バイロンはお好き?

バイロンを超現代的に解釈・注釈・日本語訳するブログ

「権力」の頂点の高みから溶けていった

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編
12
スアビア人が懇願し、今ではオーストリア人が統治している―
皇帝がひざまずいた場所を、ほかの皇帝が踏みつける。
王国は属領に縮み、王権によって治められた市は
鎖に繋がれている。国々は、陽光をしばしの間
感じたときに、「権力」の頂点の高みから
溶けていった。そして山腹から崩れていく
雪崩のように、下っていく。
ああ、ほんのひととき、盲目の老ダンドーロがいたならば!
齢八十を越えた総督、ビザンティウムの征服者よ!

原文
The Suabian sued, and now the Austrian reigns –
An Emperor tramples where an Emperor knelt;
Kingdoms are shrunk to provinces, and chains
Clank over sceptred cities, Nations melt
From Power’s high pinnacle, when they have felt
The sunshine for a while, and downward go
Like Lauwine loosened from the Mountain’s belt;
Oh for one hour of blind old Dandolo!
The Octogenarian Chief, Byzantium’s conquering foe!


Suabian:神聖ローマ皇帝フリードリヒ一世(Frederick I, c.1123-90) のことで、赤髭王(Barbarossa)と呼ばれた。 1177年に聖マルコ広場でローマ教皇アレクサンデル三世(Alexander III, 1105-81)に恭順を示して跪いた。
Suabia(Swabia)はドイツ南西部に位置する。
Astrarian:神聖ロー皇帝フランツ二世(Francis II, 1768-1835)
Dandolo:エンリコ・ダンドーロ(Enrico Dandolo, 1107?-1205)、ヴェネチアの総督。第4次十字軍の先頭に立ち、1203年コンスタンチノープル(Constantinople)を征服した。
lauwine:なだれ

アドリア海は、亡くした夫を悼む

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編


11
アドリア海は、亡くした夫を悼む。
年ごとの婚姻は今や繰り返されず、
ブチェンタウロの舟は、修復されぬまま腐って横たわり
それは、寡婦の放ったらかしにされた衣装だ。
聖マルコは、彼の獅子が昔いたままの場所に立っているのを見る、
誇り高い場所を見下ろしながら、しかしそれは
彼の衰えた力を嘲笑っているのだ。その場所は
皇帝が懇願し、君主たちが見つめて羨望した場所。ヴェネチアが
比類ない持参金を持っていた女王であったときに。

原文
The spouseless Adriatic mourns her lord;
And annual marriage now no more renewed,
The Bucentaur lies rotting unrestored,
Neglected Garment of her Widowhood!
St. Mark yet sees his Lion where he stood
Stand, but in mockery of his withered power,
Over the proud place where an Emperor sued,
And Monarchs gazed and envied in the hour
When Venice was a Queen with an unequalled Dower.


Bucentaur:ブチェンタウロはヴェネチア総督の座乗船。昇天節に指輪を海に投げ入れて、ヴェネチアとアドリア海との結婚の儀式を行った。


私が刈り取る茨は、私自身が植えた木のものだ

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編
10
死者が国民によって称えられる神殿から
私の名前を禁ずるならば―それでもよい―
より高貴な頭の上に月桂冠をかかげよ!
そしてスパルタ人の墓碑銘を私に与えてくれ―
「スパルタは彼よりも価値ある息子を多く生んだ」
今のところ、私は同情を求めないし、必要ともしない。
私が刈り取る茨は、私自身が植えた木のものだ。
それは私を切り裂き、私は血を流す。
あのような種からどんな果実が実るのか、知っておくべきだった。

原文
My name from out the temple where the dead
Are honoured by the Nations – let it be –
And light the Laurels on a loftier head!
And be the Spartan’s epitaph on me –
“Sparta hath many a worthier son than he.”
Meantime I seek no sympathies, nor need;
The thorns which I have reaped are of the tree
I planted: they have torn me, and I bleed:
I should have known what fruit would spring from such a seed.


Spartan:スパルタの名将ブラシダス(Brasidas)のこと。前422年、アテナイの植民地Amphipolisでアテナイ軍と対決し、勝利したが戦死。息子を称えられたブラシダスの母親は、上記の墓碑銘のごとく返答した。


私の霊は祖国に戻るだろう

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編

おそらく私は祖国を愛するだろう。祖国以外の
土地に私の灰を埋めるとしても、
私の霊は祖国に戻るだろう―肉体を離れて
安息の地を選べるならば。私は自分の国の言葉で
私の詩の一行で記憶されることに
希望を抱いている。もしその望みが愚かで途方もない
というのならば、もし私の名声が
私の運命と同様に、急いで成長して枯渇し、
そして心鈍らす「忘却」が

原文
Perhaps I loved it well: and should I lay
My ashes in a soil which is not mine,
Mine Spirit shall resume it – if we may
Unbodied choose a sanctuary. I twine
My hopes of being remembered in my line
With my land’s language: if too fond and far
These aspirations in their scope incline,
If my fame should be, as my fortunes are,
Of hasty growth and blight, and dull Oblivion bar


resume:再開する、再び用いる、取り戻す、回復する
sanctuary:神聖な場所、聖地、聖域、保護区、やすらぎの場所
twine:より合わせる、巻きつける、編む
aspiration:熱望、大志、目標
scope:範囲、領域、目的


「賢く自由な民の神聖な島国」

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編

私は他国の言葉を学んだ。そして異国の人々の目に
よそ者に見えないようになった。そして尋常な「精神」は
どのような変化にも驚くことはない。
人がいる国、そうだ、あるいはいない国を作るのは
苛酷なことではないし、それらを見つけることも難しくはない。
それでも私は、その国に生まれたことを誇りに思うような国
―その理由がなくもない―に生まれた。もしも私が
「賢く自由な民の神聖な島国」を後にして、
海のかなたに住まいを探し求めるとしても、

原文
I’ve taught me other tongues, and in strange eyes
Have made me not a stranger; to the Mind
Which is itself, no changes bring surprise;
Nor is it harsh to make, nor hard to find
A Country with – aye, or without mankind;
Yet was I born where Men are proud to be –
Not without cause; and should I leave behind
The inviolate Island of the Sage and Free,
And seek me out a home by a remoter sea,


harsh:苛酷な、厳しい、無情な、洗練を欠く、粗暴な、ざらざらした
inviolate:神聖な、汚されていない

「真実」のように現れ―そして夢のように消えた

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編

私はそのようなものを見た、あるいは夢を見た―しかしもうそれはよい、
それらは「真実」のように現れ―そして夢のように消えた。
それが何であったにせよ―今となっては、そのようなものではなくなった。
そうしようと思えば、それらを取り戻すこともできるだろう。いまでも
私の「精神」は、私がまさに求めていた、そして時には
見つけたと思える様々な形で満ちている。
これらももういらない―目覚めている「理性」は
そのように過度な空想を不健全であると考える。
そして他の声が話し、他の光景が取り囲む。

原文
I saw or dreamed of such – but let them go;
They came like Truth – and disappeared like dreams;
And whatsoe’er they were – are now but so:
I could replace them if I would; still teems
My Mind with many a form which aptly seems
Such as I sought for, and at moments found;
Let these too go – for waking Reason deems
Such overweening Phantasies unsound,
And other voices speak, and other sights surround.


teem:満ちている、あふれるほどある
overweening: 過度の、自負心の強い、傲慢な
unsound:不健全な、根拠の薄弱な、信用できない

青白い情感が、多くの書物を埋める

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編

そのように若者と老人は逃避する、
まずは「希望」から、終わりには「空虚」から。
そしてこの青白い情感が、多くの書物を埋める。
そしておそらくは、私が今、書き連ねているものをも。
それでも、その力強い「現実」が
我われの空想の国よりも輝くものがある。その形も色合いも
我われの想像上の空よりもずっと美しく
そして詩神が、その途方もない世界の上に
巧みにまき散らす不可思議な星座よりも美しい。

原文
Such is the refuge of our youth and age,
The first from Hope, the last from Vacancy;
And this wan feeling peoples many a page,
And, maybe, that which grows beneath mine eye:
Yet there are things whose strong Reality
Outshines our fairy-land; in shape and hues
More beautiful than our fantastic sky,
And the strange Constellations which the Muse
O’er her wild Universe is skilful to diffuse:


wan:青ざめた、かすかな、力のない、無駄な
page:ページ、文書、書物、記録、《人生の》挿話
outshine:~より輝く、~より優秀である
diffuse:散らす、放散する、発散する、広める


精神の存在は、肉体のそれと同じではない

2012年10月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第4編

精神の存在は、肉体のそれと同じではない。
本質的に不滅であるので、それは我われのうちに
より明るい光と、より愛すべき存在を創造し
積み重ねる。この必滅に縛られた状態にあって、
「運命」が退屈な人生に禁ずるものは、
これらの霊を与えられて、我われが憎むものを
まず追放し、つぎに取って代わる。
早咲きの花々が枯れてしまった心に水をまき
新しく伸び出ずるもので、隙間を再び満たす。

原文
The Beings of the Mind are not of Clay;
Essentially immortal, they create
And multiply in us a brighter ray
And more beloved existence: that which Fate
Prohibits to dull life, in this our state
Of mortal bondage, by these Spirits supplied,
First exiles, then replaces what we hate;
Watering the heart whose early flowers have died,
And with a fresher growth replenishing the void.


clay:土、肉体
dull:鈍感な、活気がない、どんよりした、沈滞した
replace:取って代わる、取り替える、交換する、戻す
fresh:新しい、生きのよい、新鮮な、はつらつとした
replenish:満たす、補充する、埋め合わせる