「こぎつねのコン太」
こぎつねのコン太はきょうも山からおりてきて人の住む町を探検することにしました。
「ひとのまちはおもしろいなー きょうは何しようかなー」
「ポン!」
コン太が変身したときの音です。
町に出る少し手前のけもの道でコン太はくるりと後ろ宙返りをし、人間の男の子に変身しました。
コン太は山に1匹で暮らしています。
家族はいません。
ほんとうはさびしがりやです。
コン太はおもちゃ屋さんが好きです、お菓子やさんも好きです、そうそうコンビニも大好きです。
でも、ほんとうは、小さな子供と手をつないだおかあさんやおばあちゃんの優しそうな顔を見るのが一番好きです。
そんなとき、コン太は心の中で「誰かぼくと家族になってくれないかな…」とつぶやきます。
コン太は何をするでもなくブラブラと町の中を歩いてみました。
すると、あるお家のお庭に出るとびらが開けっぱなしで、お家の中ではおばあちゃんがちょこんと座ってテレビを見ていました。
コン太はテレビも大好きです。
コン太はそーとお庭に入り、もっと近くでテレビを見ようとしました。
ところがその時に大きな音を立ててしまい、おばあちゃんに見つかってしまいました。
「あら、ぼうや…どうしたの?」
「おそとをあるいてたらねー テレビが見えてねー ぼくも見ていい?」
「おばあちゃんはかまわないけど…学校に行かなくていいの?」
「うん、ひっこしてきたばかりでねー てつづきがいろいろあってねー しばらく学校にいかなくていいんだって…おかあさんが言ってた」
コン太は、ウソをつきました。
おばあちゃんは一人暮らしで、息子のたかしさんは近くに住んでいるけれど、さびしかったのもあってコン太ともすっかり仲よしになました。
その日からコン太もちょくちょく遊びに行くようになりました。
コン太はおばあちゃんが「自分の本当のおばあちゃんならいいな」と思っています。
ある日、またおばあちゃんの家でテレビを見ているとニュース番組がはじまりました。
キャスターのひとが言いました。
「となり町で なりすまし詐欺 があり、だまされて被害にあいました。」
ニュースではその手口をくわしく説明していました。
コン太はそれを見てなにか考えているようでした。
ある日、おばあちゃんの家に電話がかかってきました。
「もしもし…俺だよ、俺」
「もしもし、たかし?声がガラガラだね、どうしたの?」
「そう、たかしだよ、ちょ…ちょっとかぜ気味なの…それより、おれさ、とんでもないことしちゃてさー 会社のお客さんからあずかってた、たくさんのあぶらあげをさー ぜーんぶ食べちゃたんだ!」
「あぶらあげをかい?」
「うん、それで、母さんにたのみがあるんだけどさー あしたさー た~くさんのあぶらあげをかってさー おれの会社のとなりの公園にさー お昼に持ってきてそっとおいてほしいんだ」
「お昼だね」
「うん、そのあと、おれがそっと取りに行くから…そのあぶらあげがないとさー おれ、会社をクビになっちゃう!」
「えー?!そりゃ大変じゃないの…」
おばあちゃんは「どうしてあぶらあげなんだろ?」と思いましたが、たかしさんが会社をクビになっては大変だと思い約束をして電話をきりました。
すると、ぐうぜんにも
近くに住むたかしさんがおばあちゃんの家に帰ってきたのです。
「あれ?たかし…今、電話を切ったとこなのに…???」
変に思ったおばあちゃんは、かくかくしかじかとたかしさんに話しました。
それを聞いたたかしさんはカンカンに怒り
「それは、きっと なりすまし詐欺だ!母さんをだますなんてゆるせない!俺がぜったいつかまえてやる!」
と近くの交番へおまわりさんに相談に行き、あした、おまわりさんといっしょに犯人をつかまえることになりました。
そして翌日…。
いよいよ、お昼近くになりました。
公園の中の大きな木のかげでは、たかしさんとおまわりさんがかくれています。
おばあちゃんはたくさんのあぶらあげを持ってきてそっとおいて公園を出て行きました。
しかし、こっそりと戻ってきてものかげから様子をうかがっています。
あたりはシーンと静まりかえり、しばらく時間がすぎました…。
どこかで鳥のさえずりだけが聞こえます…。
すると、そーと男の子が公園に入ってきました…
用心深くあたりをきょろきょろと見まわしています。
たかしさんとおまわりさんはおたがいの顔を見合って「こどもだ!」っと声を出さずに驚いています。
おばあちゃんは男の子を見て「あっ!」っと声が出そうになったのをあわてて自分の手で口をふさぎました。
そして、ついに、あぶらあげに手をかけた…瞬間!
「今だー!!! 悪いやつめー!!!」
「コラー!!! 逮捕するー!!!」
たかしさんとおまわりさんはすごいいきおいで飛びかかり、あっというまにつかまえました。
犯人はコン太だったのです!
「ごめんなさい!ごめんなさい!うぇーん」
コン太は泣きながらあやまりました。
「だめだ!母さんをだますやつは絶対にゆるさーん!」
「人をだますやつは逮捕だー!」
「もうしません!もうしません!うぇーんうぇーん」
コン太は怖くて怖くて泣きじゃくりました。
「ポン!」
恐ろしさのあまりコン太は男の子からこぎつねへもどってしまいました。
「あれー?!こぎつねだ!男の子に化けてたのか」
「こりゃーこまったぞ、きつねじゃあ逮捕できないぞ」
そして、おばあちゃんが息を切らしながら走ってきました。
「この子をゆるしてあげて、きっとおなかがすいていたのよ、いつも私の話し相手になってくれて、やさしい子なの、どうしてだましたの?」
「ぼくね、ずっと一人ぼっちでね、大好きなあぶらあげを買ってくれる人が誰もいなかったの…」
こぎつねコン太は泣きながらこたえました。
「この子をゆるしてあげて、さみしかったのよ」
おばあちゃんがもう1度たのみました。
すると、あんなに怒っていたたかしさんも急にやさしくなり
「こぎつねだとしょうがない、おまわりさん、ゆるしてあげましょうよ」と言いました。
おまわりさんも「2人がゆるしてあげるって言うのだったらしかたがない、もう絶対に人をだましちゃだめだぞ」と帰って行きました。
コン太はあぶらあげが食べたいばかりに軽い気持ちでやったのに、こんな大騒ぎなりすごいショックでした。
でも、みんながゆるしてくれて本当に反省しました。
おまわりさんもいなくなり、公園にはおばあちゃん、たかしさん、そしてコン太だけになりました。
すると…
「ポン!ポン!」
コン太が変身するときのような音が2回しました。
でも、コン太とはちがいます。
「わっ!!!」
コン太は飛び上がるぐらいビックリしました。
なんと、おばあちぁんとたかしさんはきつねだったのです!
たかしさんきつねは言いました。
「コン太くん、一人ぼっちだったら、家へ来ないかい」
おばあちゃんきつねが言いました。
「それがいいわ、またテレビを見ていっしょに暮らしましょ」
こぎつねコン太は信じられません。
「えー?ほんとうに?いいの?ぼくのおばあちゃんになってくれるの?」
おばあちゃんきつねが、とびっきりのやさしい顔で答えました。
「もう、だまさない?」
「うん、絶対に…グスン…グスン…」
こぎつねコン太はうれしくて、うれしくて、また泣きだしてしまいました。
そして、コン太は家族になり幸せに暮らしました。