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京都 龍谷ミュージアムの奥深さに驚き_龍谷の至宝展 9/11まで

2019年07月27日 | 美術館・展覧会

京都・龍谷ミュージアムで、運営母体である龍谷大学が所蔵する文化財や学術資料を一堂に公開する「龍谷の至宝」展が行われています。大学としての所蔵品だけに、仏教美術にとどまらず、解体新書などの貴重書からシルクロードの出土品まで、”知”に関する一級品が幅広く展示されています。

  • 龍谷大学は江戸時代初めの西本願寺の僧侶養成機関が起源、コレクションの蓄積は奥深い
  • 平安時代に万葉集を分類した国宝「類聚古集(るいじゅうこしゅう)」が目玉作品、現存唯一の写本
  • 雑誌「中央公論」の前身は明治時代の龍谷大学の学生の機関紙、文化のつながりはやはり奥深い


龍谷ミュージアム=西本願寺というイメージは強いですが、この展覧会では教育機関としてのコレクションの質と量に驚かされます。日本最大級の教団が江戸時代から持続してきた教育活動を今に伝える賜は、やはり別格です。




龍谷大学の起源は1639(寛永16)年、時の西本願寺13代門主・良如(りょうにょ)が僧侶の教育機関として設立した「学寮」です。良如は、本願寺の東西分裂直後、徳川幕府から豊臣との関係をにらまれた西本願寺の苦境の時代をリードした門主です。火災焼失後に現存する国宝・御影堂や対面所を再建し、江戸時代を生き続ける礎を築いた門主です。「学寮」に教団のサステナビリティへの思いを込めたのでしょう。

仏教僧侶の教育機関は一般的には「壇林(だんりん)」と呼ばれ、他にも現在の仏教系大学の前身となっている機関が多くあります。1580(天正8)年創設の日蓮宗による立正大学、1592(文禄元)年創設の曹洞宗による駒澤大学、1665(寛文5)年創設の東本願寺による大谷大学、などが特に長い歴史を誇っています。

西本願寺・学寮は、重要文化財となっている大宮学舎本館を1879(明治12)年に竣工し、1922(大正11)年にいわゆる旧制大学として龍谷大学となります。戦後に伏見区・深草にメインキャンパスを移し、現在では仏教系として最多の学生数を持つ大学になっています。

龍谷ミュージアムは2011年に仏教に関する総合的な博物館として開設されました。龍谷大学や西本願寺が所蔵する文化財のほか、宗派にとらわれない仏教文化の企画展開催に特徴があります。京都の仏教系ミュージアムでは、相国寺が運営する承天閣美術館と並ぶ双璧です。



ミュージアム入館ロビー

展示構成

  • 第1章 仏教東漸 インドから日本へ
  • 第2章 浄土真宗のおしえ
  • 第3章 本願寺学寮から龍谷大学へ
  • 第4章 写字台文庫の至宝
  • 第5章 大谷探検隊の精華
  • 第6章 人間・科学・宗教


展示は龍谷ミュージアムが誇る充実したインド仏教美術から始まります。いつものようにガンダーラの「菩薩立像」が観客を出迎えてくれます。インド的美しさと慈悲深さを兼ね備えた造形には、お会いするといつも時間を忘れて立ち止まってしまいます。

【龍谷大学図書館 貴重資料画像データベースの画像】 念仏式

ここでは重要文化財の「念仏式」にも注目です。平安時代末期の比叡山における浄土教の文献で唯一現存する写本です。生き生きとした文字で綴られており、浄土真宗にとっては原点とも言うべき教えを伝えるとても貴重な古典籍です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第2章では、西本願寺専属の仏師だった渡辺康雲(わたなべこううん)作の阿弥陀如来立像が存在感を放っています。康雲は江戸時代に岡崎を拠点に活躍し、何代かに渡って襲名されています。

康雲による西本願寺の本尊である阿弥陀如来が全国にのこされており、洗練された表現が特徴的です。鎌倉仏のような写実性も感じられます。江戸時代の仏像には展覧会であまりお会いできません。時間をかけて向き合ってみることをおすすめします。とても美しい阿弥陀様です。

第3章では、雑誌「中央公論」の前身で、1887(明治20)年に刊行された龍谷大学の学生の機関紙「反省会雑誌」が展示されています。最初は禁酒・禁煙を訴える禁欲的な内容でした。東京に拠点を移し、1899(明治32)年に『中央公論』と改題すると小説や評論が中心となり、時代をリードする言論誌に成長します。1999年に読売新聞の傘下に入りますが、雑誌や新書の出版社として現在も高い知名度を維持しています。




第4章の「写字台(しゃじだい)文庫」とは、歴代の門主が蒐集した書籍のコレクションのことです。仏教に限らずサイエンスや娯楽まで幅広い分野に及んでいます。西本願寺門主の大谷家は京都を代表する名家の一つであり、幅広い交際から見事なコレクションが形成されています。

1774(安永3)年に出版された「解体新書」の初版本が展示されており、保存状態が良く紙の美しさが見事に残っていることに驚きます。江戸で出版されたものですが、門主はいち早く入手しています。交際範囲や情報ネットワークの広さがうかがえます。

第5章では、20世紀初頭に22代門主・大谷光瑞(こうずい)が中央アジアに派遣した学術探検隊が持ち帰った文化財が展示されています。重要文化財「李柏尺牘稿」はシルクロード研究を前進させる業績を挙げており、トルファンのアスターナ遺跡から持ち帰った多くの文錦(ぶんきん)は、西域の香りを見事に今に伝えてくれています。

大谷光瑞はかなり斬新な考えを持った人物だったようです。仏教の原点を知るべく私費でシルクロード探検隊を派遣するとともに、六甲山麓に明治を代表する洋館・二楽荘(にらくそう)を建設し、教育文化活動に力を入れました。一方で巨額の散財をすることになり、門主を辞任するとともに二楽荘を手放し、探検蒐集品も散逸します。

【龍谷大学図書館 貴重資料画像データベースの画像】 類聚古集

第6章では「類聚古集」が国宝として堂々たる存在感を示しています。万葉集は年代や詠まれた場所別に編纂されているため、歌の種類や季節によって歌を見つけやすいよう平安時代後期に編集されたのが「類聚古集」です。写本として唯一現存し、万葉仮名の読み方までわかるため、国宝にふさわしい極めて貴重な古典籍です。平安時代の流れるような”ひらかな”も、文字が判別できなくてもほとんどの人が美しいと感じるでしょう。

幕末の発明王でからくり時計で知られる田中久重(たなかひさしげ)の須弥山儀(しゅみせんぎ)は、天動説の概念を立体的に表現したもので、”珍品”としてのオーラが漂っています。

【龍谷大学図書館 貴重資料画像データベースの画像】 混一疆理歴代国都之図

15cに朝鮮半島で制作された世界最古級の世界地図「混一疆理歴代国都之図」のレプリカには、中国を中心にインドまで描かれているのがわかります。日本は実際からほど遠い形状で描かれています。



この屋根は何? 国宝・飛雲閣です。

龍谷大学の所蔵品の層の厚さが本当によくわかる展覧会です。龍谷ミュージアムは、展示の工夫に常に積極的に取り組んでいるミュージアムでもあります。今回の展覧会でも「掛軸に触れる」ことができる体験コーナーを設けています。

そんなミュージアムの全貌がわかります。ぜひお出かけください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



龍谷大学所蔵のお宝をたっぷり紹介、展覧会の図録としても便利
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<京都市下京区>
龍谷ミュージアム
企画展
龍谷の至宝 -時空を超えたメッセージ-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:龍谷大学龍谷ミュージアム、京都新聞
会場:3階展示室
会期:2019年7月13日(土)~9月11日(水)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※8/12までの前期展示、8/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR/近鉄/地下鉄・京都駅から徒歩15分
地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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