「花ファイル」という言葉の誕生
10年ほど前のこと。ある日、ふと浮かんだことがありました。
いつも通り静かにお稽古が進む中、生徒たちは花と向かい合い、それぞれの思いにふけっていました。
何を考えているのだろう――無心になっているのか、
それとも夕餉の支度のこと、あるいは朝、家族と交わした会話のことだろうか。
当時、生け花のお稽古に通ってくる人の約8割は専業主婦で、
時々ボランティア活動にも出かけていました。
「忙しいのよ」と言いながらも、
経済的にはゆとりのある方が多かったのを覚えています。
そんな静寂を破るように、私はふと口を開きました。
「もし、あなたの好きなことでお仕事ができ、
そのお金で家族へのプレゼントを買ったり、ボランティアの活動費に充てたりできたら、嬉しくない?」
突然の問いかけに、生徒たちはキョトンとしたまま。再び静寂が戻りました。
その後、私はひと月、ふた月と考え続けました。
そして、一つのチームをつくることにしました。
しかし、私の生徒で参加したのは一人だけ。他のメンバーは、過去に生け花を学んだことのある人や、
別のサークルに所属する旧友たちでした。
私たちが目指したのは、生け花で装花するウェディング。
**「生け花ウェディング」**と
名付けましたが、誰にも理解されていないようでした。
おそらく、いつものように私の独りよがりだったのでしょう。
ターゲットにしたのは、
若い新郎新婦ではなく、結婚式を挙げられなかった両親のために、
子どもたちから贈るウェディング。
その装花には、お二人の思い出の花を使うことにしました。
こうして、**「花ファイル」**という言葉が生まれたのです。
新郎新婦の歩んできた人生のファイルを紐解き、
その物語を思い出と重なる花で彩るウェディング。それが、「花ファイル」のはじまりでした。
残念ながら、システムが整い出した頃、
コロナ禍の暮らしになってしまいました。
野花人