表題には「メディア」とあるが、実際には新聞社、それも主に毎日新聞と日本経済新聞についての本である。 内容は大きく二つに分かれており、一つは日経の紙面作成コンピュータ化であり、もう一つが毎日の衰退に関するテーマである。 この二つが絡み合って一つのテーマを成している... といいたいところであるし、作者も当然そのつもりで書いているのだと思うのだけれど、自分の感想としては二冊に分けるべき本を、無理矢理一冊にまとめてしまったために、見通しが悪くなって損をしていると思う。
ただ、この本は著者の杉山隆男さんの出世作で、当時の杉山さんは全くの新人だったわけなので、同じようなテーマの本を続けて二冊出すというのが難しいという事情があったのかも知れない。
朝日と読売に関しては、それぞれ登場はするものの朝日は主にコンピュータ化における日経のライバルとして登場し、読売は「ナベツネ」関連のエピソード程度で、あまり登場の出番がない。 これは著者が元もと読売の記者出身であり、書きにくい事もままあったのかも知れない。
日経に関する部分はいわば「プロジェクトX」ノリといって良い。 先の見通しを正しく持つことのできた圓城寺次郎という日経の社長が、断固たる意志で推進した紙面作成のコンピュータ化プロジェクト「アネックス」について、その技術的側面よりはプロジェクトに係わった人間(反対派を含めて)に比重を置いて書かれている。 残念ながら技術的側面の部分は余りにも素人向けの記述で、ある程度コンピュータを理解する人間にとっては不十分すぎてあまり興味を引かない内容であるが、書かれた時代を思えば当然のことで、このことで著者を責められないだろう。
毎日の方は内部人事を巡る暗闘、西山事件や日本通運事件などの不祥事を通じ、今なお復活したとは言い難い毎日の長きにわたる衰退の日々を描いている。
この本における新聞社への視点ははっきりとしたもので、「報道という商売で競争する私企業群」として扱っている。 つまり、「第四の権力」とか「社会の公器」などというところからの視点はないし、各社が行ったスクープや報道内容に関してもほとんど記述はない。 つまり、電機会社や自動車会社を扱うのと同じ視点で「新聞社」を扱っている。
そのために「○○は××であるべき」という「べき論」が全くなく、自分のような読者にとってストレス無く読む事が出来る良書である。 著者の文庫本あとがきにもこうある。
--引用ここから
もちろんこうした動きに関しては、ほんらい新聞社が依りどころにすべきジャーナリズムの精神が損なわれるのではないかという危惧の声が上がっている。 新聞社は企業などではない。社会の木鐸、言論機関なのだ。 営利に走ればそれだけ紙面の独立が脅かされるというわけだ。 だが、日本の新聞社がこれまで社会の木鐸たり得た事など一度でもあっただろうか。
--引用ここまで
1986年に書かれた本だから、著しい変化を示した最近二十年の社会と新聞社のあり方については当然ながら書かれていない。 同じ作者による同じテーマの最新のルポを読んでみたいものだ。
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