街を歩いていると、車椅子や松葉杖を利用する人を見かけることがあります。骨折や年を取ることによる運動機能の低下などで、肢体不自由には誰にでもなる可能性があり、自分には関係ないとは必ずしも言い切れません。
現在、高齢者の増加などに伴って、スロープやエレベーターの設置等、公共空間のバリアフリー化が進んでいます。実際それらは、肢体不自由の人々にとって本当に利用しやすいのでしょうか。また、身体に問題がない状態では問題なく使えていても、利用しづらいところがあるかもしれません。
今回の調査では、それらの点に主眼を置き、足の肢体不自由に関して調査、体験を行い、その結果をもとに、利用しづらい部分の分析を行い、デザイン提案を行うことでそれらの課題を改善することを目的とします。
フィールドワークの結果です。大学から駅までの道では、松葉づえでの歩行では、左右の幅を取ってしまい、人が多いところで身動きがとりにくいという問題がありました。人の多い通勤時間帯の駅構内などでは、さらに移動が困難になると考えられます。
また、松葉杖になれていない人の場合、エスカレーターへの乗り降りに恐怖を伴い時間がかかってしまうため、人の多い場所では利用しづらいことも問題として挙げられます。特に、北千住駅電大側の下りエスカレーターは幅が狭く乗り降りが困難であり、松葉づえでの利用には向いていませんでした。
股関節を固定した場合では、階段よりもスロープの方が昇降し易いという結果が得られました。階段では、蹴上が一定以上になるとそもそも昇降が不可能になってしまう事もありました。具体的には、1号館の階段は何とか昇降できても、駅内の階段は足が上がらず、昇降がほとんど不可能でした。これらの階段の蹴上を測ってみると、1号館の階段が15㎝、駅の階段が16㎝で、1㎝の差しかありませんでした。このように、普段は気にならないわずかな高さの差でも、肢体不自由者にとっては大きな障害になりえます。
駅の中では、松葉づえを利用している場合、券売機を利用する際に、松葉杖を少なくとも片方置かなければならず、バランスがとりにくくなる問題がありました。また、ここでも混雑している場合、松葉杖を置く場所に困るのではないかと考えられます。
また、松葉づえを使っていても通り抜けられる幅の広い改札が見つけにくいという問題がありました。探した挙句見ていた側には幅の広い改札がない、という事態も起こり、スムーズな移動の妨げになっていました。幅の広い改札口には床面に点字ブロックが設置されているため、それをたどっていけばたどり着けますが、これも人通りが多いと見つけにくくなります。また、改札を通った後、エレベーターが遠く、駅内の移動が普段より多くなってしまいました。
このしゃがむ動作に関連して、股関節やひざ関節を固定している場合、電車内に設置された座面の低い椅子に座れないという問題がありました。松葉づえでも、椅子に座る際に松葉づえが邪魔になってしまいます。
また、全体を通して、双方とも30分程度の歩行であっても通常の歩行と比較して非常に疲れるという問題がありました。
この負担軽減のため、三つ目のしゃがむ動作が難しいという点に着目し、主な公共移動手段である電車におけるデザインについて提案します。
電車内の車椅子専用スペースに、このような手すり付きの収納式のシートを設計しました。
これは、今回想定した大腿骨骨折者のほか、ベビーカー・車椅子ユーザーの利用も想定して計画しました。
大腿骨骨折者は、膝・腰が曲げられず通常の座面に座ることが困難です。
この設えは、骨折した足を曲げず、板間で健常な片側を腰掛けることが出来、松葉杖を立てかけておくことも可能です。
また、座面に滑り止め素材を用いることで、揺れによるバランスのとりにくさを緩和します。
車椅子ユーザーは、膝に荷物を置いて移動しているため足へ長時間負荷がかかるので、電車移動時に荷物置きとして使用し、足休めとして利用できます。
また、ベビーカーを押している人は、子供用の荷物等を多く持ち歩いていますが、急停車時などの安全を確保するためドア付近の手すりを利用しており、通路中ほどに行かなければ使えない荷台は利用しづらいと考えます。
手すり付近で手軽に荷物を取り出せるようなスペースがあれば、子供の状況への対応など電車利用時の負担を軽減できます。
幅200mm程度で300mmの間隔を設け、手すりを挟んで2枚並べます。
これは、大腿骨骨折者が腰掛として利用できる高さであり、ベビーカー・車椅子ユーザーが荷物置きとして無理なく使用可能です。
高さは700mmで、電車の窓及び車椅子のひじ掛けがボードとぶつからない寸法としています。
ボードは使用しない時には折りたたむことが出来、必要に応じて広げる仕様のため、電車内の限られたスペースでも設置可能であり、状況に応じた利用が可能です。
また座面に荷重がかからなくなると自動で収納される機構とすることで、ボードを手動で収納するという動作が省け、乗り降りがスムーズになります。
また、このようなサインをボード付近に設置します。
まとめです。
北千住駅周辺のフィールドサーベイから、障碍者が日常的に強いられている負荷を知り、これらの負担軽減を公共空間のハード面から行っていく一案として今回の提案といたしました。
利用者数の観点から、多くの公共設備が障碍のない人に合わせた寸法で作られていますが、サポートを必要とする人たちにとってもより生活しやすい公共空間の計画を行う事は重要であると改めて感じられました。
以上で発表を終わります。
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