古庵の書斎 306 如意古庵
はや8月も終わり、まだまだ暑いと思っていたが、この暑さが懐かしくなるのももう少し。私たちにとっては8月も9月もなんら変わりありませんが、それでもなんとなく夏の終わりというのは寂しいものです。
例年ですと、庭木や生け垣の剪定をあらかた済ませているところですが、今年はまだ少しも手を入れていません。生け垣のかいずかは道にかなりせり出して歩道を狭めています。庭の紅葉もサザンカも伸び放題、この暑さではいっかなやる気が起きません。早く秋の涼しさが来ないかとと想う気持ちと夏の暑さを惜しむ気持ちと揺れています。
今回は奇しくもアメリカの話題ばかりとなりました。
○ 「フェイルセイフ」
その昔、朝日ジャーナルという週刊誌に連載された近未来仮想小説です。もう一度読みたいと思っていてなかなか実現しなかったものですが、今回やっと借り出して読みました。
アメリカ戦略空軍がちょっとした機械の故障で、誤った攻撃命令を出してしまうのです。6個のうち5個の編隊は引き返すのですが、1個の編隊(6機構成)はフェイルセイフ(この点を超えたら何があっても、誰の命令があっても予め設定された目標に向かわなければならない地点)を超えてソ連攻撃に向かいます。
気がついたアメリカ大統領は、ソ連首相に直接電話でその誤りを説明し、どんな防御をもってしても2機の爆撃機はモスクワに侵入し、4個の原子爆弾を落とすだろうと伝えます。そして、その攻撃が誤りであるということを証明するために、ニューヨークにも同時に4個の原子爆弾を落とすということで誠意を示そうとします。ソ連首相も了解します。
2人はモスクワとニューヨークの数百万の市民を犠牲にして、地球規模の全面戦争になるのを防ぐ決断をするのです。
数十年経って読んでも臨場感あふれるストーリーでした。
○ 服部君射殺事件20年
20年前、留学先のアメリカ・ルイジアナ州バトンルージュの住宅街で、ハロウィーンパーティーの日、招かれた会場の家を間違え、他の人の玄関敷地に入った。そして、「フリーズ」の警告に従わなかった服部君は銃で射殺された。これをどう見るか。
私はやむを得なかったと思う。平穏な夕方、夕食中かその後の家族の団らんを楽しんでいたところへ見ず知らずのアジア系の若者が奇声を発して飛び込んできたらその家族はどう思うか。恐怖を感ずるのはあり得ること。
置き換えてみるとよく分かる。私たちの平和な家庭に、突然髭を生やした中東系の若者が大声を発して飛び込んできたらと。
アメリカは自分の家はまず自分で守るという思想があり、そのために建国以来、各家庭には銃が保有されている。そこが日本と異なるところ。2億8、300万丁の銃が民間に出回っている。学校や教会等で銃の乱射事件が起こるのもむべなるかなである。
そこで凄いのは服部君の両親である。そのアメリカの銃の規制を求めて署名活動や大統領とも面会、時限立法ながら短銃規制法を成立させたのである。
私はこの服部君の両親(特にお母さん)と松本サリン事件第1通報者の河野義行さんを尊敬する。
○ 妊娠中絶、是か非か
今、大統領選挙に向けて共和・民主両党がしのぎを削っている。その争点の一つに妊娠中絶問題がある。日本ならまったく問題にならない事柄だが、かの国ではそうもいかないらしい。建国の大きな柱の一つにピューリタン精神がある。この宗派、自己の生活態度に非常に厳しいのである。妊娠中絶なんて飛んでも発奮である。
かってこんなこともあった。キリスト教の言い伝えの一つに「ノアの箱船」伝説がある。人類の堕落に怒った神は洪水を起こすのだが、品行方正なノア一族に箱船を造らせて助ける。こんな旧約聖書の時代の伝説を真実かどうかをテレビ討論の中で争われたのである。
日本で言えば、邪馬台国が北九州にあったか、畿内にあったかを選挙の討論でやりとりしているようなもの。それが当落に影響するというのだから何をか言わんやです。
アメリカという国は自由で民主主義の国と自他共に認めるところですが、こんな一面もあるのです。