INSIGHT

ある化学工学系大学教員の大学とあまり関係ないブログ.twitterやFacebookに載りきらない長文の置き場.

日本の気温変動を調べてみた

2015年12月25日 | 雑感

 バイオ燃料に関連する研究テーマを扱っている割に地球温暖化のことをあまり知らないというか,ややこしくて手を出しにくいと思っていたところ,これではまずいかもと思い直して少し調べ物をしてみた,そのレポート。

 

論文っぽい体裁にはしているけど,そのスジの専門家ではないので,専門用途には使わないで下さい。念のため。


 ※ 公開後に追記した事項は末尾に記載してあります。


 

【要約】

 日本全体の過去1世紀程度の気温の変動傾向を把握することを目的として,測定地点の都市化の状況と気温変動との関係を調べた。その結果,調査した範囲において,気温が明らかな下降傾向を示す地点は存在しなかった。一方で,都市雇用圏人口が70万人以上の都市部では0.018~0.024℃/年程度で明らかな上昇傾向にあるのに対し,周辺人口の希薄な地点では0.005~0.011℃/年であり,都市温暖化の傾向が明確に現れた。また,人口希薄地点の気温上昇は日本周辺の海面水温の上昇と同程度であり,海洋の温暖化と同一の機構で日本全体が温暖化していることが示唆された。

 

【使用データ】

 気象庁ウェブサイトの「過去の気象データ検索」から下記16地点の年平均気温および平年値を入手した。

対象地点:根室*,寿都*,山形*,飯田*,彦根*,石垣島*,札幌,宮古,東京,勝浦,八丈島,相川,潮岬,室戸岬,大分,那覇

 

 *を付した地点は日本の年平均気温偏差を求める際に使用される15地点の一部である。これは平たく言えば気温変動の評価基準となる地点であり,都市化の影響が比較的少ない地点であるとされている。本稿ではこれらを基準地点と呼ぶことにする。基準地点およびその他の測定地点の中から,

  • 長期にわたって連続したデータが得られていること
  • 過去1世紀ほどの間に著しく都市化した地点および周辺人口のなるべく希薄な地点
  • 南北方向および海沿い・内陸についてできるだけ偏りが少ないこと

を基準に上記地点を選定した。また,年平均気温データのうち信頼度の低い値は除去し,機器の更新や移転等によってデータの連続性が保証されない時点がある場合は,それらの時点で区切られた期間のうち最も長い期間のみを採用した。こうして得られた全地点の年平均気温の推移を図1に示す。しかし本稿の目的は地点間の気温の絶対値の比較ではなく,増減傾向の比較である。そこで通常の方法に従って,平年値(1981年~2010年の30年平均値)からの増減すなわち年平均気温偏差で評価することとした。得られた年平均気温偏差の推移を図2に示す。

図1 全地点の年平均気温の推移

(クリックで拡大。以下同様。)

 

 

図2 全地点の年平均気温偏差の推移(対1981~2010平均値)

 

【結果】

 図2に示した各地の年平均気温偏差を,基準地点,都市化の著しい地点,およびその他の3つのグループに分けたものを図3(a)~(c)に示す。目視で捉える限りでは,データが欠損している「その他」を別として,測定開始から1910年頃までは下降もしくは横ばい傾向である。その後はすべての地点において上昇もしくは横ばい傾向である。 しかし都市化グループではいずれの地点も上昇傾向が明らかであるのに対し,他の2つは下降傾向ではないものの,全体に上昇傾向は弱く,上昇か横ばいかの判断が難しい地点が含まれている。今回の調査範囲では都市化グループの都市雇用圏人口はいずれも70万人以上であり(最小値は大分の74.3万人),他の2つのグループでは60万人以下である(最大値は山形の54.5万人)。これらのことから都市化グループでは長期的な気温上昇傾向すなわち都市温暖化が実際に起きていると判断できる。

(a)  (b)  (c)

図3 都市化状況別の年平均気温偏差の推移。(a) 基準地点グループ,(b) 都市化グループ,(c) その他グループ

 

 上述の議論を定量的に検討するため,年平均気温偏差の推移の1次関数近似および5年移動平均を求めた。5地点についてこれらの結果を図4(a)~(e)に示す。 都市化地点である東京では近似直線の傾きすなわち平均的な温度上昇傾向は0.0244℃/年であり,近似の信頼性を表すR2乗値は0.79であることから,温度上昇傾向はほぼ確実である。一方で他の4地点は上昇傾向が0.0046~0.0092℃/年,R2乗値が0.05~0.26となった。R2乗値が低いのは,傾きがゼロに近いために近似値の分散が観測値の分散に対して相対的に小さくなるためであり,直ちに信頼性の低さを意味するものではない。しかし傾きに対して短期的変動が相対的に大きいため,一つ一つの地点について上昇傾向か下降傾向かの確実な判定は難しい。

(a)  (b)  (c)  (d)  (e)

図4 年平均気温偏差の1次関数近似と5年移動平均。(a) 根室*,(b) 東京,(c) 八丈島,(d) 相川,(e)室戸岬

 

 そこで全体的な傾向をつかむために,今回調査した全16地点の年平均気温偏差の1次関数近似について,その傾きとR2乗値を図5,図6に示す。地点によってデータの存在する期間が異なるため,有効なデータ全てを用いたものを灰色で,全地点のデータがほぼ揃っている1939~1994年のみ用いたものを青色で示している。

 全データを利用したものについてグループ別に傾きを見ると,基準地点は0.0063~0.0125℃/年,都市化グループは0.0177~0.0244℃/年,その他は0.0046~0.0115℃/年である。一方で1939~1994年に限定すると,根室,札幌,東京,室戸岬などで傾きが変わり,最大で0.0079℃/年ほど異なる値となった。従って異なる地点間を直接比較する場合は,集計対象期間に注意を要する。R2乗値は1939~1994年に限定することで小さくなったが,これは集計期間が短いと短期的変動の影響がより強く現れるためである。

 なおいずれ集計方法の場合でも,今回の調査範囲では傾きが負になったものは皆無であり,確率的にみて都市化地点以外でも微弱ながら気温は上昇傾向にある可能性が強いというべきである。

図5 全地点の年平均気温偏差の推移の1次近似の傾き

 

図6 全地点の年平均気温偏差の推移の1次近似のR2乗値

 

【考察】

「都市化グループ」以外の地点も都市化や周辺環境の変化の影響を受けているのではないか

 筆者自身が気象観測の実際に詳しくないのでここでは十分な議論はできない。その上で,都市化の影響は地点によってはありうるものの,以下の理由で全体的に見て限定的であると考えた(*1)。

 

  • 気象台や気象観測所など観測機器を設置する敷地においては日射風通しが管理されており,移転などで環境が変わり補正もできていない場合は今回の解析範囲から除外していることから,敷地周辺レベルでの環境変化の影響はほぼ無視できると思われる(*2)。
  • 今回選定した地点のうち寿都,八丈島,相川,潮岬,室戸岬は周辺人口が少なく,直近の半世紀ほどは横ばいまたは減少傾向のところもある。熱源となるような交通や産業の規模も大きくないと思われる。従って地域規模での都市化・環境変化の影響は概ね無視できるはずである。
  • 根室,宮古,勝浦,石垣島は必ずしも人口希薄地点ではないものの,自治体人口で1.9~5.5万人程度であり周辺と連続した都市的地域を持たないことから,都市温暖化が起きるとは考えにくい。
  • 山形,飯田,彦根は先述したように気温変動評価の際の基準地点の一部である。しかし都市雇用圏人口で13.5万~54.5万人であり,「都市化グループ」に次ぐ規模であることから,都市温暖化が起きる可能性は排除できない。実際,これらの地点の上昇傾向は「都市化グループ」と上記の人口希薄地点や小都市との中間に位置しており,低度の都市温暖化が起きている可能性は否めない(*3)。

 

今回の結果から日本全体の過去1世紀程度の気温変動が見積もれるか

 本来は山間部など非居住地域の観測も踏まえて判断されるべきだが,人口希薄地点と比較して有意な違いは出ないのではないかと筆者は予想している。従って日本の陸域の過半では人口希薄地点と同程度の微小な温度上昇傾向にあり,全体の平均としてはこの上昇傾向に都市温暖化の影響が一部加味されるものと考えられる。 上述の結果からは,都市化グループとその他グループの中間として,概ね0.0115~0.0177℃/年の範囲に近いと推定することができる。

 すでに気象庁は15箇所の基準地点での観測に基づいて日本の長期的な気温上昇を算出しており,1898~2015年の速報値で0.016℃/年である。今回の検討は,基準地点も一部は都市化の影響を受けている可能性を考慮して,人口希薄地点からベースとなる気温変化を推定したことが特徴である。

 

日本全体が温度上昇傾向にあると仮定して,それは地球温暖化の影響なのか

 本稿で調べた範囲では,日本全体が過去1世紀程度微小な温度上昇傾向にあると言うことができるが,それを都市温暖化や観測地点の局所的な環境変化のみで説明するのは,上述した理由により合理的でないように見える。一方で過去120年ほどの日本周辺の海面温度は概ね0.005~0.015℃/年の範囲で上昇傾向にあり,人口希薄地点と同程度である。従って,都市温暖化の影響を差し引いた気温上昇分が海洋の温度上昇と同一のメカニズムによると考えるのは,一つの合理的な解釈であるといえる。

 ただし,海洋と陸域の間に直接的な因果関係があるかどうかは,別の検討を要する。また,このメカニズムがCO2やその他の温室効果ガス起源の地球温暖化なのかについても,本稿の範囲を超えるのでここでは扱わない。温暖化の原因はともあれ,地球規模の温度上昇の影響が日本にも波及していると捉えるのが合理的であるということを,本稿の結論とする。 


*1 (12/27追記)執筆後に見つけた記事によれば,この見解はかなり改める必要がありそうである。小規模な都市においても市街地化による気温観測値への影響があるほか,観測施設(露場)周囲の植生や建物などの管理が必ずしも十分でない箇所があるようである。同じサイト内で筆者による調査・解析が多数紹介されているが,有意な結果を得るためにさまざまな補正や統計的処理が行われている。

*2 (12/27追記)ここでいう「敷地周辺レベル」は地面も含めた観測施設の日射や風量に直接影響するような,隣接した部分に限定しておく。

*3 (12/27追記)今回の調査対象外であるが,高知(都市雇用圏人口53.5万人)で観測地点周辺の急速な都市再開発が気温観測値に影響したとされる事例が報告されている。


福島産の米を買ってみた

2011年11月17日 | 雑感
福島産の新米を購入した。直後に基準値越えの米が報道されて安全宣言がアテにならないことがはっきりしたわけだけど、僕自身はといえば、注意を払いつつも今のところそれほど心配していない。

推測が多いけど、考え方のポイントは以下の通り。
  1. 生産や流通に関わる人々の大部分がちゃんとやってくれている限りほとんどのものは安全なはず。そこが信頼できるかどうかが大きな分かれ目。
  2. 全品検査は無理だろうから今後も基準値越えのものが見逃される可能性はある。でももし運悪く基準値越えのものを口にしてしまったとしても、大人なら数kg食べたくらいではほとんど影響なさそうに思う。
  3. 桁違いに高い線量の米が見逃されたらさすがにまずい。でも福島県内で1000ヶ所以上測定しているというからその確率は非常に低いのではないか。
  4. もし故意に基準値越えの米を売り捌こうとする人がいるなら、検査で露見しやすい通常の流通ルートは避けるのではないか。そうなると「福島産」というラベルで判断することの意味が薄れてくる。今のところそういう話は聞かないが。

今後判断が変わる可能性はある。
ひきつづき情報を集め、買えそうなら買っていこうと思う。

ともあれ食べられること自体に感謝しつつ、おいしく頂くことにする。

道案内人のDNA?

2009年08月29日 | 雑感
前の記事と同じくモントリオール滞在中の話。

会議の会場や観光地で写真を撮ってくれと頼まれることがやたらと多いのである。見た限りでは同行のK先生は1回、M先生はゼロなのに私は3回くらいは頼まれただろうか。もっともM先生は頼まれても断ると豪語しておられたが。

それだけならまだしも道を訊かれるのには少々閉口した。しかもフランス語で。Sorry, I don't speak Frenchというと英語で訊いてくる。ある時は地下通路から出たところで若いお兄さんに銀行はどっちだと訊かれ(こっちが知りたいよ)、別の日には地下鉄の駅で学生風のお姉さんに××駅へ行きたいんだけどこっちのホームでいいのかと訊かれた。

カナダは移民が多い国なので東洋人だからといって外国人とは限らないということなのだろうが、フランス語が話せない時点でStrangerだとわかりそうなものなのに、引き下がる人がいないのは不思議なことである。日本でもこんなに頻繁には訊かれないから、こっちの人は他人に道を訊くのに抵抗がないのかもしれない。

いや、それよりもどうも自分から「話しかけてくれ」オーラが出ているのではないか心配だ。たいていボーっとしているかムスッとしているかで、決してフレンドリーには見えないはずなんだが。

エビのしっぽ

2009年02月22日 | 雑感
蔵王のロープウェイの山頂駅付近にて.

今シーズンの樹氷の成長はイマイチで,樹木全体がすっぽり氷に覆われて「スノーモンスター」になっているのは山頂付近のごく一部だけ.

写真は杭に成長したプチ樹氷.

左が山形県側,右が宮城県側(※).
樹氷は冬の西風に含まれる水分が析出したものだそうで,そのために風上に向かって成長するのだとか.見事なまでにその理屈が再現されていた.


【※ 追記】
地図を見ると,本当の県境は写真を撮ったところよりも2キロくらい東寄りだった.

段落先頭は字下げすべきか

2008年02月29日 | 雑感
段落の先頭は1字分字下げするものだと教わってきた。かつて教わった英会話の先生にも"You must indent at a beginning of each paragraph!"とかな~り厳しく躾けられたので、これは日本語に限らぬ規則なのだろう。

にもかかわらず本ブログでは実践していない。我ながらけしからんのう。

自分の場合、段落区切りに1行分の空白を入れることでそれに代えてきた。これで十分読みやすいからいいじゃないかというわけだ。

少々気になったので、他のブログをウォッチしてみた。

■サービスによる違い
“はてな”はどうも自動で字下げされるようだ。文章を選択しても段落先頭の空白は反転しないので、その部分に空白文字が存在しないことを示している。その他goo、ココログ、livedoor、fc2、seesaa、excite、so-net、dtiなど見てみた限りほとんどのサービスではそうした字下げ機能はなさそうである。

■ブログによる違い
段落先頭にきちんと空白文字を入れて字下げしているブログもよく見かける。私の見たところでは物書きを生業としている人にその傾向が強いように見える。やはりプロは紙の原稿で習った作法をディスプレイ上でも尊重しているということか。

この違い、些細なことだと思うのだが、意外と大切なことかも。

大学で学ぶということ

2008年02月26日 | 雑感
昨日と今日の2日間、前期日程の入試。
ウチの学科は学科試験を行わず、面接で選抜する。

ありきたりではあるが、志望動機や大学生活へのイメージなどを訊いていく。受験生の皆さんの答えを聞きながら、自分が受験生だった頃はどんな風に考えていたか、記憶を手繰っていた。

大学で学ぶということは、生産年齢人口の一定部分が消費の側に回るという見方ができる。つまり、生産に携わる能力は持ち合わせているのだけれど、知識・能力の獲得その他の目的のために一定期間猶予をもらっているということだ。特に国公立理系であれば、教育にかかるコストのかなりの部分を税金で賄っているはず。生産年齢人口全体が、その一部に対する教育のための費用を負担している、といえるわけだ。この点が、高校までとは大きく異なる一つのポイントではないかと思う(*1)

単に「親にカネを出してもらって」いるのではないことを自覚しておかなくては。自分の場合、そういう想いが弱々しくも心のどこかにはあったので、まあなんとか本当にスレスレで留年せずに卒業できたのだと思う。

自分の意志で勉強しようとする人に大学に来てほしい。
一方で、自分の意志だけで勉強できるわけではないことも、わかっておいてほしい。

実学を学んで世間に還元するのもよし、虚学を学んで自己の才能を開花させるのもよし。だけど、いずれにしても社会の中での自分の立ち位置を意識して学ぶことが、大学生らしさに繋がっていくのではないかと思う。



(*1) 国の統計上、生産年齢人口とは15~64歳を指すのだが、ほとんどの人が高校を出ている現状を踏まえてこのように書いた。「生産年齢人口」というよりは「実質的に労働力を構成する世代の人口」というイメージだが、適切な言葉を知らない。

葛でない葛湯

2008年02月24日 | 雑感
寒い夜や喉の荒れたときは葛湯が恋しくなる。
先日奈良方面に行ったときにお土産に買ってきた葛湯は大変に美味しかったのだが、その後近所のスーパーで買ったものは味があまりに異なるので驚いた。どうやら普通に市販されている葛湯の多くは葛ではなくジャガイモを使っているようだ。上品な風味、滑らかな舌触り、柔らかな喉越し、どれをとってもジャガイモ葛湯は本来の葛湯に遠く及ばない。

それにしてもどうして葛でないものが葛湯として出回るのだろう?

葛は生産量が少ないだろうし、ジャガイモで葛湯風の商品が出ること自体は構わないのだけれど、釈然としない。タンポポコーヒーをあたかも本物のコーヒーとして売るようなものではないか。

「ジュース」と表記できるのは果汁100%だし、「牛乳」も成分で規定されている。でも葛湯はマイナーだから規制するほどでもなかろうということなのだろうか。結構イイカゲンなことがまかり通るものである。

社会の「スピノーダル分解」化?

2008年02月22日 | 雑感
勝手にブログ評論を試してみた。

勝手にブログ評論
INSIGHT評論
このブログでは、社会の「スピノーダル分解」化について論じている。
総合得点 66点
少し気取ったデートにコーションは欠かせない。スーツにスニーカーというニューヨーカーのイメージはもう古い。いまやスーツにフェミニストというのが正当派ニューヨーカーなのである。
プライベートに保険を掛けようものなら、ロイズのアンダーライターに相談しなくてはいけない。
(上記評論への固定リンク)


笑えるぞ、これ。

おそらくこれはRSSフィードなどを元にしているので、このエントリをアップした時点でまた評論内容は変わってしまうだろうけど。