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赤塚不二夫保存会/フジオNo.1

『キャスター』

『キャスター』 一部シナリオ/喰始
光文社「ポップコーン」1980年4月号~1981年2月号(隔月刊)

回数/掲載誌/サブタイトル/クレジット/単行本
1/「ポップコーン」1980年4月号/レポート〇その1(おかえりなさい‼熱中先生)/なし/なし
2/1980年6月号/レポート〇その2(レストラン『ふともも』)/シナリオ・喰始/なし
3/1980年8月号/レポート〇その3(エンジェル誕生)/協力・喰始/なし
4/1980年10月号/レポート〇その4(悪霊一家)/なし/なし
5/1980年12月号/レポート〇その5(政府指定民家ゴミ捨て場)/原案・喰始/なし
6/1981年2月号/レポート〇その6(短気は損気)/シナリオ・喰始/なし
※すべて無題の為、カッコ内に内容から便宜上のサブタイトルを付けた。

・解説
 数多ある赤塚漫画の中でも、思いがけない知名度を誇る作品が『キャスター』である。今回はその理由を探りながら、作品を深堀りしていきたい。まず、掲載誌「ポップコーン」の成り立ちについて記そう。

 光文社は1978年から翌年にかけて、「光文社マーベルコミックス」(新書版・全24巻)を刊行した。これは米マーベルコミックスの『スパイダーマン』、『ファンタスティックフォー』、『ミズマーベル』、『ハルク』などの邦訳版であり、「SFマガジン」や「COM」でアメコミにフォーカスしたコラムを書き、現在に至るまでアメコミを紹介し続けている漫画評論家の小野耕世を訳者と監修に起用している。

 発刊に至る大きな要因は、この時、東映とマーベルが提携を結んでいたことにある。その下で制作されたのが特撮番組『スパイダーマン』(1978~1979年)、スーパー戦隊シリーズの第3作『バトルフィーバーJ』(1979年)、第4作『電子戦隊デンジマン』(1980年)、第5作『太陽戦隊サンバルカン』(1981年)の3作品、アニメ特番『闇の帝王 吸血鬼ドラキュラ』(1980年)である。

 「光文社マーベルコミックス」の刊行が休止したのち、光文社が邦訳アメコミの発表の場として用意したのが、1980年4月創刊の漫画雑誌「ポップコーン」(隔月刊)だったのだ。

 誌面は「漫画」「アメコミ」「同社がかつて刊行していた漫画誌「少年」と「少女」からの旧作復刻」「ヤング向け情報ページ」の四本柱で構成されており、右開きで読むと『ななこSOS』(吾妻ひでお)、『青春ブルース』(たむろ未知)、『That's Amazing World』(大友克洋)といった漫画が、裏返して左開きで読むと『アイアンマン』や『スパイダーマン』、『アベンジャーズ』といったマーベルコミックスのアメコミが掲載されているという、なんとも統一感のない漫画誌であった。

 そんな「ポップコーン」の創刊号から連載されたのが『キャスター』である。キャスター、ディレクター、アシスタントのテレビマン・トリオが、腐乱死体となった教諭が教え子の待つ学校へ帰る、ゴミ処理問題の解決策として一般民家がゴミ置き場になるなどの奇々怪々なニュースの現場を淡々と報道する、という作品だ。

 全6話中4話のシナリオ(回によって原案、協力ともクレジット)をWAHAHA本舗主宰の演出家・喰始(たべはじめ)が担当していることも大きなトピックだろう。
 喰は赤塚と親交が深く、『レッツラゴン』を「赤塚不二夫の代表傑作」「ギャグの宝庫」(『レッツラゴン宣言』、山手書房、1981年)と高く評価しており、1988年には有名・無名の赤塚キャラが大挙して登場するゲームブック『赤塚不二夫劇場』を書き下ろしている。 

 主人公のキャスターは、「恐縮です」の決まり文句で人気を博した芸能記者の梨元勝そっくりに描かれており、彼がモデルであることは一目瞭然だ。
 赤塚は「ポップコーン」創刊号の「80年代のヒーロー」という企画ページへ、本作の描き下ろしカラーイラストと共に、こんなコメントを寄せている。「週刊誌のトップ屋の取材現場をそのままブラウン管から伝えてしまう―この手法こそ、テレビがすっかり忘れていた“ナマ”の魅力なのである。」
 キャスターは現場に駆け付けては首を突っ込み、ディレクターとアシスタントは職務を放棄し所構わずまぐわい始めてしまう。この残酷で無責任極まりないキャラクターは、赤塚も熱狂したワイドショーのカリカチュア以外の何ものでもないのだ。

 そんなキャスター・ギャグが、早くも第2話(1980年6月号)で問題を起こす。この回はキャスター一行が“人肉専門レストラン「ふともも」”を報道するという内容で、死体を切り刻み料理とするスプラッター描写、「胎児ピザ」や「心臓の踊り食い」といったカニバリズム描写が問題視され、雑誌が回収となってしまったのだ。この事から、後年『封印漫画大全』(著/坂茂樹、三才ブックス、2009年)などに珍作・怪作として取り上げられてしまう。近年は「漫画の都市伝説」「検索してはいけない言葉」として紹介されるケースも見受けられる。

 事の経緯を説明する「お知らせ」が掲載翌号となる1980年8月号へ掲載されている。以下はその全文だ。
 「「ポップコーン」のご愛読、まことにありがとうございます。5月10日発売の小誌6月号をお買い求めできなかった方へお知らせいたします。実は同号掲載のギャグ漫画「キャスター」の内容の一部に、誤解をまねくおそれがあると思われる表現があったため、会社として自主的に販売を打ちきり、発売中のものは回収いたしました。もちろん編集部では、このギャグ漫画は問題意識をふまえた充分に意味のある作品であると確信しておりますが受け手側である読者の判断は千差万別であるという実態を考慮し、万全を期すためにあえて今回の措置にふみきった次第です。
 赤塚不二夫先生をはじめ作家の先生方と読者のみなさまには多大のご迷惑をおかけしましたが、小社の意あるところをお汲みとりいただき、ご了承くださいますようお願い申し上げます。なお同号に掲載の連載漫画に限り今月号に再掲載させていただきました。    株式会社光文社/ポップコーン編集部」

 赤塚は第3話(1980年8月号)の扉ページで、この回収騒ぎに暗に触れている。ここではレギュラー・トリオが登場し、以下の台詞を発している。

 キャスター「噂の真相ではなく 真実のみをお届けするキャスターです!」
 ディレクター「やいやい だれか梨元におれたちのこといいつけたろっ」
 アシスタント「ディレクター 視聴者は神様ですよ」

 キャスターの「噂の真相」とは、当時刊行されていた同名ゴシップ誌のことだろう。この件を取り上げていたのだろうか。ディレクターの台詞から推察するに、この漫画の存在や回収騒ぎを梨元が何らかのメディアで取り上げたのかもしれない。

 ここで注目したいのは、ディレクターが月刊漫画誌「ガロ」の1980年7月号を丸めて持っていることだ。この号を取り寄せてみると、梶井純の連載『マンガの目』にて、「「人肉料理」の味」という題でこの件が取り上げられている。一部を転記する。

 「赤塚の「キャスター」には、作品の出来不出来よりさきにべつの問題がすけてみえる。
最近の赤塚不二夫については、ひところの「活躍」ぶりがまったく見られないまま、固有名詞としての「赤塚不二夫」だけが人びとの記憶のなかにのこっている、というのが実感だろう。ありていにいえば、「かつてのギャグマンガの第一人者」という称号がふさわしい。赤塚といえば、生気にとぼしい、ふとった中年のおっさんのすがたしか思いうかべることができないのが、おおかたのわかい読者の公約数的なところだろうか。
 これでもか、これでもかという感じにギャグをつくりつづけてきた赤塚としては、こんな感じで生気をうしなうしかないとすれば、そうとうにみじめなものにちがいない。赤塚不二夫がおかれているたちば―過去の「栄光」と現実の力量とのギャップがなにを生みだすか。いわば、その答案が「キャスター」に感じられる。
(略)
 これはいってみれば「こけおどし」の極であって、かなり低級な発想である。れいの、これでもか、これでもか式に展開させていく末にのこされた道でもある。赤塚自身も、そのことにいくぶんか気づいているらしい。そのことを意識した一種のふてくされや、てらいとみえるものが、この作品をいっそうやりきれないものにしている。「アフガニスタンからの上物」という一句に突出している、人間的なものにたいする鈍感さも、現在の赤塚のおちいっている闇のふかさをよくあらわしている。」

 第2話の問題点は「スプラッター描写」「カニバリズム描写」とされてきたが、梶井はそこにプラスして、人種問題が含まれていたことを指摘する。梶井は気に留めていないようだが、喰始のシナリオをなぞる必要があった点も頭に置いておく必要があるだろう。また、当時のコアな漫画ウォッチャーによる赤塚の人物評は手厳しくも、純粋な読者にとっては不満が残るものであったことには同意せざるを得ない。

 2016年には、本作をアシストしたしいやみつのりが、ブログに本作と回収騒ぎについて、描き下ろしの漫画を交えた記事を書いている。しいやは過激な描写に難色を示すも、赤塚は「タブーは破るためにあるのだ。責任はわしがとるのだ。」と断行したという。

 読者に痛みを感じさせないからっとした残酷描写は赤塚漫画の強みである。そこ喰が背景を付け加えてしまったことにより、残酷さが際立ってしまった。この騒ぎは、赤塚漫画と喰のシナリオの喰べ合わせが悪く、消化不良を起こしたことによるトラブルだったと言えよう。(フジオ・プロのメンバーだった古谷三敏の『ダメおやじ』は赤塚の逆、じっとりとした残酷描写を持ち味としていたことと対比させると面白い。)

 この後、『キャスター』は1980年10月号の背表紙イラストを飾るが、「ポップコーン」は6号で廃刊してしまい、現在に至るまで本作は一度たりとも単行本化されていない。また、赤塚は後続誌「ジャストコミック」で『ピヨ13世』や『四谷「H」』を連載しており、光文社と赤塚の関係が悪化するなどのは無かったようである。

 余談だが、本作に時事漫画の要素を追加してリベンジした『週刊スペシャル小僧!』(週刊少年チャンピオン1983年44号~1984年53号 単行本化の際『赤塚不二夫の巨人軍笑撃レポート』と改題)という作品がある。こちらの主人公〝ナシトモくん〟も、モデルは梨元勝なのだった。

・単行本
なし
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