6月の終わりころ、天気の良い日を選んで、一郎は新座市へ出かけた。新座市は埼玉県の最南部に位置する人口15万人程の小都市で、東京のベッドタウンという以外に特に特徴のない町だ。武蔵野の雑木林が残る町というか、今でも、雑木林や畑が住宅や工場や倉庫の間に点在する町といえばいいのだろう。
東京都に隣接するが、交通の便は悪い。西武線にも東上線にも接していないので、バスを使うしかない。西武池袋線の清瀬駅から、あるいは東上線の志木駅からバスに乗ることになる。本数は多い。いろいろなルートがあるが、志木街道のけやき並木を通るルートが一番本数が多い。5キロメートル以上の長い並木で、両サイドから、けやきの大木が空を覆っているので、暑い盛りでも、ひんやりと涼しく
バスに乗っていても気持ちが良い。
バス路線のほぼ中間に、市役所がある。そばには平林寺という、武蔵野の雑木林を保存したお寺もある。結構有名だが、子供や俗人には物足りないお寺だ。市役所があっても、特別繁華街らしきものは見当たらない。
市役所の3ツ手前のバス停で降り、少し歩くと、目指す中里建設の看板が見えて来た。建物はプレハブ2階建てで、周囲に建設機材などが雑然と置いてある。廃材なども山になっており、うらぶれた土建屋さんといった風情だ。プレハブの1階の半分が事務所になっていたので、ドアを開けた。
「こちらに大川誠一さんという方居られませんか。私は友人ですが。」
奥の机で何か事務作業をしていた、初老の男が立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「青森の大川さんですか。その人だったら、もうここにはいませんよ。1年くらい前に辞めて、出て行きました。」
「行き先に何か心当たりはございませんか。」
「うーん、うちでは分からないけど、バス停近くのスナックで聞けば何か分かるかも知れないね。そこの女とずいぶん仲が良かったという噂だったから。店の名前は白ゆりだったかな。」
中里建設を後にして、白バラに向かう途中で、一郎の携帯にカオリからメールが入った。内容は、いろいろ考えた結果、レンタカー会社は退職して、東京に行きたいので、賛成して欲しいということだった。返事は後ですることにして、とにかくスナックに入って行った。まだ3時過ぎだったので、誰もいないかと心配だったが、中年の女性が洗い物をしていた。
「突然で恐縮ですが、人探しをしていますので、ご協力いただけないでしょうか。」
一郎の話を聞いた、スナックの女性は、言うか言うまいか、少し迷った表情をみせながらも、訥々と話し始めた。
「ここに働いていたトシエさんという女性と仲良くなって、1年くらい前に二人してどこかへ行ってしまったんですよ。大川さんもいい人だったので、どこかで幸せになっていてくれればいいなと思っているんですけど。行き先は見当が付かないけど、トシエさんの実家の住所だったら分かるわよ。」
女性から渡されたチラシの裏には、豊島区巣鴨4丁目3-4とメモされていた。メモを見ながら、一郎は自宅の駒込に近いことに妙な気持ちになった。
「写真でもあったら1枚頂けませんか。」
「いいわよ、スナップ写真なら何枚も撮ってあるから。」
帰りのバスを待つ間に、一郎はカオリにメールの返信をした。スナックの女と行方知れずになったことは触れずに、誠一の行方は依然として不明であると伝えた。そして、東京に来ることについては、賛成だし、自分の責任でもあるので、全面的に協力すると伝えた。一緒に住もうと伝えた。
東京都に隣接するが、交通の便は悪い。西武線にも東上線にも接していないので、バスを使うしかない。西武池袋線の清瀬駅から、あるいは東上線の志木駅からバスに乗ることになる。本数は多い。いろいろなルートがあるが、志木街道のけやき並木を通るルートが一番本数が多い。5キロメートル以上の長い並木で、両サイドから、けやきの大木が空を覆っているので、暑い盛りでも、ひんやりと涼しく
バスに乗っていても気持ちが良い。
バス路線のほぼ中間に、市役所がある。そばには平林寺という、武蔵野の雑木林を保存したお寺もある。結構有名だが、子供や俗人には物足りないお寺だ。市役所があっても、特別繁華街らしきものは見当たらない。
市役所の3ツ手前のバス停で降り、少し歩くと、目指す中里建設の看板が見えて来た。建物はプレハブ2階建てで、周囲に建設機材などが雑然と置いてある。廃材なども山になっており、うらぶれた土建屋さんといった風情だ。プレハブの1階の半分が事務所になっていたので、ドアを開けた。
「こちらに大川誠一さんという方居られませんか。私は友人ですが。」
奥の机で何か事務作業をしていた、初老の男が立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「青森の大川さんですか。その人だったら、もうここにはいませんよ。1年くらい前に辞めて、出て行きました。」
「行き先に何か心当たりはございませんか。」
「うーん、うちでは分からないけど、バス停近くのスナックで聞けば何か分かるかも知れないね。そこの女とずいぶん仲が良かったという噂だったから。店の名前は白ゆりだったかな。」
中里建設を後にして、白バラに向かう途中で、一郎の携帯にカオリからメールが入った。内容は、いろいろ考えた結果、レンタカー会社は退職して、東京に行きたいので、賛成して欲しいということだった。返事は後ですることにして、とにかくスナックに入って行った。まだ3時過ぎだったので、誰もいないかと心配だったが、中年の女性が洗い物をしていた。
「突然で恐縮ですが、人探しをしていますので、ご協力いただけないでしょうか。」
一郎の話を聞いた、スナックの女性は、言うか言うまいか、少し迷った表情をみせながらも、訥々と話し始めた。
「ここに働いていたトシエさんという女性と仲良くなって、1年くらい前に二人してどこかへ行ってしまったんですよ。大川さんもいい人だったので、どこかで幸せになっていてくれればいいなと思っているんですけど。行き先は見当が付かないけど、トシエさんの実家の住所だったら分かるわよ。」
女性から渡されたチラシの裏には、豊島区巣鴨4丁目3-4とメモされていた。メモを見ながら、一郎は自宅の駒込に近いことに妙な気持ちになった。
「写真でもあったら1枚頂けませんか。」
「いいわよ、スナップ写真なら何枚も撮ってあるから。」
帰りのバスを待つ間に、一郎はカオリにメールの返信をした。スナックの女と行方知れずになったことは触れずに、誠一の行方は依然として不明であると伝えた。そして、東京に来ることについては、賛成だし、自分の責任でもあるので、全面的に協力すると伝えた。一緒に住もうと伝えた。