私の名はジャンヌ。15世紀のフランス王国ドンレミ村に住む村娘です。とここまで書くともしかしてと思うかもしれませんが、想像したように気が付けば私はあの有名なジャンヌ・ダルクになっていました。
元々の私は30代の日本人女性で、死後に死神にスカウトされてTYPE-MOON系の世界の人間に憑依する事にしました。ここで転生を選ばなかったのは赤ちゃんプレイという黒歴史をやりたくなかったからで、4歳の女の子に憑依する事にしました。
しかし、ジャンヌ・ダルクはないでしょう。大体TYPE-MOON系の世界といったら普通20世紀から21世紀の日本のはずなのに、何でこんな大昔のフランスになるんです。とまあ、世の不条理を詰りつつもこれからどうするか考えないといけません。
TYPE-MOON世界の『空の境界』ではジャンヌ・ダルクは抑止力によって英霊になったという話なので逃げれば何とかなるというわけでもない。逃げても強制的にフランスの救世主をやらされるのは目に見えています。
この懸念は12歳の時に神の声を聴いて痛感した。当初はそれを無視していたが、その後四年間もストーカーの如く聴こえてくる神の声(笑)に根負けした私はしぶしぶフランスを救うことにしました。正直言って散々助けてあげても用済みになったらあっさりと切り捨てると分かっている王様や国を助けることに意義を見いだせなかったが、背に腹は代えられません。
こうして当時やたら消極的であったフランス軍上層部を説得して積極的に打って出てイングランド軍を破っていき、イングランド軍に包囲されて陥落寸前だったオルレアンを解放した。更にそれに続く重要ないくつかの戦いの勝利にも貢献し、劣勢を挽回したシャルル7世はランスでフランス王位に就くことができた。
ここまではいいですが、その後ジャンヌの零落を考えると、ジャンヌはイングランド軍を駆逐して王太子をフランス王位に就かせる為に抑止力に利用されるだけ利用されて用済みになったらポイ捨てされた形なので、そろそろ身の振り方を決めなくてはいけません。
シンプルに逃げ出すというのもありかもしれませんが、ジャンヌの最後は歴史的に有名すぎるので無暗に変えるべきではない。といっても、ワザと処刑されるつもりはないし、魔女として名誉を傷つけられるのも我慢できません。まあ、監察軍に接触したおかげでその手段も用意できたからなんとかなるでしょう。
「ジル、貴方にお願いがあるのです」
「なんでしょうジャンヌ、このジル・ド・レェ、貴女の願いならば否はありません」
「実は……」
私はオルレアン包囲戦を共に戦った戦友にして、私の熱烈な支持者であるフランス軍の元帥ジル・ド・レェにある相談を持ち掛けることにした。
その後、ジャンヌ・ダルクは史実通りに捕らえられたが、フランス王国は身代金を払うことなく見捨てられてしまう。その結果、ジャンヌはイングランドに売り飛ばされて魔女裁判にかけられて火刑にされることになった。
その処刑場では多くのイングランド民衆が集まって十字架で拘束されているジャンヌを罵倒していた。この時代では処刑は民衆の憂さ晴らしでもあったのもあるが、イングランドに散々煮え湯を飲ませたジャンヌは本当に怒りをぶつける対象であった為にシャレにならなかった。
そんな処刑場周辺に突如として讃美歌が鳴り響いた。これに騒めく民衆の上空からゆっくりと天使が舞い降りて来て天使が着地するのと同時に讃美歌も終わったが、この異様な事態にイングランドの民衆たちは愕然とした。
「わが名はミカエル、この者に啓示を与えた大天使長である。聞け民衆よ。この者は肉体を浄化してその魂は主の元に召される事が決定した。これは主の意向である」
そういって天使は民衆たちを見渡すが、民衆たちは硬直していた。まあ、讃美歌とともに派手に天から舞い降りてきた天使がいきなりそんな事を言ったらどう反応して良いのか分からず思考停止状態になるのは当然だろう。
「さあ、これよりジャンヌの浄化を始める」
と、天使が言うとジャンヌの身体が光に包まれてそして消えた。
「民衆よ。ただいまジャンヌの肉体は浄化されて列聖した事を宣言する。これは主の決定である。よいな!」
「「「「「は、ははああああーーー!」」」」」
天使がそういうと民衆はその場にひれ伏すのであった。それを見届けた天使は再び空高く舞い上がりやがてその姿が見えなくなるのであった。
こうしてジャンヌ・ダルクという騎士の処刑に天使が現れたという事件は瞬く間にヨーロッパ中に知れ渡る事になり、フランスとイングランドに大きな影響を与えることになるのであった。
フランス王国にあるジル・ド・レェの館の一つで隠遁していた私の元にジル・ド・レェが訪ねて来た。
「そうですか。そのような情勢ですか」
史実と異なり、ジャンヌ・ダルクの処刑の際に天使が現れた事でフランス軍の士気が異様なまでに高まり、イングランド軍は士気が低下してしまっているから、後の戦いはフランスが史実以上に勇戦すると思われる。
とはいえフランスにもシャルル7世に非難が殺到したという問題が発生していた。特に身代金を払わずにジャンヌを見捨てた事と、オルレアンの民衆たちがジャンヌを助ける為に寄付していた身代金を没収したりした事が問題視されていた。まあ、私もそこまでやるかと思うしね。非難されても仕方がないよ。
ちなみに敵に捕らえられたのは私自身ではなく監察軍が用意した私を模倣したコピーロボットです。また私がジルに頼んだのは偽物と入れ替わった私を匿う事で、私の崇拝者だけに事情を説明するとジルも協力してくれました。
あの処刑場は監察軍主演の演出で、あの時代の人間でも讃美歌と分かるだろう曲を流し、更に天使の立体映像を利用した。21世紀のイギリスでやればバレたでしょうが、15世紀のイングランドであれば簡単に騙せます。派手にやっただけあって、インパクトがあって教会も大騒ぎしているらしい。
「まったく、本当に王も国も貴女を見捨てるとは嘆かわしいものです」
ジルにとって予め知らされていても信じられない思いなのでしょう。やるせない思いを隠そうともしません。
「ジル、もういいのです。ジャンヌ・ダルクはフランスを救うために戦い、フランスに見捨てられて死んだ。それだけの事なのですから」
私が欲しいのは救国の英雄としての名声ではありませんからね。これで私の役割も終わりました。そしてジャンヌ・ダルクが死んだことで私の死亡フラグも消すことができました。
「予定通り私はこの世界から立ち去ります。フランスを頼みますよジル」
「ええ、貴方の願いは聞き入れましょうオルレアンの乙女よ」
こうして私はこの世界を去り、監察軍に所属することになった。
ありがとうございます。ジャンヌさんが派手にやっていますから(笑)