赤塚不二夫保存会/フジオNo.1

これまでのアニメ『天才バカボン』は毒消し版か?~当時の新聞記事から読み解く~

 さて、『深夜!天才バカボン』が放送中である。先日の記事(https://yaplog.jp/220-number1/archive/144)にも書いたように、同作のスタッフの共通意識として、「これまでのファミリー向けの内容、時間帯で放送されているアニメでは『天才バカボン』の過激さや尖がった部分を出すことが出来なかった。深夜枠でやる意義はそこにある。」というものがあるようだ。

 この発言の本意を探っていくと、1971年に放送された『天才バカボン』(アニメ第1作)における設定変更を否定しているということになるだろう。スポンサーである大塚製薬からの意向が反映される形で以下の変更点が生じた。赤塚も随分とガッカリしたようだが、パパの決め台詞が設定されたこと、アニメソングのオールタイムヒットとなった主題歌、様々な放送局の幾度とない再放送で作品が広まったことで、新作シリーズが制作されたことなどの功績は見逃せない。このことは好意的にも悪意的にも語り草となっている。

・パパが無職(=バガボンドつまり放浪者)から植木屋に変更。
・作品の持ち味であるナンセンスではなく、ホームドラマ路線を推し進めた。
・労働者となったパパに対して、バカボンは義務教育を果たす。ランドセルを背負って学校に通うシーンが多用される。
・よって、凡田先生、さくらちゃん(『キカンポ元ちゃん』のキャラクターを流用)、中村くんなどのキャラクターが追加される。
・実際にはあり得ない為、本官さんの目ン玉がつながっておらず、鼻の穴もつながっていない。

 過日、1971年7月20日の読売新聞に『ギャグ・マンガ「天才バカボン」がTV動画に ブラックユーモアどう処理?』という記事を見つけた。ここから、当時のスタッフの制作への意気、ガンバリ度を感じ取ってもらいたい。以下に全文転載する。



『ギャグ・マンガ「天才バカボン」がTV動画に ブラックユーモアどう処理?』(読売新聞1971年7月20日)

 五年間、少年マンガ誌に連載され、人気がありながら、テレビ動画化がむずかしいということで取り残されていた赤塚不二夫原作「天才バカボン」が今秋、ブラウン管に登場する。九月二十五日(午後7・00)から日本テレビ系でスタートするが、関係者は難点とされていたこの作品の持つ独特の風刺をどう処理していくのだろうか。

 まずテレビ動画化が遅れていた原因について、担当のよみうりテレビ・佐野寿七プロデューサーは、
 「最近のテレビ動画の主流は、“巨人の星” “タイガー・マスク”に代表されるような劇画で占められ、ギャグマンガがないがしろにされていたことが原因のひとつです。しかしギャグマンガにはそれなりの味がある。その良さをもう一回、完成された線と音で再発見してみたいと企画したのです」と語る。

 主人公はバカボンと呼ばれ、みんなにバカにされている少年である。その父親には、さらに輪をかけたところがあり、破天荒の言動でみんなに害をあたえ、バカにされる。その母親は美しく賢く、バカボンの弟は生後数か月で高等数学を解く天才だ。この作品はのこアンバランスの四人が巻き起こす痛快な行動を迫っている。

 たとえばここに「死にたい」と口走った男がいたとする。そうするとバカボンの父親はその男が死ぬためにあらゆる努力をする。町の秩序などはメチャメチャになる。

 「問題は底に流れている独特のブラック・ユーモアをどう処理するかです。赤塚さんのマンガは破壊的なギャグにあふれています。しかし、そのギャグをそのままストレートに動画化しても、説得力がないのです。主人公の巻き起こす奇想天外な事件を喜劇としてもう1回、整理して仕立て直さなければならない。主人公の言動はとっぴであっても自分たちの行動は首尾一貫しているのだという設定を徹底させて、事件がエスカレートすればするほど巻き込まれた周囲の愚直さを強調させる手法です」(佐野プロデューサー)

 たとえばすでに完成しているパイロット版(試写用作品)の場合はバカボンと父親がスキー場へ出かける話だが、混雑したスキー場でのさまざまな事件は裏を返せばそのまま都会の過密さ、レジャー・ブームの盲目、人心の荒廃と、社会、人間への風刺となっている。ブラック・ユーモアを風刺喜劇に仕立て直しているわけだ。

 「ただそのおかしさをこどもたちにどう理解されるかが、一まつの不安でもあったわけですが、先日の試写会では彼らなりの受け取り方をしてくれたのでホッとしました」と佐野プロデューサーは語っている。製作は「巨人の星」と同じく東京ムービーのスタッフ、撮影はすでに第一話から第四話までが始まっている。



【新聞記事・補足】

・佐野寿七氏に関しては、以下のページを参照のこと。
http://www.tvdrama-db.com/name/p/key-%E4%BD%90%E9%87%8E%E3%80%80%E5%AF%BF%E4%B8%83
http://www.ytv.co.jp/anime/suwa_wp/?p=2316

・ギャグマンガがないがしろに
こんなエピソードもある。これ以前の1968年頃に日本放送映画(後の日本テレビ動画)が製作した『天才バカボン』のパイロットフィルムがあった。制作が中止となった後、予定されていた枠で放送されたのは、梶原一騎原作、荘司としお作画のスポ根劇画『夕やけ番長』だった。

・たとえばここに「死にたい」と口走った男がいたとする。
「バカは死んでもなおらない」(「週刊少年マガジン」1969年9号)を指している。単行本では講談社KC版6巻、曙コミックス版9巻、竹書房文庫版6巻に収録。

・完成しているパイロット版
DVD-BOXの特典映像としてソフト化されている。内容は雨森雅司ナレーションで原作の作風とキャラクターを紹介する映像が流れた後、「アッホーヤッホー スキーなのだ」(原作は「アッホヤッホ スキーはたのし」(「週刊少年マガジン」1968年9号)。単行本では講談社コミックス3巻、曙コミックス5巻、竹書房文庫3巻に収録。)が始まるというもの。これを編集したものが16話Bパート「スキーがなくてもヤッホーなのだ」として再利用・放送された。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「論考」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事