ブレンド
都内の下町からこの木更津に住まいを移して かれこれ十五年ほど経つが
最近行きつけたお気に入りの喫茶店 のひとつに「ブレンド」がある
名前はあまりにもベタだが このところのこじゃれたオシャレなカフェなどではなく
いわゆる昔からある典型的な「喫茶店」だ
子供が大人に憧れを持っていられた時代の
オトナな感じの喫茶店である
店内の雰囲気はというと
落ち着いた木の素材ですべてできていて
柔らかいこがね色の電球の光
分厚い一枚板のカウンターには水出しダッチコーヒーのタワーが三基 砦のようにそびえ立つ
お花のお師匠さんでも関係があるのか いつ行っても瑞々しい大量の植物が天井まで大胆に活けてある
熱海などのいなせな古い温泉街や
根津や谷中やもしくは神田あたりに 凝り性の店主がひっそりと開いているような
昼間は年配の常連さんで賑わっていて いつもカチャカチャと食器を洗う音がするような
この不景気な木更津には珍しい 粋な感じの活気のある店である
店主かはわからないが
カウンターの中には 姐さんたちが三人
やや高齢だが色白美人の大姐さんと、
髪をきりりとおだんごにひっつめた丸い額が美しい姐さん、
そして「末娘」という感じのおっとりした風情の姐さん
三人姉妹と思いたいところだが もしかしたら親子関係なのかもしれない
はたまた他人かもしれない
中でも私はひっつめの姐さんが好きだ
利発そうな きっぷの良い姐御肌の感じ
コーヒー専門店だけあって コーヒーが美味しいのはもちろんのこと
細やかな気配りも優しい
野菜サンドイッチに ジャムとピーナツクリームのサンドが各一枚ずつ添えられていたり
頼んだかぼちゃケーキに 先日はなんとおまけにチョコケーキまで(ひっつめの姐さんがサービスしてくれた)ついてきた
まさかのダブルケーキ !
これ、おまけっていうのか?笑 そして私の甘いもの好きをご存じか
なにより初めて入った時から 店の音や匂いや色合いが
身体にしっくり馴染んできたのが嬉しかった
椅子やテーブルと同化してしまいそう
コーヒーを前に 店の空気に身を任せ 浸っているだけで
身体から疲れや余計な強張りが取れ 柔らかくリセットされる感じ
木更津は古い港町で
昔は大漁船が江戸に着く その前に 漁師たちはまず木更津港に立ち寄って 飲めや歌えで栄えていたという
たいそう賑わっていたらしく 今は寂れてしまったが駅の港側には 料理屋や置き屋や飲み屋など
そしてその証しに こんなに小さな街なのに 古い映画館が三軒もある(うち一軒は去年潰れた)
私はすっかり忘れていた
オシャレなお店やカフェが少ないことに ブツクサ文句を言っていたけれど
ジャージ姿のヤンキーばっかり! だから田舎は厭なのよと
都内での仕事はしっかり残して いそいそ通勤しているけれど
そんな古き良き時代を覚えている名残惜しさや
それを留められなかった後ろめたさが残る この木更津という土地の
深みのある匂いが気に入って ここに居を決めたのだった
そんな最初の 木更津という街の印象を留めているのが「ブレンド」なのである
ご都合あう方は 是非覗いてみて くださいね
でもどうか お店の雰囲気は壊さないよう お静かに