あいちゃん「しょ~こせんせー、、、ぐすん」
しょ~こせんせー「どうした?鼻水垂らして。」
あい「いえね?」
あい「いま、『吾輩は猫である』を読んでんですけどね?」
しょ「うん。それで?」
あい「涙が止まんないんですよ、、、」
しょ「どこでだよ、、、」
あい「2ページ目で「はやっ」
しょ「ふざけてんの?」
あい「ふざけてませんよ、、、」
あい「今からご説明致しますよ。」
あい「あのですね?わたくす、『猫ちゃん』は、10代の時に一度」
あい「そして、20代の時に一度、読んでいるのです。」
しょ「ふうん。で?」
あい「で、いちばん心に残ったところが、、、」
あい「「空たり間たり天然居士あぁ」なのです。」
しょ「あぁ!」
しょ「漱石に文学の道を進めた米山保三郎を想って詠んだ句の場面ね。」
あい「そうです、そうです。なんでしたっけ。」
しょ「米山先生は、哲学者で時空間を研究してたからね。」
しょ「空間に生れ、空間を究め、空間に死す。空たり間たり天然居士、噫。だよ」
あい「そうでした!そうでした!」
あい「わたし、ここで爆笑したものです。」
あい「で、わたしはずっと」
あい「『吾輩は猫である』と言う作品は」
あい「作品の一番の読みどころは」
あい「ここだと思っていたのです。」
しょ「あー、悪いけど、それちがうよ。」
あい「そうなのです「分かってんのかよ。」
あい「はい。」
あい「だって、そもそも『猫ちゃん』は短編で終わるはずでしたから。」
しょ「そ。」
あい「そのことに気付いたのは、」
あい「”吾輩は猫である”"感想"と検索してみた時でした。」
しょ「へぇ。」
あい「そうしましたら、つたないけれども、まさに!的を射ている一文があったのです。」
しょ「えー!なにそれ!聞きたい、聞きたい。」
あい「それはですね?」
あい「”猫を置いてやれ、と言った主人は優しいな、と思いました”」
あい「というものです。」
しょ「えーーー?」
しょ「それだけー?」
あい「しょ~こせんせー。」
あい「このことに気付いている漱石研究者の方が、どれだけいらっしゃるか。」
しょ「大げさな、、、」
あい「いえ、大げさでも何でもありません。」
あい「と申しますのも、、、」
あい「わたくし、その一文で、『猫ちゃん』の見方ががらりと変わったからです。」
あい「くしゃみ先生のモデルは漱石、とされていますが、ちがいます。」
あい「最初の3ページの子猫こそが、漱石だったのです、、、」
しょ「ふうん。」
あい「ふうん、って、、、しょ~こせんせー、、、」
あい「こんな悲劇、ありませんよ。」
あい「そもそも、漱石の生い立ちを考えてみて下さい。」
あい「漱石の親は、漱石が産まれたこと自体を恥じているのです。」
あい「そして、産まれてすぐに里親に出している。」
あい「漱石は、愛する父母の元に全く居られず、幼い頃から、里親のもとを転々としているのです。」
あい「その里親達だって、離婚しただのなんだのと、ゴタゴタを起こしている。」
あい「ミニ漱石は、幼少期を穏やかに過ごせたわけではないのです。」
あい「穏やかに過ごせたなら、、、」
あい「少なくとも、転々とは致しません。」
あい「実親の元に居られないだけで悲劇なのに、、、いろんな仮の親元を転々とする幼い漱石、、、」
あい「想像してみて下さい。」
あい「また、このご本を書いた時の漱石は、人に傷つけられ、人を傷つけ、、、精神的にどん底にいるのです。」
あい「東京帝大では、教え子を間接的にか、、、自殺にまで追い込んでいる。」
しょ「、、、」
あい「身体障害者と知らず、学生を罵ったこともある。謝罪してますが、、、」
あい「つまらない英語教師だという評判も広がってしまっている。」
あい「『吾輩は猫である』、これは、そんなときに書いたご本です。」
あい「ちなみに、このご本の最初の部分は」
あい「幸せに暮らすはずだった野良猫一家の中の、子猫一匹が」
あい「意地悪な一人の男によって、巣からつまみ出されてしまいます。」
あい「そして、遠くの広い笹原に置いてきぼりにされる、と言う場面から始まります。」
あい「しょ~こせんせー、ここ、読んでみて下さい。」
しょ「ん。」
しょ「、、、」
しょ「ふと気がついてみると書生は居ない。」
しょ「沢山居った兄弟が一疋も見えぬ。」
しょ「肝心の母親さえ姿を隠してしまった。」
(略)
しょ「我輩は藁の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。、、、」
あい「、、、」
あい「”棄てられたのである”、ですよ、、、しょ~こせんせー、、、」
あい「どうですか、、、?」
あい「泣けてきませんか、、、」
しょ「、、、」
あい「つぎ、ぜひここ、読まれてみて下さい。」
しょ「、、、」
しょ「我輩が最後につまみ出されようとしたときに、この家の主人が騒々しい何だといいながら出て来た。」
しょ「下女は我輩をぶら下げて主人の方へ向けてこの宿なしの小猫がいくら出しても出しても御台所へ上って来て困りますという。」
しょ「主人は鼻の下の黒い毛を撚りながら我輩の顔を暫らく眺めておったが、」
しょ「やがてそんなら内へ置いてやれといったまま奥へ這入ってしまった。」
しょ「主人は余り口を聞かぬ人と見えた。、、、」
(略)
しょ「かくして我輩は遂にこの家を自分の住家と極める事にしたのである。」
あい「、、、」
あい「しょ~こせんせー?」
しょ「んー?」
あい「わたくしは、『猫』は、、、漱石は、、、、」
あい「自分自身に向けて書かれたものだと思うのです。」
あい「検索しましたらね?」
しょ「うん。」
あい「漱石先生、実際に、野良猫を家に置いてあげているのです。」
あい「お優しいじゃありませんか、、、」
あい「こんなに優しい方って、いらっしゃらないじゃありませんか、、、」
しょ「そうね、、、」
あい「わたくしは考えるのです。」
あい「漱石先生は、誰に向けるでもなく、、、」
あい「ご自分に向かって書かれたのです。」
あい「原稿用紙に向かって、、、」
あい「お、、、い、、、て、、、や、、、れ、、、」
あい「、、、」
あい「と、、、」
あい「、、、」
あい「、、、」
あい「、、、」
あい「Gペンで、、、「漫画家じゃないんだから。」
あい「そうでした。筆で。」
あい「、、、」
あい「そうして、俺だって、悪い人間じゃないじゃないかと、、、」
あい「多分、、、」
あい「自ら慰められたのだと、」
あい「わたくしは思うのです、」
あい「そして実際に」
あい「慰めになったのだと思うのです。」
あい「それが、、、わたくしにとっても」
あい「唯一の救いなのです、、、」