だな!

コスモポリタンだけじゃなく、二次元恋愛の元祖かも!?

待てよ、頭で想像しての行為だから、何次元になるんだ!
寿限無寿限無
狂ったディオゲネスが〇〇で、狂った〇〇が☆☆かもね。

「人間を捜しているが見つからない」

探すのではなく、捜しているとは、まるで神のようだ!
馬っ鹿っす
人間を支配しているのは、神ではなく、お金であることは疑う余地のないものです。

その呪縛から逃れるには、死ぬか、ディオニュソス(酒)に頼る、いやいや、ディオゲネスになるしか手立てはないでしょう。
冬虫夏草
狂ったソクラテスがディオゲネスならば、
狂ったディオゲネスは誰だと言うのか?
トレビアン&トリビアン
ディオゲネスのおっさん、ラファエロの「アテナイの学堂」でも目立ってるよね。
アリストテレスの斜め右下で、準主役クラスだし・・・
餃子ライス
自分で息を止めて死ねる人間はそうはいないぜ!
すげえよ、アンタ!!
ココナン
アレクサンダー大王がディオゲネスになりたいと思ったのは、一度しかない人生で、ある意味での対極を見たからだと思います。
「人間には退屈な人間とそうでない人間の2種類しかいない」 確か、オスカーワイルドだったと記憶していますが、そう言っています。
その趣旨に照らせば、人間には、ソクラテスやディオゲネスや老子や荘子に連なる生き方とアレクサンダー、プラトン、始皇帝、チンギスハン的な生き方…

つまり、「真理を追究する無為自然派」か「栄耀栄華を目指す栄誉栄達派」の2つに大きくは分けられるということです。
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