美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

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2020年 日本は大きく変わる_美の五色の新年

2020年01月01日 | つぶやく

2020年。あけましておめでとうございます。

「美の五色」をお読みいただいているみなさま方、旧年中は本当にありがとうございました。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。





2020年は日本を世界にプレゼンする年

今年2020年といえば何と言っても東京オリンピック&パラリンピック。
オリンピックは聖火リレーが3月から始まり、7/24の開会式、8/9の閉会式でどんな演出が行われるのか今から本当に楽しみです。
前回1964年のオリンピックで先進国の仲間入りをして以来、半世紀が過ぎました。
日本は世界に対して、どんな未来に向けたプレゼンテーションとおもてなしができるのでしょうか。

パラリンピックの聖火リレーはオリンピック終了後から始まり、8/25の開会式、9/6の閉会式と続きます。
バリアフリーやユニバーサル社会のあり方について、こちらも世界に対してどんなプレゼンテーションとおもてなしができるのか、目が離せません。


2020年は世界と日本の歴史の節目でもある

お正月恒例の新聞の年間予定を見ていると、あらためて2020年は現代を生きる世界中の人々にとって節目の年であることを実感しました。

最大の節目は、1945年の広島・長崎への原爆投下と第二次大戦終結から75年でしょう。
大国間同士の戦争が75年も行われなかったことは、世界史上初めてのことです。
日本と欧米の先進国は平和で安定した社会の下、経済や文化、科学技術を飛躍的に発展させてきました。
世界中の美術館にある傑作を日本の美術展で鑑賞できるのも、まさに平和で安定した社会を実現した賜です。

日本では1970年の大阪万博から50年、戦後の高度経済成長の絶頂期から半世紀が過ぎました。
バブル崩壊後の失われた20年を象徴するような天災、1995年の阪神淡路大震災からは25年です。
先進国で唯一ほとんど経済成長しなくなり、かつ世界最先端の少子高齢化に悩まされ続けた四半世紀でした。


文化が日本を変えていく

第二次大戦後、西欧は政治経済の中心ではなくなり、どのようにして自国のプレゼンスを高めようかに知恵を絞ります。
たどり着いた答えは「ここにしかないもの」、すなわち時間が積み重ねた歴史と文化です。
質感とデザインで世界を魅了する高級ファッションブランド、五感で楽しませるグルメ、言葉がわからなくても感動させるコンサートやオペラ、そして美術館です。

日本も全く同じではないでしょうか。
日本は世界一、昔の文化が今に伝えられている国です。
文化財、伝統芸能、老舗企業、「ここにしかない」モノやコトがあふれています。
加えて「少子高齢化」という人類がかつて経験したことのない難題に、世界最先端で向き合っています。
中国や韓国もまもなく、少子高齢化と直面しなければなりません。

日本は早く経験して積み重ねた知恵でこそ、世界から信奉を集めることができます。
2020年の東京オリパラで、そんなプレゼンテーションができることを願ってやみません。

2020年がみなさまにとって、思い出深い年になりますように。


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中之島香雪美術館「上方界隈、絵師済々」_円山・四条派は奥深い

2019年12月18日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島香雪美術館で、円山・四条派の隠れた名品を集めた展覧会「上方界隈、絵師済々Ⅰ」が始まりました。
前期展示は派が芽生えた京都、後期展示は派が独自の発展をとげた大坂と、絵師の活躍した地域で作品が総入れ替えされるという、興味深い展示構成が注目されます。
普段なかなか見れない個人蔵作品の多さも、この展覧会の特徴です。
「隠れた名品がこんなにあったのか」と、驚く方がきっと多いでしょう。



フェスティバルホール


目次

  • 円山・四条派の名品はどこまでも奥深い
  • 円山応挙の名品「芭蕉童子図屏風」
  • 原在中の名品「旭日双鶴図」






円山・四条派の名品はどこまでも奥深い

今年2019年は、全国で円山・四条派の展覧会が目白押しでした。
このブログでも、

とご紹介してきたように、円山・四条派の作品を「これでもか」と見続けていたのです。

普通ならば「そろそろ見飽きた」と感じてしまうのですが、「上方界隈、絵師済々Ⅰ」には迷うことなく足を運んでいます。

  • 円山・四条派は絵師がとても多く、時がくだるほど描写が洗練されていくことがわかる
  • 現存する作品が多く、多種多様な画風やモチーフが楽しめる
  • 版画の錦絵とは異なり、同じ作品を目にすることはない

と期待したためですが、そんな期待を裏切らない「隠れた名品」が展示会場に勢揃いしていました。

前期展示の京都画壇では、円山・四条派のDNAの原点である円山応挙の作品を出発点に、DNAが京都でどのように伝播していったのかを味わうことができます。
長澤芦雪や呉春ら著名な弟子の名品はもちろんですが、源琦や原在中といった「隠れたすご腕」の弟子たちの名品が見逃せません。
円山・四条派のDNAの奥深さをしっかりと実感することができるからです。





円山応挙の名品「芭蕉童子図屏風」


前期展示のタイトル「京都画壇の立役者たち」を象徴する作品は、やはり円山応挙でしょう。
前期展示では、展示期間が限られている作品もありますが、9点が出展されています。


【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

「芭蕉童子図屏風」個人蔵は、円山応挙が本格的に絵師として活動を始めた、いわゆる「円満院時代」と呼ばれる頃の名品です。

円満院(えんまんいん)とは、滋賀県大津市の三井寺の近くの門跡(もんぜき)寺院で、今も続いています。
円山応挙の出世への階段は、当時の円満院の住職・祐常(ゆうじょう)が、絵を習うために円山応挙を呼び寄せたことで、始まりました。
祐常は関白二条家出身で、円山応挙にとっては自身の名を公家社会に広めてくれた大恩人です。
また祐常は当時流行していた博物学に詳しく、植物や動物の姿を「写生」する面白さを円山応挙に目覚めさせた人物でもあります。
祐常との出会いがなければ、円山応挙はスーパースターにはなりえなかったでしょう。

「芭蕉童子図屏風」は、童子が仙人を見つめる視線が印象的です。
円山応挙が得意とした「愛くるしい」表現は、若い頃からかなりの領域に達していたことがわかります。

【所蔵者公式サイト】 円山応挙「棕櫚図」香雪美術館

「棕櫚(しゅろ)図」香雪美術館蔵は、円山応挙の「写生」への執念を感じさせます。
棕櫚とはヤシであり、薩摩の島津家からプレゼントしてもらい、京都の庭園に植えることが江戸時代に流行していました。
植物ながら、その描写には生命感があふれており、温かみさえ感じさせます。
観察する能力と表現する能力、ともに極めようとした円山応挙の画業人生を集約したような名品です。
展示は12/28まで。



フェスティバルプラザ


原在中の名品「旭日双鶴図」

原在中(はらざいちゅう)は、数多い円山応挙の弟子とされる絵師の中でも、本当に弟子であったか諸説ある謎の人物です。
画風は、伝統的なやまと絵表現・中国絵画から写実画まで幅広く取り込んでおり、絵の注文も寺や公家からが中心でした。
さまざまな伝統の知識である有職故実(ゆうそくこじつ)に明るかったこともあり、18cの京都画壇の絵師の中では異色の「王朝趣味」を感じさせます。
町衆からの注文が多かった円山・四条派の絵師たちとは随分個性が異なります。

「旭日双鶴図」村山コレクション蔵は、太陽の方向を見る鶴と言うモチーフ設定に加え、やまと絵と中国絵画をブレンドしたような表現から、とても洗練された趣に仕上げられている名品です。
背景の松の枝は写実的にとても緻密に描かれており、絵の全体の印象を引き締めています。



茶室「玄庵」を館内に原寸大再現


円山応挙の弟子の中で、美人画で知られる二人の名品も注目されます。
唐美人図で有名な源琦(げんき)の「西王母図」個人蔵、日本美人画で有名な山口素絢(やまぐちそけん)の「美人図」個人蔵は、とても興味深く画風を対比することができます。

「隠れた名品がこんなにあったのか」と確実に実感できる展覧会です。
来年2020年2月からは展示作品が総入れ替えされ、後期展示「独自の展開 大坂画壇」が始まります。
前期展示「京都画壇の立役者たち」を見て、大いに期待感が高まりました。
また来年2020年9月からは「上方界隈、絵師済々ⅠI」の開催が予告されています。
こちらはどんな展示構成になるのでしょうか、同じく楽しみです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



「奇想」を提案した著者は18c京都にルネサンスを見出した


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利用について、基本情報

中之島香雪美術館
企画展「上方界隈、絵師済々 Ⅰ」
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:香雪美術館、朝日新聞社
会期:2019年12月17日(火)〜2020年3月15日(日)
原則休館日:月曜日、12/29-1/7
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※2/2までの前期展示、2/4以降の後期展示ですべての展示作品が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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嵐山 福田美術館にさらなる手応え_福美コレクション展 II期 1/13まで

2019年11月27日 | 美術館・展覧会

10/1にオープンしたばかりの、京都・嵐山・福田美術館。
オープン記念の展覧会「福美コレクション展」が、ほとんどの展示作品を入れ替え、II期に入っています。
福田美術館の江戸・近代の日本美術の素晴らしいコレクションには、I期でもかなり手応えを感じました。
そんな福美コレクションの手応えをさらに実感させくれる名品が、II期でも目白押しです。




目次

  • II期の名品その1:木島櫻谷「駅路之春」
  • II期の名品その2:長沢芦雪「海老図」
  • II期の名品その3:葛飾北斎「人物像」






II期の名品その1:木島櫻谷「駅路之春」

このしまおうこく「うまやじのはる」と読みます。
近年、温かみのある動物画で注目を集めている木島櫻谷は、自身の名前も超難読ですが、作品にも超難読のタイトルが多い、とても個性の強い画家です。

六曲一双の巨大な屏風「駅路之春」の前に立つと、そんな櫻谷の個性の強さを強烈なオーラとして感じます。
左隻は、街道の駅で休息をとる旅人の様子を描いたものでしょう。
しかし旅人の顔は描かれず、桜の太い幹の間からわずかに足元だけを見せるという、ドラスティックな構図です。
一方、右隻はベーシックな構図、駅で休息をとる馬二頭の全身をほのぼのと描いています。
両隻とも桜の花は描いていません。
明るい色彩と、地面に落ちた花びらだけで、春真っ盛りであることを見事に観る者に伝えています。

構図の妙と、洗練された色使い。
同じ頃、京都画壇に君臨していた竹内栖鳳の、今にも動き出すようなリアルな動物画とは対照的な画風が、木島櫻谷の魅力です。

【美術館公式サイト:コレクション】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

福美コレクションの近代日本画では他に、速水御舟の二点が注目されます。
ツツジの見事な花の下ですやすや眠る猫を描いた「春眠」、夏の朝しか咲かない黄蜀葵(とろろあおい)ほのかな黄色い花弁を描いた「露潤」。
いずれも速水御舟らしい生命力にあふれた緻密な描写が見事です。



観る者を惹きつける「駅路之春」 ※館内は原則、写真撮影OK


II期の名品その2:長沢芦雪「海老図」

縦長の軸の左下から右上に、ウルトラマンの怪獣のように見える巨体の海老を描いています。
ボディは、生きている時のナチュラルな色ではなく、いかにも食欲をそそるゆであげた後の「真赤」
背景は一切描かれず、タイトルも一切脚色がない、ずばり「海老図」
一方で波打つような海老独特の繊細な紋様の描写はきわめて緻密
長沢芦雪らしい「奇想」が見事に伝わってきます。

そんな弟子・長沢芦雪の作品を見て、一緒に並ぶ師匠・円山応挙の作品からは「やれやれ、もっと写生しろ」というぼやきが聞こえてくるようです。

「黄蜀葵鵞鳥小禽図(おうしょっきがちょうしょうきんず)」は、円山応挙の人柄を表すような、細心なテクニックがふんだんに用いられています。
背景のとろろあおいのほのかな黄色い花びらの下で鳴いているガチョウが、妙にリアルなのです。
羽毛の淵を白い絵の具で描くことで表現した、絶妙なフワフワ感が作品全体を引き締めています。
匂いまで描くと言われた竹内栖鳳は「きっとこの作品を見て学んだのだ」、と思ってしまいました。

あと一つ、岸駒(がんく)が鹿のつがいを描いた「福禄寿図」もお忘れなく。
長澤芦雪とほぼ同世代ですが、円山応挙との関係は希薄と考えられており、長崎で隆盛していた中国絵画の影響を受けている画家です。
力強く中国風に描かれた背景の岩や松の前で、まるで体温まで伝わってくるように精緻に描かれた鹿の毛並みが観る者を惹きつけます。
しかもつがいの視線は真逆、岸駒らしい構図の妙も抜群です。





II期の名品その3:葛飾北斎「人物像」

天球儀を横にして堂々と座るいかにも知識人のように見える男性。
誰の作品かと思いきや、葛飾北斎と聞いて驚きました。
葛飾北斎による男性の肖像画はほとんど見た記憶がなく、葛飾北斎のマルチな才能をあらためて感じさせます。
指と目線の繊細な描写からは、モデルの人柄までが伝わってくるようです。

葛飾北斎の弟子・蹄斎北馬の美人画三部作「雪月花」は、どこか普通の美人画とは違います。
喜多川歌麿のような美人画の主流とは一線を画す「大人の表現」に見応えがあります。




渡月橋から見た福田美術館

福美コレクション展II期は1/13まで行われています。
年末は29日(日)まで、年始は2日(木)からと、他に比べ福田美術館のお正月休みは短めです。
歩き疲れた時には、館内のカフェから楽しめる嵐山の絶景が、カラダをいやしてくれます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



現代の京都画壇の人気の実態や如何に?


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利用について、基本情報

<京都市右京区>
福田美術館
開館記念
福美コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:福田美術館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2019年10月1日(火)~2020年1月13日(月・祝)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※11/18までのI期展示、11/20以降のII期展示で展示作品/場面が全面的に入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、南口から徒歩12分
京福電鉄・嵐山本線(嵐電、らんでん)「嵐山」駅下車、徒歩4分
阪急電鉄・嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩11分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には障がい者や車いすの方だけが利用できる駐車場があります。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。

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国宝彦根屏風と国宝松浦屏風 見事な競演_奈良 大和文華館 12/25まで

2019年11月26日 | 美術館・展覧会

奈良 大和文華館で、江戸初期風俗画の二大傑作が競演する「国宝彦根屏風と国宝松浦屏風」展が行われています。
両屏風はすぐ近くに展示されており、究極のオーラの違いを見比べて楽しめる、またとない機会です。
後世の浮世絵につながる江戸初期風俗画の魅力を、しっかりと味わうことができます。



秋色に染まる大和文華館の海鼠壁


目次

  • 江戸初期に大流行した風俗画「遊楽図」は時代の鏡
  • 国宝彦根屏風と国宝松浦屏風、オーラの違いをとくとご覧あれ
  • 風俗画に描かれた人物はどんどん大きくなっていった





江戸初期に大流行した風俗画「遊楽図」は時代の鏡

美術用語で、市井の人たちの暮らしぶりや生活を楽しむ様子をモチーフとして描いた作品を指すのが「風俗画」です。
日本では、京の都の様子を描いた「洛中洛外図」がそのはしりと考えられています。
戦国時代真っただ中16c前半の「歴博甲本」国立歴史民俗博物館蔵が、現存最古の洛中洛外図です。

「洛中洛外図」は、当初は戦国大名が京の街の様子を家来や客人に見せるために描かせましたが、戦国の世が終わると、豊かな町衆たちから注目されるようになります。
モチーフも、観光ガイドのように京の都全体の名所をもれなく描くのではなく、四条河原など特定のスポットに絞って、遊びを楽しむ様子を描くよう変化していきました。
これが「遊楽図(ゆうらくず)」です。
ようやく訪れた平和と街の繁栄を謳歌する、新しい時代の到来の象徴のようなモチーフでした。

  • 芝居見物や酒宴を楽しむ人々の表情や着物の描写は緻密
  • 役者や見物人の着物のデザインは今見てもかっこよく、まるでファッションショーのよう
  • 現存しない建物の姿や配置もわかり、歴史的にもとても貴重な資料

当時の最新トレンドがとてもよくわかり、今にも人々が飛び出してくるようにリアルに描かれている。
何と言っても「遊楽図」の最大の魅力でしょう。



銀杏の黄葉が絵になる大和文華館


彦根屏風と松浦屏風、オーラの違いをとくとご覧あれ

桃山時代から江戸時代初期に大流行した遊楽図の最高傑作と並び称されているのが、今回の展覧会のツイン主役である「彦根屏風と松浦屏風」です。
同じ展覧会で「ご一緒」するのは、3年前2016年秋の彦根城博物館「コレクター大名 井伊直亮-知られざる大コレクションの全貌-」以来ですが、その際展示室は別でした。
しかし今回の展示では、彦根屏風の一隻と松浦屏風の左隻が同じ視界に入るよう展示されており、まさに「競演」です。
風俗画ファンにはたまらない「しつらえ」になっています。

【所蔵者公式サイトの画像】 「彦根屏風(風俗図)」彦根城博物館

彦根城博物館で「彦根屏風」を最初に見た時、遊里で遊ぶ男女がとても「上品」に描かれているという印象を受けたことを、私は記憶しています。

  • この時代の遊楽図屏風に多い1mほどの高さで、一隻だけの作品、コンパクトさはちょうどよい
  • 余白が大きく金箔以外に何も描かれていない、主役に自然と目が行く
  • 余白を活かした人物の配置とその着衣のデザインはとても優雅、描写も緻密で洗練されている
  • 唯一背景のように描かれた屏風は中国の山水画で、文人趣味をうかがわせる

寛永年間(1624-44)の狩野派の絵師によると考えられている「彦根屏風」は、上流階級のサロンのような高級な遊里を描いたものでしょう。
そうでないと、こんな「洗練」された描写はできません。



彦根城


もう一人の主役「松浦屏風」は、「彦根屏風」とは対照的に「妖艶」なのです。

【所蔵者公式サイトの画像】 「松浦屏風(婦女遊楽図屏風)」大和文華館

  • 同じく遊里を描いたものだが、遊女と禿(かむろ)だけで、客の男性は描かれていない
  • 高さ150cm超の屏風に描かれた人物はほぼ等身大、しかも一双なので彦根屏風の2倍の圧巻のスケール
  • 髪の毛や着物の文様の描写は、画面が大きいだけに彦根屏風よりさらに緻密、輝くような絵具の発色も驚愕
  • 客の殿方を夢の国にいると錯覚させる「あやしい」女性の表情や目線は一人一人異なる、モナリザの微笑のように観る者をとりこにする

着物のデザインは桃山時代風ですが、制作年代は桃山時代から江戸半ばまで様々な説があることも、この作品の不思議な魅力を高めています。
西洋絵画にはよく見られる何かの暗示を、この作品から感じてなりません。

彦根屏風の「洗練」、松浦屏風の「妖艶」。
オーラの違いをぜひ楽しんでください。




風俗画に描かれた人物はどんどん大きくなっていった

この展覧会は、遊楽図が時代を追って作品が展示されています。
モチーフの描き方の変遷、すなわち時代の鏡の映し方がどのように変わっていくかを楽しむことができます。
描かれる空間の範囲はどんどん小さくなり、描かれる人物はどんどん大きくなるのです。

風俗画のはしり「洛中洛外図」は、範囲は京の街全体を描きました。
クローズアップされた名所の周辺に描かれた人物は小さく、まるでアリのようです。

続く遊楽図では、北野天満宮の境内や四条河原といった、特定の娯楽スポットだけを描きます。
おのずと範囲は狭くなり、人物は大きくなりました。
何を楽しんでいるのか、どんなファッションで着飾っているか、わかるようになります。
モチーフの主役が、街の風景から人物に、移り変わっていることが見逃せません。

次に流行する、個人の屋敷の中だけを描いた「邸内遊楽図」や、さらに範囲の狭い松浦屏風のような室内だけを描いた遊楽図にも、この傾向は受け継がれます。
行きつく先は、寛永時代から約20年後に現れた、背景がなく人物だけを描いた「寛文美人」と呼ばれる美人画です。
浮世絵にも、美人画人気は引き継がれていきます。

  1. 狩野孝信「北野社頭遊楽図屏風」個人蔵
  2. 「邸内遊楽図屏風」奈良県立美術館蔵
  3. 「松浦屏風」大和文華館蔵
  4. 「舞妓図」大和文華館蔵

と順に見比べてください。
とっても面白いですよ。




西洋絵画で風俗画と受け止めることができる最初期の作品は、くしくも日本の洛中洛外図と同じ頃、フランドルでブリューゲルが描いた「農家の婚礼」ウィーン美術史美術館でしょう。
風俗画が市民の間で大流行したのも日本と同じ頃、16cのオランダです。
ハルス、レンブラント、フェルメール、本当に輝くような時代でした。

風俗画は「時代の鏡」、400年前にタイムスリップしてみましょう。


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本美術はとても多様、整理してみませんか?


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利用について、基本情報

<奈良県奈良市>
大和文華館
特別展国宝彦根屏風と国宝松浦屏風
―遊宴と雅会の美―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:大和文華館
会期:2019年11月22日(金)~12月25日(水)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

※12/8までの前期展示、12/10以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。


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ハプスブルク展、欧州随一の名門の至宝の数々_西洋美術館 1/26まで

2019年11月20日 | 美術館・展覧会

上野・国立西洋美術館で「ハプスブルク展」が行われています。
 展覧会の主人公は、オーストリアとスペインのハプスブルク家の8人の王族。
 ヨーロッパ随一の名門の栄光の歴史を、8人にまつわる驚きの至宝を通じて堪能できる展示構成に仕上がっています。





 目次

  •  名門、ハプスブルク家にこそふさわしい称号
  •  15c、政略結婚で版図を一気に拡大したマクシミリアン1世
  •  17c、ベラスケスを寵愛したフェリペ4世
  •  18c、マリー・アントワネットをフランスに嫁がせたマリア・テレジア
  •  19c、世紀末ウィーンの繁栄をもたらしたフランツ・ヨーゼフ1世



 


 名門、ハプスブルク家にこそふさわしい称号

 ハプスブル家って、聞いたことはあるが、すごい一族?

 多数の民族や国家がひしめきあうヨーロッパには、ものすごい数の王家があります。
 そんな中で、ルネサンスの時代から第一次大戦まで600年にわたり、欧州大陸のど真ん中を支配、欧州指折りの「名門」として称えられるのがハプスブル家です。

  •  イタリアとバルト海を結ぶ南北の「琥珀の道」、欧州大陸の東西の交流軸となった「ドナウ川」、この2つの道の交点に位置する首都ウィーンはには、常に先端文化が流入していた
  •  ハプスブル家は19c初頭まで約400年間、ドイツ全体の象徴的な君主となる「神聖ローマ皇帝」を兼ねており、「名門」としての影響力を誇示し続けた
  •  16cにはスペイン/オランダ/ナポリも支配、「太陽の沈まぬ国」の繁栄を強く印象付けた


 16cに繁栄の絶頂を迎えて以降、ハプスブル家は領土の縮小が相次ぎ、第一次大戦の敗戦で王家としての役割を終えます。
 ハプスブル家の歴史を見ていると、日本の天皇家にどこか似ている気がしてなりません。
 互いに政治権力を縮小させながらも脈々と命運を保ち続け、国民に絶大な人気があります。

 世界でも稀有な「名門」ハプスブル家の悠久の歴史を、この展覧会できちんとたどってみませんか?





 15c、政略結婚で版図を一気に拡大したマクシミリアン1世

 1493年、日本では「応仁の乱」が終わった頃、この展覧会の1人目の主役が神聖ローマ帝国の皇帝になります。
 ハプスブル家の隆盛の礎を築いたマクシミリアン1世です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作「ローマ王としてのマクシミリアン1世」ウィーン美術史美術館

 甲冑に身を包みまっすぐに前を見つめる描写は、ハプスブル家を名門に押し上げた偉人の威厳が見事に表現されています。
 「中世の騎士」の如く武力で領土を拡大したように印象付けられますが、版図の拡大に最も効果的だったのは「政略結婚」でした。
 自らは欧州で最も豊かだったフランドルを支配するブルゴーニュ公の娘と結婚、フランスに対抗する思惑で一致したスペインには息子を婿入りさせ、欧州最強の王家になる布石を打っていきます。

 平安時代に天皇への輿入れ競争で勝利して絶大な権力を手にした藤原道長と同じ。
 展覧会のプロローグを飾る彼の肖像画からは、偉大な功績を今に伝えるオーラを圧倒的に感じることができます。



 西洋美術館の前庭・ロダン作品


 17c、ベラスケスを寵愛したフェリペ4世

 16c、大航海時代に世界を制覇した「太陽の沈まぬ国」スペイン。
 中南米の銀山からの収入を新産業育成に活かせず、最大の税収源であるオランダが独立したこともあって、17cにはヨーロッパの先進国としての地位を失いつつありました。
 歴史は皮肉なもので、一旦強国になった国が傾き始めると、過去の蓄積の効果が表れはじめ、芸術を中心とした文化が栄えるようになります。
 17cのスペインはその代表例です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベラスケス「スペイン国王フェリペ4世の肖像」ウィーン美術史美術館

 展覧会3人目の主役は、時のスペイン王・フェリペ4世。
 ベラスケスとルーベンスのパトロンという文化面での実績が、政治的な実績以上に強く記憶に残る王です。
 フェリペ4世の肖像画には、マクシミリアン1世の肖像画のような「近寄りがたい」威厳はありません。
 しかしはるかに国王としての”洗練”を感じさせます。
 ハプスブルグ家が積み重ねた悠久の歴史を見事に表現したベラスケスはやはり、天才です。

 【展覧会公式サイトの画像】 ベラスケス「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」ウィーン美術史美術館

 オーストリアとスペインに分かれて相続されたハプスブル家は、家の繁栄をもたらした「婚姻」を重視し続けました。

  •  同族内で婚姻している限り、他家に所領が乗っ取られることはない
  •  同じカトリックで家の格が見合うフランス王家は宿敵、婚姻はありえない
  •  近親結婚が増えたことで障害を持つ子供が続出したことも、家の凋落の一因に


 展覧会4人目の主役「マルガリータ・テレサ王女」は、父フェリペ4世に溺愛され、オーストリア皇帝への「見合い写真」としてベラスケスに幾度も描かれました。
 8歳の少女の可憐な表情を見事に描き出したこの肖像画は、ベラスケスの最高傑作の一つです。
 青いビロードのドレスの立体的な輝きは、ヨーロッパ最高の家柄の娘であることを完璧に表現しています。

 【所蔵者公式サイトの画像】 Velazquez「Las Meninas」プラド美術館

 ちなみに、かの有名な「ラス・メニーナス」の主役も、マルガリータ・テレサ王女です。



 プラド美術館・ベラスケス銅像


 18c、マリー・アントワネットをフランスに嫁がせたマリア・テレジア

 5人目の主役は、女王マリア・テレジアです。
 男子でないと皇位継承が認められなかった時代に、オーストリア継承戦争や七年戦争を戦い抜き、女王としてオーストリアを統治することをヨーロッパ中に認めさせました。

 【展覧会公式サイトの画像】 マルティン・ファン・メイテンス(子)「皇妃マリア・テレジアの肖像」ウィーン美術史美術館

 「皇妃マリア・テレジアの肖像」には、「国母」と呼ばれた彼女の人生が集約されているように感じてなりません。
 当時きわめて珍しかった恋愛結婚をし、16人もの子を産んだ「肝っ玉母さん」でもあります。

 マリア・テレジアは、オーストリアの外交を大きく転換させました。
 ドイツ全土に影響を及ぼすようになったプロイセンに対抗すべく、永年の宿敵フランスと手を結んだのです。
 その象徴として、ルイ16世の妃となるべくパリに送り込まれたのが、かのマリー・アントワネット。
 この展覧会の6人目の主役です。

 【展覧会公式サイトの画像】 マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」ウィーン美術史美術館

 当時のパリで最も著名な女性肖像画家・ルブランが描いた肖像画には、23歳の姿ながらも王妃としての貫禄が見事に表現されています。
 38歳で断頭台の露と消えることになる彼女は、嫁入り当初はフランス人に熱狂的に歓迎されました。
 それがいつのまにか、彼女の優雅な暮らしぶりが民衆の不満の象徴へと、どんでん返しするのです。
 一緒に展示されている彼女が身に付けていた豪華な宝石は、そんな彼女の運命を今に伝えています。



 マリー・アントワネットが断頭台にのぼったパリ・コンコルド広場


 19c、世紀末ウィーンの繁栄をもたらしたフランツ・ヨーゼフ1世

 展覧会の主役の最後の2人は、19cの世紀末に今日のウィーンの街並みを造った最後の皇帝・フランツ・ヨーゼフ1世と皇妃エリザベトです。
 今年9月に大阪・国立国際美術館「ウィーン・モダン展」で見た二人の肖像画には強く印象付けられましたが、改めて輝かしいウィーンの世紀末の時代をイメージすることになりました。

 【展覧会公式サイトの画像】 ヴィクトール・シュタウファー「オーストリア・ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の肖像」ウィーン美術史美術館

 国民に絶大な人気があった「最期の皇帝」の最晩年の姿を描いた肖像画です。
 オーストリアの国運をしっかりと受け止めた「おじいちゃん」のような彼の存在感を、完璧に表現しています。
 第一次大戦は、欧州屈指の「名門」ハプスブルグ家の終焉の時。
 その最期を如実に表現した肖像画には、オーストリアのみならずヨーロッパの雄大な歴史が詰め込まれているように思えてなりません。

 【展覧会公式サイトの画像】 ヨーゼフ・ホラチェク「薄い青のドレスの皇后エリザベト」ウィーン美術史美術館

 この王妃の肖像画を見て、みなさんはどのような印象を持たれるでしょうか?
 ヨーロッパ宮廷随一と言われた女性としての美しさ、女性ならではの威厳、国民を統べる選ばれた人としての緊張感、これらすべてがこの絵で表現されています。
 日本でも度々、宝塚劇団のミュージカルの主人公として、その人生を語り継がれてきました。
 彼女は1898年に暗殺される運命にあります。
 オーストリア帝国の落日を象徴するような人生でした。





 2019年は日本・オーストリア友好150周年で、年初から「世紀末ウィーンのグラフィック」「クリムト展」「ウィーン・モダン」と続いた大型美術展のラッシュが記憶に残っている方も少なくないでしょう。
 「王族」をストーリーの軸とした「ハプスブル展」は、そんなオーストリア展「ラッシュ」の最後にふさわしく、オーストリア帝国の栄光の歴史をきっちりとたどっています。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 悠久のハプスブルク家の歩みを多彩なビジュアルでしっかり解説


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 主催:国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社
 会場:B2F企画展示室
 会期:2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~19:30)

 ※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
 東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
 京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分

 JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
 東京駅→JR山手/京浜東北線→上野駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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