コトバのニワ

出会った音やコトバのことなど

国立国楽院 茶談

2010-06-13 | 日記

 気がついたら梅雨だ。
 早くソウル旅行の話を終わらせよう(しつこい)。
 
 ソウル2日目の朝、COEXで「ザ・メビウス」の8時の回を観てから、同じ江南にある国立国楽院(HP)のトークコンサート「茶談(タダム)」へ行った。
 月に一度、最終火曜日(3月~11月、除く7・8月)に開かれ、茶菓の接待付きで10,000ウォン、午前11時からとまるでメビウスの後に寄ってね、と言わんばかりの時間帯。
  
 前日に電話予約したら、開演30分前までに来ないと当日券の人に切符を譲ると言われたので、芸術の殿堂(この広大な敷地内に国立国楽院もある)までの思いがけず長い坂道を、端草(ソチョ)駅からぜいぜいしながら登る。楽器店の点在する大通りの広さも、道の勾配も、地図からは想像できなかった。見上げると坂道の頂点にデンと構えるオペラハウスは、なんか威圧的だなあ。

 いったん芸術の殿堂の中に入ってから、広場を突っ切り、またまた上り坂の上にある国立国楽院までダッシュ(は体力ないのでしてなかったと思う)。

           

 上の写真正面の階段を昇りきって、国立国楽院の広場をコの字形に囲む3つの建物のうち、今日の会場はこちら、牛眠堂(ウミョンダン)。
           

 開演30分前は過ぎていたけれど、切符はあった。後で司会者が、3月と4月は満席だったけど、今月は空席がちらほら、どうしたんでしょうね、と言う。
 ロビーでは、お茶の接待をしている。息せき切って登ってきたので、3種類のお茶(サンザシ茶、菊花茶、シッケ)と大ぶりのギョウザのような形のヨモギ餅と羊羹を食べ、いざ写真を撮ろうとしたら、あっという間に次々手が伸びて、お菓子の大皿は空になってしまった。おばさんパワー(雰囲気は上品な奥様方のようだったけど)はどこも同じ。
 写真を撮る前に食べているようでは、永遠に写真家にはなれまい。
 
 仕方がないので、ロビーに展示されていた編磬(日本語でヘンケイ、韓国語でピョンギョン)の写真を。古代中国から朝鮮半島に伝わった宮廷音楽用の旋律楽器で、厚みの違うへの字形の石板(磬)を16個つるして並べたもので、叩くと澄んだ音がするそうだ。

            

 どんな音がするのか聴いてみたいな、と思ったら動画があった。



  さて、いよいよ司会のユ・ヨルが登場。
 「冬のソナタ」の中盤、スキー場のコンサートの司会で同僚サンヒョクとユジンの結婚を発表し、ミニョンを絶望に陥れた、あの人です。
 ドラマでは小柄に見えたけど、ちゃんと大きな人だった。冬ソナの時は、共演者がみんな背が高かったからな。まだあんまり目がよく覚めてないみたいで、メモを見ながら話す。
 プログラムは次の4部構成:

1. 伽耶琴(カヤグム)の弾き語り、杖鼓(チャンゴ)伴奏
2. 韓国の伝統酒について対談
3. 古武術テッキョン택견の実演とお話
4. フュージョン国楽アカペラ五重唱

 カヤグムの歌は意外なほどあっさりと終わり、次の対談は、麹醇堂(クッスンダン)という、伝統酒の復興をはかるマッコリ会社の社長さん。
 日本統治下の酒税令で、免許を受けた者以外の酒造が違法行為として罰せられるようになり、家々に伝わる「家醸酒(カヤンジュ)」の伝統が途絶え、600種類以上の伝統酒が失われてしまった、という話に、申し訳ない気持ちになる。 

 もっとも家に帰って調べてみると、伝統酒が姿を消した背景には、解放後もこの酒税令を引き継いだ韓国政府の政策や、食糧事情から1980年代まで米を原料にする酒造りが禁じられていたことなども関係しているようだ。
 幸いなことに、社長さんの口調に悲しみはあっても、憎しみはなかった(と思う)ので、「韓国伝統酒のグローバル化の夢」を実現してほしい。

 3番目の古武術テッキョンは、すごく面白かった。
 日本の武術が攻撃的、中国武術の動作が華麗、とすると、韓国のテッキョン(正確な歴史は不明。テコンドーの原型であることは確かのよう)は、動作に入る前の「三拍子ステップ」が特徴だそうだ。この動画でよくわかります。



 前に書いたコットゥ博物館の人形の表情や、タルチュムの仮面もそうだけど、韓国の民衆文化にはどこかユーモラスなところがあって、この三拍子の動作もおかしい。 
 「全ての動作に必ず『のらりくらりする緩衝動作』が隠されている」と書いているこの記事が、当日の説明に近いかな。

 客席ではこの三角ステップは踏めないので、かわりに丹田に力をこめる呼吸法とテッキョン独特の気合のかけ方を習い、チャンゴに合わせて観客全員で「イック~ イック~」と豆まきのような動作で、ストレスを振りまく。
 とても楽しい先生で、ぜひ、うちのそばにも道場を開いてもらいたい。

 最後は、民謡やパンソリを西洋音楽式のアカペラ五重唱で歌う、トリス(토리's)というグループ(一番上の写真の5人組)。 
 「トリ」というのは、旋律の基本的な特徴のことだそうで、「朝鮮半島の民謡には、地方ごとの独特の『トリ』があることが知られている。いわば旋律上の『お国ぶり』である。」(植村幸生『韓国音楽探検』1998、音楽の友社)
 
 去年、21C 韓国音楽プロジェクト(HP)という創作国楽のコンクールで大賞を受賞したこのグループ、ハングルの文字をプリントした韓洋折衷の不思議な衣装を着て、田植え歌とパンソリ(春香伝)と舟歌をクラシック風のアカペラにアレンジした、不思議な歌を歌った。
 どこでも好きなところで合いの手(추임새 チュイムセ:얼씨구、좋다 など)を入れていいんですよ~と言われたけど、へんなところで掛け声(歌舞伎でいうと「○○屋!」みたいなものか)を掛けられて、調子が狂わないのかな。観客も参加していいのが、クラシックとの違いか。

 コンサートが終わって外に出ると、遠くからオペラのアリアが聞こえてくる。来た時とは反対に、国立国楽院からオペラハウス側を見下ろす格好に。

          
 
 オペラハウスの方へと降りていくと、音楽がだんだん近づいてきて、子どもたちが走り回る芝生の向こうに「世界音楽の噴水」があった。スピーカーから流れる音楽に合わせて噴水が踊っている。噴水ショーの時間は1日に4回あって、夜はライトアップされるそうだ。

          
 
 芸術の殿堂の敷地内には美術館もあって、ミュージアムショップで美しいお土産を買った。芸術の殿堂の全容は、日本語のこのサイトでよくわかります。http://www.konest.com/data/spot_mise_detail.html?no=1709
 国立国楽院のコンサートは、上記サイトにも紹介されている「土曜名品公演」がおすすめのもよう。機会があったら、ぜひ。