若葉のころ🎵そして枯れ葉のころ😂

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小指の欠けた女

2022-07-27 12:03:07 | 日記

大通りの交差点を左に折れデパートに向かい50メートルほど歩くと細い路地がある。緩い坂道を下り始めると街の様相は一変する。ソープ街である。M子はこの街にきて3年になる。大衆ソープ「S」に2年ほどいたが、居酒屋でスカウトされ高級ソープ「J」に移った。長身で細身のM子はたちまち指名客がついた。彼女の左手の小指は第一関節から先がない。

小学校5年の秋、工作の授業があった。彫刻刀を使い板に自分の顔を彫っていく作業である。隣の席の男子は明るい性格で頭もよかった。「M子、おもしろい遊びがある。左手を出して」M子はためらうこともなく彫り進めた板の上に左手をのせた。「大きく指を開いて」。K男は立ち上がりM子の前にきて彼女の手首をつかみ「指と指の間に彫刻刀を刺していくんだ。おれすごく速いスピードでできるんだ」K男は強くM子の左腕をつかみ親指と人差し指、次は人差し指と中指、そして中指と薬指の間にグサッ、グサッ、グサッ、と刺していった。薬指と小指の間にK男の彫刻刀が向かうその瞬間「やめて!」M子が叫んだ。避けようとした左腕が少しずれ彼女の小指から血が噴き出した。先生がM子の悲鳴を聞き教壇から飛び出してきた。保健室のレベルではないと判断しすぐさま救急車を呼んだ。M子の左手の小指は第一関節から先がなくなった。

中学、高校、そして隣の県の短大に進学した。そこでM子はいままでに経験したことのない視線を感じた。学食でも喫茶店でも友人たちの視線は必ずM子の左手に注がれた。

短大を卒業しM子は地元の銀行に就職した。成績も良く笑顔がさわやかな彼女は金融機関3社を受けすべて採用の返事がきた。銀行ではカウンター業務を想像していたがいつになっても彼女はカウンターでなく客に背を向けたデスクでのパソコン操作だった。入社半年後、M子はいつもより早く出社し課長に問いただした。「カウンターに座れないのはこの小指のせいでしょうか?」課長は黙って下を向いたまま席を立っていった。翌日M子は「退職願」を出した。

翌月からM子は父のつてで税理士事務所に勤務が決まった。税理士の所長は初老のおだやかな男性だった。「君の小指のことはお父さんから聞いている。所員にも君の事情を話しているからなにも気にすることなどない」M子は深々と頭を下げた。

女子トイレで先輩たちの話が聞こえてきた。「M子さん、ほんとに小学校のとき彫刻刀で指を無くしたのかしら」「それも左手の小指よ」

M子は一ヶ月で税理士事務所を辞めた。

両親には夜勤の仕事をすると偽りM子はスナックで働きだした。人当たりも良く爽やかな笑顔のM子はたちまち店の人気者になった。酔客たちは彼女の小指を見ても話題にすることはなかった。小雨がふる夜、店がひけたあと常連客から「M子ちゃん、お寿司でも食べにいこう」と誘われた。寿司屋のカウンターに座ったM子の左隣に中年の泥酔した客が入ってきた。出されたビールグラスに手を伸ばした男の視線がM子の左手小指に注がれた。「マスター、おれ帰る。恐い女の人苦手なんだ」M子の頭の中が真っ白になった。

ソープ「J」は早番勤務にした。遅番ではどうしても酔っ払いの客が入る。指を使う仕事である。嘘もつきたくなかった。「J」はハイクラス客がメインだ。料金も2時間で10万相場。今日3人目の客である。風呂で客の背中を流しマットを使う。ベッドでのM子は長い髪を振り乱し客の背中に爪を立てる。

たった2センチ短い左手の小指、普通の女の子よりたった2センチ短い小指。



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