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シロガネの草子

「我が身をたどる姫宮」 その9 


 皇嗣家からの許可が、下りまして、姫宮様は、初産をご実家でなさる事に、なりました。何かとこれから、準備をする事が、ありますので、一度は、皇嗣家へと行く事に、したのでした。事に皇嗣家に仕えている職員には、自身の「我が儘」で、何かと迷惑やら、気を使せる事は、間違いのない事ですし、その上、ただでさえ世間からは、皇嗣家は、「ご難場」だと、伝えられていますのは、姫宮様もご存知の事です。



 とにかく、もう皇族ではない自分が、皇嗣家で、出産となれば、また、かれこれと、言われるのは、もう、当たり前過ぎる事ですから、姫宮様も、それを、いちいち気にしても、仕方がないと、もう、割り切っておられます。


 そんな事よりも、自分が、今、しなければ、ならないのは、これから何かと、世話になる職員達に、何か良い土産物を、用意しなければと、それは、何がいいかと、今現在、姫宮様は、その事を考えておられました。色々と迷い、何が良いのかと、その事を「お母様」に相談しますと、

 「そう、お気遣いなさる事は、ないのではないでしょうか?世間でアレコレと、言われているのは、私も「王子」も、知っていますが、皇嗣家に仕えるのが、職員達の仕事なのですから、宮様は、皇族の身分を離れられたとはいゆえ、皇嗣家の、ご長女でいらっしゃるのは、変わりないのですから、そのお世話をするのは、あの人達にとっても、当たり前の事なのですわ・・・・。ですから、宮様も、ドンと構えいらっしゃればよろしいのですよ」

 と、言われましたが、姫宮様は、「お母様」と同じ様な、そのような気持ちには、とてもなれません。あくまでも、職員達は、皇族は仕えているのですから、いくら、皇嗣家に連なるとはゆえ、今は、皇族では、ない自分にまで、世話をする義務は、もう、ないのです。
 そう思う、姫宮様は、「お母様」のような考えに同意する気には、なれませんでした。
 そして、姫宮様は、K氏にもその事を相談しましたが、答えは、同じで、


 「何も、んな事をしなくっても、いいんじゃないですか、あの人達は、それ相応の給金だって、もらっているんだし、宮様が、そんなに気を使うと、お母様やオレ達が、あちらでは、小さくなって居なければならなくなる。それに、だってさ~皇嗣方だって、それ位の事は、分かってるんだから。当然、あちらが側が、『それ相応の対応』をされるだろう。オレらだけに、『それ相応の対応』を求めて、まさか、ご自分達はそれを、しないという法は、ないはずだしね」

 と、言ってかつて、皇嗣殿下が、記者会見で、K氏方に、『それ相応の対応を・・・』とおしゃたのを、いまだに「根」に持っているのでした。

 確かに、K氏のいう通り、自分がアレコレと、気を使うとK氏や、「お母様」達が、あちらで余計な気遣いをするのも、やはり妻の立場として、申し訳のない気持ちになります。皇嗣家の職員達は、皆、K氏親子に対して、良い感情を、持っていないのは、姫宮様も承知しています。ここは、K氏や「お母様」の言う通りの対応をするのが、良いのかと、思いましたが・・・・・。

 どうしたら・・・・と、姫宮様が考え込んでいる、姿を見ましてK氏は、


 「宮様、どうしたの、気分でも悪いんですか。皇嗣家に行くと、宮様も、色々と気遣いするだろうし、やっぱりあちらの、病院で産んだ方がいいんじゃないんですか。万一何かあっては、大変だし、自宅出産なんて、やめて、やっぱり病院の方が良いと、オレは、思うんだけどね。お母様も、何かあってはと、大変心配しているし、オレも、同じで本当に、心配してるんだよ」

 と、K氏は、姫宮様が今、何を考えているのか、察する事なく自己中心的に、心配してくれるのですが、姫宮様は、そんな「鈍感」なK氏に、少しイラつきまして、「いえ、何でも」と、言うと、さっとK氏の元から、離れてゆきました。



 自宅出産の事は、K氏にも、「お母様」にも、キチンと自身の気持ちや、考えを伝えましたが、K氏達もそれに理解を、示してくれました。検診の際に何か異常があれば、病院でと、いう事に、なってますし、あちらの病院は、そういう時の対応もキチンと出来る体制に、なっている事も、それもきちんと、姫宮様は、二人にも説明しました。
 なのにどうして、こうも、蒸し返すのかと・・・・そう思うと、気持ちが、どうにも落ち着きません。これが、良く言う、出産前の「鬱」なのだろうかと、思いまして、風に当たりたい気持ちになりまして、ベランダの方へと、出てゆきました。


 一番良いと言われる、マンションだけあって外の眺めは、いつ見ても気持ちが良いものです。こうして、今は緑の山々の姿を見ていますと、段々と気分が、落ち着いて来るのが、良く分かります。東京と違い自然に囲まれた環境ですから、空気も澄んでいる心持ちがして、それをじっと、姫宮様は、感じとっていました。




 こうして気持ちが落ち着き、冷静になり、やはり、職員達の土産物は、用意するべきと思いますが、夫のK氏の立場も考えなければと、思うのです。さて、どうしたら・・・・と考えまして、ここは、母君のお力を借るしかないと、考え付きました。皇嗣妃殿下には、申し訳のない事とは、思うのですが・・・・・。
 妃殿下は、お忙しい方なので、夜になりましてから、皇嗣妃殿下に、連絡をなさいました。


 姫宮様は、皇嗣妃殿下に、皇嗣邸に里帰りする時の、職員達への土産物の事について、ご意見を伺いたいと妃殿下に、おっしゃいました。


 「こちらに帰る時なのですが、職員の人達の土産物は、どういたしましょう。職員達は、あくまでも殿下方に、お仕えているのですが、しかし、皇籍を離れた私でも、やはり滞在中は、何かと、世話をしてもらうですから、こういう時は、きちんとした物をあげるのが、筋かと思います。でも、K氏は、わざわざ職員達まで、土産物を用意する事は、別に必要のない、と言うのです。必要以上に、私が気を使うと、K氏もこちらに滞在しているとき、同じくアレコレと気を使って、居心地が悪くなると言うのです。そう、言われると、わたくしも、K氏が可哀想ですし、ここは、K氏の言う通りにした方が、良いと思うのですが・・・・」

 と、言われて、姫宮様は、母君の皇嗣妃殿下に、意見を求められたのですが、妃殿下は、それを聞かれて少々呆れられました。


 K氏親子がこちら側に、来た時の職員の接し方というのは、ハッキリ言うと、「何様か」と云うものなのです。姫宮の前では、割合に普通なのですが、こちらに、単独、もしくは、一人で来るとき等は、もう、皇族と、同じ対応を職員達に、求めて来るのです。



 「謙虚」さと、云うものが、あの親子には、ないのかと、ご自身それを見聞きして、いつも思うのですが、兎に角、姫宮が、K氏の言う通りにする事は、避けなければと、



 「あなたが、もし、K氏の言う通りの事をなさったら、やはり職員達は、あなたのみならず、K氏も良くない感情を、持ってしまって、居心地の良くない気分に、なると思いますよ。あなたは、皇嗣家の娘なのですから、職員達は、あからさまは、対応は、取らないハズ、私が、そうならない様、ちゃんと目を光らせていますからね。(笑い)でも、その分、K氏方に、職員達の不満が、向いたら、それこそ『可哀想です』ですよ。もし、K氏が、土産物を用意するのが、必要ないというなら、私が、用意する様、強く言ったと言って、用意すれば、別段お互いに角が立たなくていいでしょう」

 と、おしゃたのを、聞いて、姫宮様は・・・・・・


 「おたた様・・・・・そう言って頂きまして、本当にありがとうございます。実は、君様に、その様な対応をして頂きたく、お頼みしようと、思っていたのです。どうしたらいいかと・・・・・悩んでしまって・・・・・今は、落ち着きましたが、アレコレと悩んでしまっているときは、どうにも、気持ちが落ち着かないのです。これが『鬱』と、言うものなですね」


 と、おっしゃるうちに、感情が込み上げてきて、涙が出そうになるのを、姫宮様は、抑えているのでした。あれだけ、自分とK氏の事で、色々と世間で言われて、母君こそ、泣きたい事、沢山あったというのに、どんなに辛くても、強く明るく前向きな、皇嗣妃殿下の、お声を聞いて、(こんな娘の為に・・・・・)と、心のなかで、深く母君に詫びられるのでした。


 「普通でない身体になると、少しのことでも、心に波風が立つものなのですよ。まして、あなたは、初めての経験となるのですから、戸惑ったり、悩んだりするのは、当たり前の事なのです。私も同じでしたから、今の、あなたの気持ちは、良く分かります。辛いようでしたら、その事を医師に、相談した方が、良いかと思います。姫宮の今の感情はそのまま、お腹の子供に、直ぐ伝わってしまいますからね」

 皇嗣妃殿下は、3人のお子様を、お産みに成られた経験から、姫宮様に、様々なアドバイスを、なされました。また、最近の妹宮様や、若宮様の様子等を、面白くお伝えになられて、姫宮様を楽な、お気持ちにするように、導かれたのでした。


 皇嗣妃殿下の言葉を聞いて、姫宮様も、気分が楽になられましたが、妃殿下との電話が、終わり、しばらくすると、母君の事を思うと、やはり涙が出てきてしまいます。先程は、我慢なさっていましたが、今度、瞳から涙を止めようとなさらず、しばらく、自然に任せておりました。その方が、お腹の子供の為に良いと思われたのです。




 母君の事を想いながら、姫宮様が、涙ぐんでいる姿を、見ましてK氏は、驚いて、


 「妃殿下と、話をしていたようだけど、一体何を言われたの?言いたくは、ないんけど・・・・・・あの妃殿下は、裏表が、ひどいと、世間で言われているけど、それ、マジだね。妃殿下は、上手に隠しているようだけど、オレの目は、騙されないよ。宮様も、本当可哀想だとオレは、ずっと思ってたんだよ。涙なんか流すほど、ひどい嫌味でも言われたんだろう、ホント可哀想に。宮様は、良くあんな人の娘に産まれて、どうしてこんなに、マトモな人だろうと、オレは、いつも思っているし。マジで、宮様は、オレの宝物だよ。色々言われて、辛いだろうけど、しばらく我慢なさって、子供が、生まれたら、さっさと、こっちに戻ろうね」

 と、言うK氏の言葉に嘘はなく、事実かどうかは、ともかく、この人は、自分中心な本当に、正直な思いの人なんだと、姫宮様は、K氏の顔を見て、改めてそう思われました。


 姫宮様は、例え、自己中心的であっても、そういう、自身の思いに正直なK氏が好きなのです。何故なのかは、皇族として産まれ、育ち、又、宮家の長女である、自分は、誰に言われるでもなく、自己を押さえる気持ちが、人一倍強く働いていたのです。しかし、それは、自分にとっては、「誇り」でもあったのです。


 そして、あの時、K氏と出会い、付き合いを重ねているうちに、何事も正直な気持ちでいる、K氏に対して、もう一人の自分を、見る様な、そんな心持ちになられていったのです。




 又、K氏は、同じ年の姫宮様をまるで、年下の様な扱いをしたりしまして、その様な行為が、姫宮様には、大変新鮮な想いをさせたのでした。


 3人姉弟の長女の立場でしたから、余り周囲から、そんな風な扱いを受けた事は、ありませんでしたが、しかし自分でもそれは、当然の事と思い、別段何の不満もなく、当たり前と思っていました。




 でも、K氏の態度は、姫宮様にとり、初めて、誰かを、頼りそして、甘えられる存在となり、気付いた時は、どうしようもない程の恋愛感情を、抱かせたのでした。



 しかし、K氏と生活を共にしての現在は、かつての、のぼせ上がるほどの、恋愛感情でなく、今は冷静な気持ちで、自分のこれから先の、人生は、こういう人と共に、産まれて来る、子供と共に一緒に歩んで行くのだと、そう思われたのでした。


 今、目の前に居る、K氏は、姫宮様に取りましては、15歳離れた弟宮様よりも、よほど手のかかる、自己中な、もう一人の「弟」のようにも見えるのでした。




 「恋愛」と「結婚」は、別だと言われますが、正しくその言葉通りで、あったと、今の姫宮様は、身に染みてそれを、感じていらっしゃるのです。しかし、もう、今さらそれを、理解出来ても、もう、どうにもならない事は、K氏の子供を宿すご自身の現在、良く分かっていらっしゃるのです。


 兎に角、今は無事に出産をする事を、考えて、その為に何をしなければ、ならないか、まずはそれらを、実行しなければと、思い直されたのでした。
 姫宮様は、K氏に、皇嗣妃殿下から、職員達へきちんと土産物を用意するように言われたと、伝えられました。K氏の反応は、予想通りで、

 「やっぱり、そうか~~、どーせこうなると思っていたよ。あの妃殿下は、自分の評価が、良くないから少しでも、世間の印象をよくしたいんだろ。宮様が、職員達の土産を用意して来たと、なったら、宮様は、キチンとした気遣いが、出来る人だと、印象付けられる。それはいい事だしーーオレも、嬉しいけどさ、でも、結局は、そんな気遣いが、『お出来になられる姫宮様』を、育てた自分への評価かに繋がると、あの妃殿下は、そう思っていらっしゃると、オレは、そう見ているね。まったくいい迷惑だよ。宮様の前で、悪いんだけど、マジで嫌な人だね」

 と、言うK氏にたいして、姫宮様は、相づちを、打つわけでなく悲しげに、聞いているのでした。自分の母親が、そんな風に、言われて、どんな思いをされているかは、K氏は目の前の姫宮様の様子を見ても、想像出来ていないのです。


 姫宮様は、ただ黙って夫の言葉を、聞いていました。普通なら、そんな妻の様子を、見たら、夫は、『しまった、いい過ぎた』と、思うものなのですが・・・・・K氏は「鈍感」な、人なので、姫宮様のご様子に気付かず、「で、その費用は・・・」と、聞いて、姫宮様は、「私の方で、用意します」と聞くと、「はぁ~~」と、ため息を、つきまして、


 「宮様は、本当に良く出来た人だよね。皆に反対されたけど、オレは、宮様と一緒になれて、ホントよかったよ。マジ結婚出来なかったら、宮様は、きっと今頃は、絶対に『コーシ』妃殿下に、『コキ』使われて、酷い思いを、されてただろ。本当よかったよね。これから、ちょっと、お母様の所へ行くから」


 そう言うと、K氏は「お母様」の部屋へと、さっと行ったのでした。そちらへと行って、二人が何を話すのかは、姫宮様も、だいたい想像が出来ています。


 しばらくすると、K氏から、LINE(ライン)で「ゴメン🙇💦💦今夜は、お母様の所で寝るから」という言葉を伝えてきまして、それから、「お腹の赤ちゃんに、悪いから、余り悪い方に、考えないでね!」とか「オレ達が付いているから大丈夫だよ」などの言葉が、K氏から届けられたのでした。
 それらを見て、姫宮様は、つくづく自己中な人だと思いながら、K氏のその言葉に対して、ただそつなく返事を返されたのでした。


 一通りのやり取りが、ずんだあと、姫宮様は、さてと、職員達への土産は、何にしようかと、アレコレと思い浮かべ、少しでも皆が喜ぶ物をと、考えながら、眠りにつかれたのでした。



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