前回、カメラやRAW現像ソフトが使うガンマカーブはs-RGB準拠などとは言うものの、
規格からは大幅にズレていて、無理矢理に両対数グラフ上で規格線を平行移動させても
規格に沿っていそうなのは18%反射率付近のごく一部だけであることを示した。
今回はこの規格からのズレの意味合いを探ってみたい。
s-RGBのガンマカーブの規格を再掲する。
0~1の値範囲に規格化したリニアなRGB値:Xを、
0~1の値範囲の非線形なスケールのRGB値(s-RGB規格の値):Yに変換するには、
Xを0.0031308との大小で分け・・・・
X ≦ 0.0031308 では Y = 12.92 x X
X > 0.0031308 では Y = 1.055 x X1/2.4 - 0.055
(近似的にはAdobeRGBと同じ Y = X1/2.2 )
従って、RAWのデータ値を0~1範囲にスケーリングしてから上記の変換式にかけ、
その結果を255倍して0~255の範囲にスケーリングしなおすことで8bitRGB階調を
得るのが規格の手順となる。
というのがs-RGBのガンマ変換の規格だ。
以前、この規格を紹介した時には同時に、この規格に沿って18%(16383の18%)を
変換すると、よく言われる階調値118にはならないことも紹介した。
実は、この18%の変換ズレは「変換の関数自体が大幅に違う」のではなく、
カメラやRAW現像ソフトは「16383(14bitRAWの場合)を100%とは見なしていない」
のが原因である。
以下、PhotoShop付属のCameraRAWを例に説明を続ける。
ガンマ変換された階調値からさかのぼるように調べると、CameraRAWでは
RAWデータ値1192位を18%標準反射率に相当する値としていることがわかる。
1192が18%ならば、比例計算をすれば100%は16383ではなく6622とわかる。
そこで、RAW値0~6622を0~1範囲に規格化して上記の変換式で8bit階調に変換し、
これをEV対8bit階調のカタチでグラフ化する。(s-RGB REV.のカーブ)
比較のため、NXDのNeutral現像と、CameraRAWのAdobeStandard現像のカーブも
並べてみた。
比べると、18%(EV0)付近ではNXD NeutralもCameraRAWも、
100%レベルをずっと低いRAWデータ値に見直したs-RGB Rev.のカーブに沿うが、
EV0付近を離れるとやはりズレてしまう。(CameraRAWはEV-4.5以下で近付くが・・・)
モチロンどうやっても規格に一致する見込みのないことは前回の両対数グラフで
明らかではあるのだが・・・
100%レベルだけでなく、0%レベルもシフトさせてみる。
上グラフの紫のライン(s-RGB EV-3)はEV-3相当値を0%レベルとし、
先と同じくRAW値1192が18%レベルになるようにして(RAW値5939が100%になる)
s-RGB変換したものであるが、NXD NeutralもCameraRAWもEV-2~0では
先のs-RGB Rev.のカーブよりも、むしろこちらの方に沿っている。
特にCameraRAWではEV-2~+1.5の範囲でs-RGB EV-3にフィットしている。
(NXD NeutralはEV0~1の範囲ではs-RGB REV.に沿うようにスイッチしている)
以上から、カメラやRAW現像ソフトのガンマカーブはRAWデータの階調全域ではなく
その一部をs-RGB変換関数の定義域(0~1の範囲)としたs-RGB変換を意識しつつも
それに従うのは中間輝度域の一部だけで、その前後では緩やかに0あるいは255に
飽和して行くように作られていることがわかる。
このようになっているのは、s-RGB EV-3のままでは階調範囲はEV-3~+2.3だけで
白トビ・黒ツブレが容易に起きてしまいRAW現像調整・レタッチを制約するため、
s-RGB等の規格からは大きくズレるもののハイライトとシャドウ域のデータを保持するべく
階調を広げたからだろう。
また、かつての銀塩写真のプリントの濃度変化の特性もこんなカンジだったから、
それに合わせたかったという意識もあるだろう。
カメラ雑誌なんかの新製品テストレポートなんかだと、白トビ・黒ツブレしないことを
兎も角は良しとしていることから、「白トビ・黒ツブレ無し」の要望はすこぶる高く、
その要望に対して現在のカメラやRAW現像ソフトのガンマカーブは適切な結果を
出していると言えるだろう。
ただ・・・ワタシにはごく小さな疑問が残ったので、最後にそれを記して回を閉じたい。
疑問とは「それって、Hi-Fiなの?」ってことである。
ハイファイ:高忠実性というコトバをあまり聞かなくなって久しい。
多分、平成生まれの者には通じない単語なのではないだろうか?
PCの画像表示はガンマ変換されたRGB画像データをモニタに於いて逆ガンマ変換した
明るさで画素を点灯することで、撮像素子が捉えたリニアな画像を再現・表示している。
だから、特定のパターン画像をモニタ表示させて、それを測色し、s-RGB等の規格に
較正することで表示系はHi-Fiにチューニングされたと信じている。
しかし、いくら逆ガンマ変換をHi-Fiにチューニングしたとしても、その前のガンマ変換が
s-RGB等の規格からズレていては、撮像から表示に至る系全体としてはHi-Fiとは
言えないのではあるまいか?
オーディオ機器で例えれば、Hi-FiなCDプレーヤとHi-Fiなスピーカの間に、ひずみのある
アンプが入っているようにワタシは感じるのである。
・・・で、もっとs-RGBっぽくガンマ変換をチューニングしてみよう・・・と
CameraRAWのAdobeStandard設定をベースにポイントカーブでチューニングすると
各ポイント値は以下の値で
こんなカンジになります。
なお、上記ポイント値はCAMERA RAW のPROCESS 2012における
AdobeStandard設定がベースです。
PROCESS 2010では異なる結果になります。
点のみで示したのは、前掲したグラフと同じ計算結果による目標値で、
曲線で結んでいるのが上表でポイントカーブを与えてグレイスケールを現像した結果を
読み取った実変換値です。
s-RGB EV-3のチューニングではレタッチ対応等を考慮して、ハイライトとシャドウの
飽和を粘らせていますが、この領域は見た目にはほぼ白あるいは黒にサチッて見える
領域なので、あくまでも追加レタッチ処理用です。
(見た目には、白トビ・黒ツブレしやすく見えることに変わりはありません)
s-RGB Rev.のチューニングでは、ハイライトにこのような部分は設けていません。
やってみたい人はIN=233の部分をIN=255にすれば良いでしょう。
(しかし、s-RGB Rev.ではシャドウのしまりがなく、ネムたいカンジの絵になります)
なお、上表のポイント値はあくまでもCameraRAWのAdobeStandard設定をベースに
したチューニングですので、他の現像ソフト使用ではベースのガンマカーブが異なるので
異なる結果になります。
Hi-Fiになったかどうかは評価判断する手法を思いつかないのでコメントしません。
作例画像も特に掲載する気はありません。
必要な情報は掲載しましたので、興味を持った方はご自身で試して判断してください。
ワタシ個人はs-RGB Rev.のチューニングはメリハリが無く、色も濁った感じがするので
使えないと思いますが、s-RGB EV-3のチューニングは悪くないと思っています。