「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

君だけが,僕のプリンス!(クリスマスのかけら(1))

2010年06月18日 | 過去の物語
それは、御幸記者が、まだ、就職して、2年目の頃のお話。

11月の終わりの頃のお話です。

彼には、瀬良という、大学時代からつきあってきた、彼女がいました。

彼女は、御幸記者から、2歳年下で、同じテニスサークルの知り合いでした。

大学時代は、一緒にテニスをしたり、彼女からすれば、御幸記者は、千秋先輩のような、カッコいい、尊敬できる先輩でした。

だから、デートも楽しかったし、とにかく、その顔を見ることができれば、いつもしあわせだったのです。

しかし、就職してから、御幸記者が、あまりに忙しくて、なかなか、デートをすることができなくなりました。

だから、瀬良は、不安な日々を送っているのでした。


そんなある日の深夜、彼女から、御幸記者に電話がかかってきました。

「ねえ。御幸さん。御幸さんは、わたしのこと、考えてくれてる?」

と、瀬良さんは、少し寂しそうに話します。

「え?そりゃ、当然考えているよ。一番に」

と、若い御幸記者は、ぶっきらぼうに、話します。

「そう。それなら、いいけれど・・・」

と、瀬良さんは、話し、電話は切れてしまいます。

「なんだ、あいつ?こんな深夜に急に電話なんかして・・・。このところ、睡眠時間あんまりとれてないのに・・・ったく、寝よう」

と、御幸記者は、機嫌を悪くして寝てしまいます。


瀬良さんは、切った電話を見つめています。

見つめながら、自分の中にある不安な気持ちを覗いているのです。

「御幸さん、昔は、あんな風にじゃけんに言うひとでは、なかったのに・・・」

と、瀬良さんは、少し悲しいのでした。

「私のことが大事だって、言ってくれたけど、ただ、言っただけ、今は仕事が一番って、感じだったし・・・」

と、瀬良さんは、考えています。

「あの、千秋先輩のように、カッコよくてやさしい御幸さんは、どこへ行ってしまったの・・・」

と、瀬良さんは、悲しくなり、涙を流して泣いてしまうのでした。


目を赤くして、瀬良さんは、朝を迎えています。

彼女は、昨日、散々考えたことを、やってみよう、と、電話器に近づくと、ボタンを押します。


ルルルル・・と、御幸記者の電話器が鳴ります。

「ん?なんだ、こんな時間に・・・。まだ、7時前じゃないか・・・」

と、睡眠不足気味の御幸記者は、機嫌悪く起きます。

「はい、もしもし・・・」

と、電話に出ると、相手は瀬良さんです。

「おはよう。ごめんね、起こしちゃった?」

と、少し自信のなさそうな、瀬良さんの声です。

「当たり前だろ。何時だと思っているんだよ。昨日だって、深夜に叩き起しておいて、なんだよ、いやがらせかよ」

と、御幸記者は、日頃の睡眠不足と仕事からのストレスで、つい、そう口走ってしまいます。

「ごめん。切る・・・」

と、御幸記者の怒った声を聞いた瀬良さんは、自信を無くして、電話を切ってしまいます。

「ったく、あいつ、なんなんだ!」

と、御幸記者は、一発、悪態をつくと、ベットに潜り込んでしまいました。


瀬良さんは、長い間、電話を見つめていました。

涙が、自然にあふれてきます。

信じていたものが、変わっていく、不安に耐えられなくなったのです。

彼女は、いつの間にか、少女のように、泣きじゃくっていました。

「あれは、私の、御幸さんじゃない。御幸さんなんかじゃないわ」

彼女は、いつまでも、いつまでも、泣きじゃくっていたのでした。


「おい。御幸、ひさしぶりだな」

と、大学時代の友人の三田が、御幸記者に話しかけます。

ここは、廣貫堂という銀座にあるビアガーデンです。

数日前、この三田から、御幸記者に電話が入り、

「久しぶりに飲もう。ちょっと話がある」

ということで、仕事をなんとかして、8時に、この場所で、おち会ったのでした。

「しかし、三田とお酒を飲むのも、1年半ぶりか」

と、御幸記者は、なつかしそうに話しています。

「そうだな。卒業コンパ以来だもんな」

と、笑う三田です。


「おまえ、最近、瀬良ちゃんに冷たいらしいじゃないか」

と、三田がしれっと話します。

「由美子に、泣きながら電話してきたみたいだぞ。瀬良ちゃん」

と、三田は、自分の彼女、由美子さんから、聞いた話をしています。

「え?俺、別にそんな」

と、御幸記者が、言いますが、どうも女性経験では、上の三田さんが、アドバイスをします。

「女ってのは、いつも彼氏が、自分を見守ってくれていないと、不安になるんだよ」

と、女性心理を知り抜いている三田さんです。

「そういうもんか?」

と、三田さんに一目置いている御幸記者は、素直にその言葉を聞きます。

「ああ。だから、手遅れにならないうちに、なんとかしてやれ。お前は瀬良ちゃんにとって、王子様なんだからな。王子様は、王子様らしく、ふるまえよ」

と、三田さんは、言うと、

「ま、それだけだ。それを言いに、俺はわざわざ、来たんだ」

と、三田さんは言うと、

「アドバイス料は、ここの代金で、充分だ。じゃ、いいクリスマスを、な」

と、言って、店をあとにします。

御幸記者は、何も言わず、ビールを飲みながら、考え込んでいます。

銀座の夜が、静かに更けていきました。


今日は、誰もが心踊らすクリスマスイブ。

一週間前に、一通のハガキが瀬良さんの元に届けられました。

「プリンセスに、プリンスから、こころを込めた招待状」

と、書かれた招待状は、指定された時刻に、指定されたフレンチレストランに、正装で来てくれ、というものでした。

そのハガキはデザインも華麗で、本当に、王子様から、王女様に、あてられた、招待状のように思えました。

瀬良さんはそれだけで、こころが蕩けそうになりました。

「忙しい、御幸さんが、わたしのために・・・」

瀬良さんはそれを思うだけで、うれしかったのです。


もちろん、当日は精一杯、正装をして、タクシーで、銀座まで、でかけます。

白のドレスに、以前、御幸さんに買ってもらったジュエリーも、胸元と耳に。

その姿は、まるで、シンデレラです。

瀬良さんは、この一夜のシンデレラ・ストーリーをお姫様として、体験したかったのです。


銀座にある、「j'adore le Japon」は、銀座の老舗フレンチとして、風格も気品も一級のお店です。

そこにタクシーを横付けすると、タクシーのドアを開けてくれる、すらりとした気品のあるスーツ姿の男性がひとり。

そう。瀬良さんの王子様、御幸さんが、そこで、ずっと待っていてくれたのです。

その姿は、まるで、王子様姿の千秋先輩!

「御幸さん!」

瀬良さんは、そう叫びながら、広げられた手の中に、飛び込んでいました。


クリスマスイブは、こころに魔法をかけてくれる、神様の贈り物の日なのです。



三田さんは、遠くからその情景を、由美子さんと眺めていました。三田さんは、

「サンタは、いろいろ、苦労するもんだ」

と、つぶやくと、にこりとしながら、二人でどこかへ、消えていきました。


空には、白い雪が、舞い始めていました。


(終わり)

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