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ADONISの手記

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トレーズ・クシュリナーダ(新機動戦記ガンダムW)

2015年11月15日 23時24分20秒 | 小説

 俺は■■■■。どこにでもいるつまらない男だ。勉強ができるわけでもないし、運動ができるわけでもない。そんな男が女にもてる筈もなく、ダメな男を突っ走っていた。だから自分が嫌になり、自分を変えてみたいと思っていた。

 そんな俺が、特典を貰って転生するという機会を得た。だから俺は……。

 

 ロームフェラ財団に所属しOZ総帥を務めているトレーズ・クシュリナーダは、二十歳の誕生日にそれを思い出した。

 前世の自分は、優れた男になることを望んでいた。その為、『新機動戦記ガンダムW』のトレーズ・クシュリナーダに転生することにした。

 転生型トリッパーの場合は、本来ならば前世の記憶をもったままで転生するが、それを望まなかった。自分の自我が残っていては、原作のトレーズではなく全くの別人となってしまうので、意味がないと思ったのだ。

 二十歳という人格が完成しきった状態ならば、前世の情報の影響を受けにくいだろうし、記憶ではなく記録として、つまり他人の人生を映画でも見ているかのような感覚で知るように設定していた。そうすることで、トレーズが自分の影響をまったく受けない様にしたのだ。

 これは自らの人格を消滅させることを意味しており、トリッパーとしてはある意味自殺である。これでは前世の自分を知っているだけの下位世界人に近いが、その魂は上位世界人のものであるから、トレーズは間違いなくトリッパーであった。

 更に下記の転生特典にランスシリーズの技能を手に入れた。技能スキルは①剣戦闘LV2、②説得LV2、③経営LV2だ。

 剣戦闘は護身の為で、説得は人を動かすのに役に立ち、経営は組織運営に役に立つものだ。いずれも人の上に立ち組織を切り盛りするのに有効な技能ばかりであるが、それほど強力なものではない。

 トレーズは素で天才であるから必要以上にチートを求める必要はないし、下手をすると道を踏み外してネット小説の踏み台転生者になりかねないから、転生特典はトレーズの長所をある程度伸ばす程度にとどめておいたのだ。

 さて、どうしたものか。トレーズは思いがけず手入れてしまった知識をどう使うかと、これからの行動を自問する。

『新機動戦記ガンダムW』においてトレーズの役割は大きい。正直に言って行動を変えると、どういう事が起こるか予測できなくなる。

 それに原作では多くの犠牲者を出したが、最終的には平和な世界になった。いやあれだけ派手に戦争をしたから、本当の意味で平和を実現できた。そう考えれば戦争の犠牲者たち無駄死にではない。彼等の死が平和を築く礎となったのだ。

 戦争を終わらせて平和な時代にする為には戦わなければならないというジレンマ。それにトレーズは自嘲する。

 今は原作開始の数年前なので地球圏統一連合も健在で相変わらずの腐敗ぶりだ。現時点で既に連合を潰す計画を進めており、今更変更はできないし、この世界の連合は害悪と化しており潰した方がいいのでキッチリ潰しておく。次の時代の為にここで膿を出し切るべきなのだ。

 

 数年後。あれから色々あった。トレーズはOZ総帥となり、原作通りに進むように調整した。

 その間に自分と同じトリッパーたちの組織である三千世界監察軍と接触して彼等の協力を受けた。といっても、直接的な協力ではなく間接的な支援に止めていたが。

「トレーズ!」

 通信機から聞こえる敵の声。現在はアルトロンガンダムと交戦していた。

 私の計画は順調に進んだ。ガンダムたちの動きに合わせて統一連合を滅亡させる。その後、意図的に失脚しつつも機を待った。そしてホワイトファングが活動を始めると世界国家元首になり、ホワイトファングとの最終決戦を行った。

 原作のトレーズ・クシュリナーダは、アルトロンガンダムとの交戦で戦死している。私もそれを利用して死んだことにするつもりだ。トレーズはここで死亡したという形にした方が何かと都合が良い。トレーズの影響力は強すぎるので、下手に生きていると恒久的な平和を築くのに障害となり兼ねない。

 今、トールギスⅡに乗って交戦している私はトレーズ・クシュリナーダ本人ではない。トレーズを模倣したコピーロボットなので例え死んでも問題ない。

 できるならば、コピーロボットではなく本体で彼と戦ってみたかったが、今回の目的を考えるとそれはできない。とはいえ、コピーロボットである自分はトレーズ本人にかなり近い同じ能力を持っており、コピーとはいえ、私もトレーズ・クシュリナーダであることに変わりはない。

「聞いているのか、トレーズ!!」
「聞いているさ。五飛」

 アルトロンが矛を突き付けるのをトールギスⅡのビームサーベルで防ぐ。彼と戦うのは二度目だ。最初は剣で戦い勝利したが、今度はMS戦という事になる。

 五飛が、トレーズの所為で多くの人が死んでいった事を指摘する。それは事実だ。ドーリアン、ノベンタ、彼等を含め多くの人々が犠牲となった。私は彼等に哀悼の意を表する事しかできない。だが、犠牲となった人々の死は決して無駄ではない。彼等の死は、多くに人々の心に強烈に訴えた。

 戦いを終わらせるには戦うしかない。戦いという根を断ち切るには人々の意識改革が必要で、これはその為の戦いなのだ。

 二人は激しい戦いを繰り広げる。そして、突進したトールギスⅡをアルトロンが矛で貫いた。

「トレーズ、貴様わざと!?」
「ふふふっ、さらばだ、五飛。そして我が友ミリアルドよ」

 こうしてトールギスⅡは爆発を起こしてトレーズも消し飛んだが、このトレーズはコピーにすぎない。例え消えても本人には影響はないのであった。

 

レディ・アンside

 あの戦争が終結して一年が過ぎ、トレーズ様のご令嬢マリーメイアが反乱を起こした。紆余曲折の末に、マリーメイアの反乱は先日ようやく終わった。

 本来ならば、このような事態を未然に防ぐ為に作られたプリベンターであったのに、それを未然に防げなかった責任を取って、私はプリベンターを辞職した。

 これは別におかしな行動ではなかったので誰も不信に思わなかった。そう、レディ・アンが意図的に反乱を未然に防がずに放置して、最初からその責任をとってプリベンターを辞職するつもりだった。などという奇天烈極まりない考えを持つ者など皆無であった。

「トレーズ様、計画通りつつがなく終わりました」

 レディは、空中に浮かぶモニターに話しかけた。

「そうか、ご苦労だったねレディ。これでこの世界はより良い世界となるだろう」

 そのモニターに映っていたのは、一年前に戦死したはずのトレーズ様だ。トレーズ様は死んでおらず死を偽装して異世界に移動していたのだ。

 トレーズ様の目的は、恒久的な世界平和を実現することで、その為に様々な計画を進めてきた。死んだ事にしたのも、その計画の一端だった。

 当初、私はトレーズ様に付いていき、この世界から離れるつもりだったが、トレーズ様はこの反乱が予想外な方向に向かうことを恐れて、私にそれを調整するように頼まれた。その為、プリベンターの指揮官でありながら反乱を未然に防げなかったという失態を意図的にやったのだ。

 今回のマリーメイアの反乱は防ごうと思えば防げた。何しろ首謀者やら計画やらを最初から知っているのだ。それは容易いことだろう。

 しかし、トレーズ様はあえて反乱を未然に防がなかった。それは、この反乱で民衆が折角手に入れた平和を自分たちで守ろうという意欲に目覚めたからだ。この意義は大きい。

 平和を守るというのは難しいが、一人一人の民衆が勇気を持って平和を守ろうとする世界は素晴らしいだろう。それこそがトレーズ様が望む世界なのだ。

「それでは、私もそちらにまいります」
「ああ、レディ待たせて済まなかったね。これからもよろしく頼む」
「はい、トレーズ様」

 私は、この世界を捨てる事になってもトレーズ様の元で働く。私の居場所は貴方の近くしかないのだから。

 

解説

■コピーロボット
『パーマン』で登場する身代わり人形。鼻を押すことで押した人間や動物そっくりのコピーになり、記憶も引き継がれる道具で、コピーロボットの記憶は、元に戻る前に本人とおでこをくっつけることで本人に引き継ぐことが可能という優れものだ。

■レディ・アン
『新機動戦記ガンダムW』でトレーズの副官だった女性。指揮官としてだけでなく、MSパイロットの腕もかなりのものである。トレーズを崇拝しており、彼がトリッパーで原作終了後にこの世界から出ていき監察軍に入ることを知っても、なおトレーズに付いてきた。レディはトレーズと同じ時を生きるため、トレーズに頼んで自らも不老長寿になる道を選ぶ。トレーズから信頼されており、下位世界とトリッパーの秘密も秘密裏に教えて貰っている。

 


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